第181話 田舎直送野菜
「そうよ……ねえ、あくまで理想だから。フィクションだから。実在のカウラ・ベルガー大尉とも日野かえで少佐とも関係ないから。企画、シナリオ担当の私が言うんだから間違いないわ。これはお遊び。分かった?」
言い訳がましくアメリアはそう言ってなんとかその場を取り繕うとした。
「誠の理想はベルガー大尉なの?ちょっと望みが高すぎない?かえでさんは……あの人はちょっと変わってるから誠にはちょうどいいかもしれないけど」
薫は終始笑顔で慌てるアメリアと誠を見守っていた。アメリアは必死にごまかそうとした。誠はただ苦笑いを浮かべるだけだった。
『ゲームの話。薫さんが落ちを付けてくれたところで……アタシの話の方は良いか?』
ようやく切り出せると言う感じでランが口を開いた。アメリアはとりあえず気を静めようとグラスのスパーリングワインを飲み干した。
「サラちゃんの歓迎でしょ?まあこういう時は……」
自分にとって都合のいいタイミングで割り込んでくれたランに感謝するようにアメリアはそう言って話題を完全に『特殊な部隊』での野菜収穫についての話に持って行こうとした。その見事な切り替えにしばらく呆けていたカウラが我に返るのが誠から見てもおかしかった。
「サラの野菜が手に入るならいいんじゃないのか?薫さん、欲しい野菜は?」
アメリアは自分に都合の悪い記憶をカウラから消し去ろうと必死になって話題を薫に振った。
「ええと、クワイはまだ買ってないでしょ。次にレンコンも無い。ごぼうはたたきごぼうにするから結構数が欲しいかもしれないわね」
あまりに悲壮感漂う雰囲気のアメリアに声をかけられて驚いたように薫は足りない野菜を数え始めた。
『ああ、それなら後で一覧をメールしてくれねーかな。整備班の連中やかえでの猟友会のつての食材なんかに当てはまるのがあるようなら用意しとくから』
「良いんですの?」
薫はしばらく小さい子供にしか見えないランを見つめた。じっと薫に見つめられて困ったような表情でランはおずおずと頷いた。
「じゃあこれくらいで良いでしょ?切りますよー」
『おい……それ』
続いて何かを言おうとしたランを無視してアメリアは通信を切った。まるで何かを隠そうとしているような彼女の表情にカウラは何かの疑いを持った視線を浴びせ続けた。