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第1章4話:ルーガの視点


<ルーガの視点>

―――公爵家の執務室。昼。

備えられたソファーに二人の男女が座る。

一人は公爵家当主ルーガ。ルチルの父である。

一人はその妻ラティーヌ。ルチルの母である。

ソファーのそばには2人の家庭教師たちが立っていた。

現在、ルチルの教育に関する報告を行っているところだった。

「ルチル様は非常に聡明(そうめい)でございます」

学問担当の家庭教師はそう述べ、続けた。

「読み書きや外国語の習熟は速いですし、ことに算学に関しては高い適性を見せています。質問もするどく、実力を測るテストでも誤答したことがありません」

その報告に、ルーガは感心の声をもらす。

「ほう。わが娘は算術が得意ということか」

「はい。その分野においては間違いなく才能がおありかと存じます」

「なるほど、よくわかった。では次―――魔法についてはどうだ?」

ルーガは、魔法担当の家庭教師に報告をするよう求める。

「はい。魔法に関しても、ルチル様は優秀の一言に尽きますな。教えたことはすぐに実践できますし、常に応用を考えておられる。1年かけて学ぶようなカリキュラムを予定していましたが、前倒(まえだお)しして、現在は3ヶ月で学んでいただこうと考えています」

「ふむ。わが娘はそれほどか?」

「逸材であると、私は確信しております」

「なるほど」

魔法教師の言葉に、ルーガは満足げにうなった。

結論として、どの教師から見てもルチルは優秀とのことだ。

そのときラティーヌも述べる。

「わたくしの目から見てもルチルは傑物だと思います」

ラティーヌは自身の体験を語った。

そのうえで告げた。

「ルチルは、私たちよりも優秀かもしれませんね」

「ふむ。それなら、今年にも軍事訓練を受けさせてもいいかもしれんな」

ルーガはそう意気込んだ。

実は、公爵家は軍事をつかさどる名家である。

ルーガはもちろん軍人であるし、ルチルを軍人令嬢として育てるつもりでもあった。

軍とは血筋ではない。

実力が全てだ。

ルチルに秀でた才覚があるなら、早くに軍に馴染ませ、女軍人としての実力を身につけさせたいと考えていた。

しかし。

「さすがにまだ早いでしょう」

ラティーヌはそう苦言を呈した。

ルチルを軍人として育てることには反対しない。

しかし、時期を考えなければならない。

いくらルチルが優秀だとしても、早すぎる英才教育はゆがみを生むと思えた。

「お気持ちはわかりますが、焦らず、地道に力をつけさせていけばよろしいかと思います」

「ふむ、そうか。そうだな」

妻の進言に、ルーガは同意した。

いずれにせよ、二人の夫婦は、娘の将来に大きな期待を寄せるのだった。





しかしルーガもラティーヌも、まだ知らなかった。

ルチルの秘めたポテンシャルは、優秀などという言葉では留まらないということを。

そして、やがて王国はおろか大陸中に、彼女の名が知れ渡るほどになるということを。

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