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第1章12話:ルチル商会の成長


アリアはさっそく10億ディリンを使って店を拡大し始めた。

トマトケチャップの店を増やし……

マヨネーズ、ドレッシングの店を新たに開店して。

さらに領都だけでなく王都にも、支店を建設。

大規模に商売を展開したのだった。

……結果。

これらの調味料は空前の大ブームを巻き起こした。

貴族から庶民まで、新しい調味料に強く魅了された。

トマトケチャップ、マヨネーズ、ドレッシングは完全に人々の食卓に定着。

三大調味料と呼ばれるまでになった。

当然、それを開発したルチルの名も広まり、貴族社会でも一目置かれるようになっていった。






<ルーガ視点>

その翌年。

雪解けの春。

屋敷の執務室。

ルチルの父母である二人が、話し合っていた。

「ルチルは、素晴らしい才能に恵まれたな」

ルーガはしみじみと告げた。

この2年間で、ルチルに対する賞賛をあちこちで聞くようになった。

もちろん、調味料を開発した功績について……だ。

トマトケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング。

これらは宮廷料理や社交パーティーにさえ提供されることも、もはや当たり前となっている。

ちなみに貴族の料理関係者の中には、ルチルへの熱狂的なファンも多い。

公爵家お抱えの料理長も、ルチルにはすっかり尊敬の眼差しを送っていた。

「まさか調味料一つで、ここまで賛美されようとは」

「ルチルの調味料は、お世辞抜きで素晴らしいもの。私もすっかり(とりこ)になってしまいました」

「まあ、そうだな」

確かにトマトケチャップやマヨネーズは素晴らしい。

これらの需要は、家庭の食卓だけに留まらない。

たとえば飲食店の店主もまた、ルチルの調味料を使った料理を作り始めている。

こうして生まれた料理の一例が、マヨネーズパンだ。

パンにマヨネーズをかけるだけ、というシンプルな料理だが絶大な人気を博した。

そしてそういう料理が人気になればなるほど、連動してマヨネーズも売れていくという按配(あんばい)だ。

―――調味料の製法を、ルチル商会は公開していない。

したがってケチャップやマヨネーズが欲しいなら、ルチル商会から購入するしかない。

これによりルチル商会は、調味料の利益を独占し、莫大な利益をあげ……

いま公爵領はおろか、王都でも最も勢いのある新興商会として注目されているのだ。

「これほど売れてしまうと、大商人からの妨害を受けたりはしないものか」

「その心配はないでしょう。公爵令嬢を敵に回したい商人など、そう多くはありませんよ」

ルチルが作った調味料の凄まじい人気ぶり。

商会を立ち上げてわずか2年で、すでに中堅商会と呼べる規模にまで至ろうとしている。

驚くべき急成長だ。

しかもその成長はいまだ天井が見えない。

ゆくゆくルチルは、大商人の仲間入りを果たすことは間違いない。

その過程で、既存の利権をおびやかすこともあるだろう。

だが、大商人たちでさえルチル商会の妨害はできない。

なぜなら、相手はルチル……公爵令嬢だ。

ルチルに敵対することは、公爵家を敵に回すことと同義である。

しかもただの公爵家ではなく、ミアストーン家は軍の名家。

商人ごときに敵対できるわけがない。

現状、商人たちは、ルチル商会の台頭を警戒すれど、実質的には黙認するしかないのであった。


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