第182話 誕生日の風景
「じゃあ……ケーキを切ってと……」
そう言って落ち着きを取り戻したアメリアは立ち上がった。カウラは相変わらずアメリアを監視するような視線で見つめていた。
「おいおい、一応パーティーなんだぜ。そんなに真面目な面でじろじろアメリアを見るなよ」
かなめはいつも飲んでいる蒸留酒に比べてアルコールの少ないワインに飽きているようだった。
「皆さん遠慮しないで食べてね。でも本当に不思議よね、このお肉。ただヨーグルトに漬けただけなのにやわらかくて香りがあって……」
食事を勧めつつ、薫はなんでも『特殊な部隊』にかつて居た西モスレムのエースが残したと言うレシピに基づいて作ったタンドリーチキンを口に運んだ。誠も一段落着いたというように、タンドリーチキンにかぶりついた。
「ちょっと誠ちゃん!テーブルの上のケーキとって!」
台所の流しでアメリアが叫んだ。
「こっちで切りゃいいだろ!」
「カウラちゃんのドレスにケーキのクリームが飛んだら大変でしょ?安全策よ」
そう言うとアメリアは誠を見つめた。仕方なく誠はそのままテーブルの中央に置かれたケーキを持ってアメリアが包丁を構えている流しに向かった。
「おい……神前。全然飲んでねえじゃないか」
かなめはそう言うとワインのボトルを手に立ち上がった。いつもよりペースが遅いかなめならいつものように誠の酒に細工をするようなことは無いと誠は安心していた。そしてそのまま手にしたケーキをアメリアに手渡した。
「ありがと。カウラちゃん!どれくらい食べる……って!かなめちゃん!」
アメリアの叫び声。誠が振り返った。
そこには手にしたワインの瓶の口をカウラの顔面に押し付けようとするかなめの姿があった。