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いざ王都へ 3

 朝になり、ムツヤ達は目を覚ます。全員で集まって朝食を摂り終えると、アシノは着替えをした。

「あらー、似合ってるじゃない。勇者アシノ」

 ルーはクスクス笑いながら言った。普段の服装とは違い、勇者アシノ全盛期時代の鎧を身にまとっている。

「あのクソ女神は体力まで奪っていきやがったから、疲れるんだよなこれ」

 アシノは気乗りでなかったが、これが正装であるので仕方がない。

「それで、最後に確認だが、キエーウは殆ど私が一人で倒したことになっている。そして、私の能力は誰に聞かれても口止めされていると言うんだ」

「分かってるわよー」

「お前が1番ヘマしそうで怖いんだがな」

 アシノは自信満々のルーにため息をついた。

「お前達は戦いの仲間というよりも、私の身の回りの世話をしていたという事にしてある。すまんな」

 共に戦い。いや、自分よりも戦いで功績を残した仲間をこんな扱いにしてしまうのは心が痛むが、全てを丸く収めるためだ。

「はい、大丈夫です」

「わがりまじだ!」

「はい、心得ています」

 ユモト、ムツヤ、モモは嫌な顔せず返事をしてくれた。ヨーリィは黙ったままだが問題ないだろう。

「よし、それじゃさっさと城に行って帰るぞ」

 ホテルの外へ出ると鎧姿のアシノを見て道行く人々は思わず立ち止まる。キエーウを倒した勇者アシノの表彰は告知されているので王都中の人間が知っていた。

「アシノ、注目の的ね」

「うるさい」

「言葉遣いに気を付けないと、勇者アシノ?」

 ルーがニヤニヤ笑って言う。人の目が無ければいつもみたいに頭を引っ叩いている所だった。

「アシノ様ー!!!」

 小さな女の子がアシノに手を振る。普段見せないような優しい顔をしてアシノは手を振り返していた。

「みんな、勇者の姿を目に焼き付けておくのよ」

「後で覚えておけよ」

 ルーに対してアシノは小声で言う。城に着くまでアシノは行き交う人々の注目の的だ。

 今日は城の中庭が開放されている。城の前は人々でごった返していた。キエーウ絡みだからだろうか、亜人が多い気がしなくもない。

 アシノ達が近付くと大きなざわめきが起こった。

「おい、見ろよ。勇者アシノじゃねーの?」

「本当だ、勇者アシノだ!!」

 湧き上がる歓声と拍手。アシノは顔が真っ赤になっている。

 目を伏せて城の衛兵の前まで行くと「お待ちしておりました」と言われ、関係者用の通路に通される。

 ひんやりと暗い通路を通り抜けると、立派な服装をした老人が待っていた。

「この度はご足労いただき誠に感謝します勇者アシノ殿。そして、お連れの皆様方。この国の大臣を務めさせて頂いています『イグチ』と申します」

 イグチと名乗る大臣の男は深々と礼をする。思わずムツヤ達も頭を下げ返した。

「私こそお呼びいただきこの身に余る光栄でございます」

「アシノ様のお部屋を用意してございますのでそちらでお待ちいただけますか? お連れの皆様は特等席をご用意してあります」

「かしこまりました」

「では、こちらへ」

 アシノは大臣に連れられ奥へと消えていく。ムツヤ達は衛兵によって観客席の王の席に近い場所に案内される。

「こりゃいいわね、まさしく特等席だわ。ここでアシノの勇姿を笑っ…… 見てあげましょう」

「ルー殿……」

 モモは呆れ気味に言った。

 城の中に人が溢れていく様をムツヤ達は特等席から見下ろす。

「こんなにたくさんの人初めて見ました」

「そうですね。私も初めてです」

「僕もです」

 そんな話をしていると、ムツヤ達は声を掛けられた。

「失礼ですが、勇者アシノ様のお仲間の方ですか?」

「えぇ、そうですが」

 ルーが普段と違う猫をかぶった態度で対応する。

「この度の素晴らしいご活躍お伺いしております。私この国の議員の『カタオカ』と申します」

 カタオカと名乗る男はルーに握手を求め、それに応じた。

「私は召喚術師のルーと申します。よろしくお願いいたします」

 手を離すとカタオカは続けて話し始める。

「キエーウは我が国の平和を乱す大きな問題の1つでした。アシノ様と皆様のご活躍により、この国の亜人達も安心して暮らすことが出来るでしょう」

「いえいえ、私達は勇者アシノに付いていっただけですので」

「またまたご謙遜を……」

 ここで城中に設置された魔法の声量増幅装置から声が聞こえた。

「只今より、勇者アシノ様へ勲章の贈呈式を行います」

「あぁ、始まるみたいですね。私はこれで失礼します」

「はい、それでは」

 ルーとカタオカが別れの挨拶をすると同時に、また大きな声が響く。

「それでは、恐れ多くも我が国の偉大なる王のご入場です」

 会場に歓声と拍手が巻き起こり。ムツヤ達も立ち上がり拍手をする。

 王はムツヤ達が会場に入った場所と同じ所から入場した。

 周りには誰が見ても強そうな近衛兵が居る。

 三階席の中央まで歩くと大きく手を揚げた。するとまた割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。

 衛兵が声量増幅装置を用意すると、王は口を開く。

「今日は皆集まってくれて感謝する。只今より勇者アシノの功績を讃え、勲章を送りたいと思う」

 短めの挨拶を済ますと、王は着席した。

「王よりのお言葉を頂戴いたしました。それでは勇者アシノ様のご入場です!!」

 歓声に迎えられてアシノが姿を表した。鎧を身にまとい威風堂々といった感じで歩いている。




 その時だった。会場のあちこちで爆発音が聞こえた。

 最初は派手な演出かと考えてみた民衆だったが、空を飛ぶ人間を見て戦慄した。

 その空を飛ぶ人間は右手を上空にかざして。振りかざした。

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