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第五話『WSOPに出たいのです』

◆【Queens店内】
晃「凄いな……」
パソコンを広げながら、思わず呟いた。
WSOPチケット先行販売30枚。
1枚110万円と超高額な値段の商品は、発売後わずか60秒で完売した。

客「あれあれ店長さん。まさかチケット買えなかったとか?」
晃「ボクは招待プレイヤーですよ。一応これでもJPSPなんで」
日本上位プレイヤー。端的に言えば日本のポーカープロ。

国内・国外問わず活躍した上位プレイヤーに与えられる国内最高の称号。
その最上位プレイヤーの中で僅か4名のみに与えられた称号。

それをJPSPと呼ぶ。

客「あー、楽しみだなー!」
市内で最も人気のあるポーカーBAR『Queens』では連日連夜この話題で持ちきりだった。

千尋「……」
客「あれ、どうしたの千尋ちゃん」
千尋「なんでもないです」
晃「千尋、買えなくて機嫌悪いんですよ」
客「えええええ!? 出るつもりなの!? 千尋ちゃん、まだ学園生でしょ?」
千尋「出るです」

一番の理想は、主催者から譲ってもらうこと。
幸いにも風雪学院の学園長、風雪木葉が主催する大会だ。風雪学園に通っている以上、仲良くなれればチャンスはある。
もちろん期待はしていない。ダメな場合はダリアさんに手配してくれないか頼める。そこは正直期待していたんだが……。

客「最近、ダリアさん来ないね」
晃「今日本にお客さんが来ているみたいで忙しいんだって」
客「え、だれだれ? ダリアさんが相手しているって超大物じゃない?」
晃「まさかアマヤとかハルトムート・アインホルンとか?」
客「レインとかキニー・ブラウンとか?」
お互いノリノリだったのに「無い無い」と笑い飛ばす。

千尋「店長。給料アップしてほしいです。100万円」
晃「子供にはまだ早いからやめときなさい」
客「千尋ちゃん、この間100万円貯めたって言ってたじゃない」
晃「うわー、身銭切れないならポーカープレイヤーじゃないな」
どいつもこいつもうるさいです……!

ネットでチケットを買えれば万々歳。
怖いのは転売。
110万円の価値のチケットが120万、140万と青天井に釣り上がっていけば万単位の金でやりとりしている学園生の千尋には苦しくなっていく。

千尋「店長。今晩暇ですか?」
晃「お? デートの誘いはダメだ。今新婚でラブラブだからさ」
千尋「WENS CASINO行きたいです」
客「あはは、店長眼中ないって」
晃「あー、それなんだけどな。千尋ちゃん。それと田中さん達も」

晃「WENS CASINOには、絶対に行かないでください」

客「噂の強いっていう外人だろ。ラシェルだっけ。みっちーもやられたって言っていたな」
千尋「レートは幾らです?」
晃「千尋」
厳しく短く、釘を刺す。

晃「ダリアさんからの通達だ。ラシェル・オンドリィっていうのは今の日本人じゃほぼ勝ち目がないから近づくなって」
客「JPSPの須藤晃様でも?」
晃「そんな特別な事じゃない。オレもポーカー一本で海外生活できたが確かに化物はゴロゴロ居た。ダリアさんでも避けるみたいだからその類なんだろう」
千尋「……」
晃「恐らく、偽名だろうな。この時期に日本に潜伏して稼いでるってことは目的は――」
千尋「WSOP」
晃「そう」
だから?

そんな化物が出るなら100万円無駄になるから? WSOPもWENSも諦めろって言うです?
バカですよ店長。

身銭切れないならポーカープレイヤーじゃないって今言ったです。
客「ちょっとだけ顔見に行こうと思ったけど、それならオレもやめとくか」
千尋「……」
WSOPには出る。絶対にです。

ただ資金集めでラシェルに奪い尽くされれば元も子もないのは確かだ。
同時にそれだけの実力者ならかなりのハイレートも期待できるです。

千尋「ラシェル……」
客「はは、この子納得していないよ店長」
晃「ちーひーろーちゃん。頼むから言うこと聞いてよ」
千尋「……」
ラシェル……どうする……!
晃「自分より格上に向かっていくのはポーカープレイヤーとしてもあるまじき行為だぞ」
千尋「……」

この後、幾ら必要なのかもわからない。
金額がわからない以上、必要以上にリスクは負うべきじゃないのも確かだ。

千尋「わかったです」
ため息混じりに、諦めた。

千尋「ラシェル・オンドリィは見逃すです」

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