第146話 かなめのいら立ち
「おいカウラ」
「なんだ?」
「このままオメエの車にある拳銃持って来てくれないかな?この警察署を襲撃したいんだけど。東都警察の連中、どいつもこいつも気に入らねえ。今すぐにでも全員射殺してやる」
かなめはいつもの調子で怒りをあらわにしてそう吐き捨てるように言った。
「冗談はそのタレ目だけにしろ。向こうも仕事でやってるんだ。貴様の様に半分趣味で事件対応をしている訳じゃない。それに東都警察の銃の使用規定は我々よりかなり厳しい。そのくらいのことは理解しろ。貴様も大人なんだろ?」
すでに日は沈んでいた。西の空のあかね色が誠とかなめ、そしてカウラの頬を染めていた。通り魔を捕まえた三人はそのまま所轄の警察署に連れて行かれ、法術特捜の主席捜査官である嵯峨茜警視正が来るまでの間、取調室に拘束されていた。
「はぁー!腹立つ!アイツ等、茜が来るとまるで掌返したみてえに態度を変えやがった!そんなにアタシ等が悪人面に見えるのか?アタシ等が事件を解決してやったんだぞ!茜は何にもしてねえのに警部が来るとなると……警察も軍と同じで階級がすべてって話か?それならアタシも大尉だ。ちゃんと将校らしく扱え。あれじゃあアタシ等が容疑者だ」
入り口を出て振り返り物騒な言葉を並べ立てる女性を目にして、制服姿の警察官達はいぶかしげに三人を眺めながら忙しそうに出入りを繰り返した。
「怒ってどうにかなる話じゃないだろ?それにあちらも仕事だ。職務執行中の警察官から拳銃を取り上げて良いと言う職務規定は、同盟司法局には無いからな。我々のしたことは緊急事態とは言え明らかな越権行為だ。始末書にならなかっただけ感謝すべきだな」
そう言うとそのままカウラは急ぎ足で大通りに向かう道を歩き始めた。置いていかれると思ったのか、愚痴を続けていたかなめも彼女の後を早足で追った。誠はそんな二人を眺めながらただおろおろしながら付いていくだけだった。
「そりゃそうなんだけどさあ。あの時、アタシ等ができる最善の行動はあれ以外に無かったのは事実だろ?機動隊の到着まで待ってたらいつまで時間がかかるか分かんねえぞ。それにあの兄ちゃんも銃の使い方に慣れてくるかもしれねえ。そうなったら本当に人質は死んでたぞ」
かなめの怒りはとどまることを知らなかった。
「だが規則は規則だ。あちらだって最後には茜に頭を下げてたじゃないか。向こうも口には出せないが我々の行動に感謝しているはずだ。東都警察と言う看板を背負っている手前それが出来ないんだ。貴様も組織人ならそれくらいの事は理解しろ」
カウラの言葉にかなめは子供のように頬を膨らませた。誠はなだめようとするが、目の前に銀色の車が飛び出してきたのに驚いて飛びのいた。