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第180話 アメリアがすべてを台無しに

「あれってアタシに『こんなゲームはこれまでに無いわよ!』とか言ってきた奴じゃなかったか?高校生のうだつのあがらない主人公が、女魔族に自分が魔王の魂を持っていることを告げられて、その女魔族を付き従えてこの世界のいろんなことを一から教育していくと言う展開の物語って奴。いわゆる典型的なエロゲのシチュエーションだな。アタシから見てもありがちだと思ってたんだ。で、いくらで売ったんだ?神前の原画は同人業界では人気みたいだから結構数は出ただろ?あれだけありがちな展開だったら安くしたんだろ?で、どうなんだ?」 

 かなめはたぶんデバックか何かを頼まれたんだろう。したり顔で話を続けようとした。

「ちょっとたんま!お願い!勘弁して!薫さんもいるんだから!」

 アメリアは内容を知り尽くしているらしいかなめの発言が自分の都合の悪い方向に向かうのを避けようと必死になって叫んだ。

「え?私は別にいいわよ。誠も結構そう言うゲームやってたわよねえ。お母さんが知らないと思ってたの?知ってたわよ、誠のゲームのコレクションくらい」 

 薫の言葉にさらにアメリアが慌てふためいた。そんな状況を母、薫はうれしそうに見ていた。誠はゲーム収集についてはばれているだろうと思いながらも大っぴらに言われると誠は恥ずかしさでうつむいた。かなめはここぞとばかりにアメリアと誠をいじるべくさらに何を言おうかと考えをめぐらした。

「それは興味深いな。その女魔族が私……で?その主人公はこの社会の常識をどのようにその女魔族に教えたのかな?気になるところだな」 

 カウラはアメリアと一緒にこの手のゲームをやることに付き合わされて大体こういう時は主人公はろくな常識を教えないと学習しているので、そう言ってアメリアをにらみつけた。

 台本を書いたアメリアが黙り込んでその回答を拒否する様子を見て取ると、アメリアに聞くだけ無駄だと思ったようにカウラが今度はかなめに顔を向けた。かなめは明らかに誠を困らせようという顔をして話をつづけた。

「まあ最初はSの香りが微塵も無い普通の高校生の主人公が、このどう見ても顔はカウラと言うヒロインのドMな魔族に手ほどきを受けて立派なサディストに育てていくわけだ。まああれだな。丁度かえでが神前にやろうとしていることだな。アイツも東和の常識を知らねえみたいだから、神前、『許婚』なら教えてやったら喜ぶんじゃねえか?ああ、その時に童貞も捨てられるな。一石二鳥だ」 

 かなめは明らかに誠とアメリアへの嫌がらせの為にゲームの説明をした。アメリアはうつむいたまま動かなくなり、誠はただ愛想笑いを浮かべて怒りに肩を震わせるカウラを見守っていた。

「あー!あー!聞こえない!」 

 顔を上げたアメリアが突然大声で叫んだ。誠はただ乾いた笑いを浮かべるしかなかった。

「つまり……そのマゾヒストの魔族のイメージがこいつの頭の中にはあるわけだ……しかもカウラの顔で。ああ、そう言えばあの魔族は胸がでかかったなあ。やっぱ、神前はかえでの『許婚』にふさわしいわ。立派なサディストとしてアタシの代わりにかえでを調教してやってくれ。アタシもアイツで遊ぶのに飽きてきたところだ」 

 かなめはそう言って笑い始めた。誠はカウラの軽蔑するような視線が自分に突き刺さるのをひしひしと感じていた。

 もうこうなったら現実から逃避しようと誰が見ていようが関係なくアメリアは携帯端末を取り出してゲームをはじめる。彼女に伝授されそう言う系統のゲームがどう展開するのかカウラも知り尽くしていた。しかもアメリアの趣味に男性向け、女性向けと言うくくりは関係が無いものだった。

「ああ、しかもヒロインの登場場面は全裸じゃなかったっけ?あれも全部誠が描いたんだよなあ」 

 大笑いを終えたかなめが最後にそう付け加えた。

「へえ、そうなのか……全裸か……日野少佐なら喜んで神前の前で神前に命じられれば裸になるだろうな」 

 カウラの表情が次第に凍り付いていった。画面では他人事という安心感を前面に押し出しているようないい顔のランが映っていた。

「さ!プレゼントは片付けましょ!食事を楽しまないと。ねえ、かなめちゃんも雰囲気を変えて……そうだ!ケーキを切りましょうか?あ?ナイフが無い。それなら私が……」 

 アメリアは慌てふためいてしゃべり続けた。だが、カウラの鋭い視線が立ち上がろうとするアメリアに向かった。

「逃げる気か?」 

 低音。カウラの声としては珍しいほど低い声が響いてアメリアはそのまま椅子から動けなくなった。

「でも……アメリアさんが理想の女性を描けばいいのよって言ってましたから……」 

 ポツリとつぶやいた誠の一言が本音として吐かれた。

 それが場の空気を一気に変える事になった。カウラの頬が一気に朱に染まり、それまでびんびん感じられていた殺気が空気が抜けた風船のようにしぼんでいった。一方で舌打ちでもしそうな苦い表情を浮かべていたのはかなめだった。

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