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魔人 1

 辺りに光の剣が降り始める。群衆からは悲鳴が上がった。アシノとムツヤ達はそれを見上げる。

「王、お逃げ下さい!!」

 近衛兵は王の前に立ちはだかり剣を構えた。ムツヤは観客席から飛び降りて、天高く飛び上がる。

 剣を抜いて空を飛ぶ人間に斬りかかった。魔剣ムゲンジゴクでかすめたフード付きのマントが燃え上がり、正体が見える。

「っ!! ドエロスミス将軍!?」

 ルーが声を上げた。間違いない。ルーの故郷であるイタガを襲った魔人だ。

「お久しぶりですね、皆さん。それと私の名はギュウドーだ!! 二度と間違えるな!!」

「お前!!」

 アシノは目を丸くする。

「いやぁ、やっと体が馴染んできたのでね。ちょっと国でも滅ぼそうかと思いましてね」

 ムツヤの脚力でも届かない位置まで飛び、まるでちょっとした用事を片付けるかのように、魔人ギュウドーは国に宣戦布告をした。

「ふざけるな!!」

 アシノが見上げて叫ぶ間にも、光の剣を降らせ続ける。パニックになった群衆は将棋倒しのようになっていた。

「この国は戦争をしたがっていると聞き及んでいます。ならば、私と戦争をしましょう」

 ギュウドーはニヤリと笑いながら言う。

「私は楽しみたいのですよ、このまま国を滅ぼしてもつまらない。全力で抵抗なさって下さい」

「轟け雷鳴よ」

 近衛兵と思われる魔女がギュウドーに向けて雷を打ち上げるが、それはひらりとかわされてしまう。

「ほう、ムツヤさん以外にも結構な腕を持つ方もいらっしゃるじゃないですか。これは楽しみだ」

 そう言い残してギュウドーは飛び去っていった。群衆には重軽傷者が多数出ている。

「アシノ殿、かの者は……」

 さきほど魔法を打ち上げた魔女が走り寄ってそう尋ねた。

「奴は魔人です。イタガを襲った……」

 魔人と聞いてやはりか、と魔女は空を見上げる。

 観客は衛兵の案内で外へと避難させられた。ムツヤ達は上からその様子を見ることしか出来ない。

「アシノ殿、王が緊急のお話があると」

 王を避難させ、大きな剣を持つ近衛兵が直々にアシノの元までやって来た。

「えぇ、わかりました」

「それと。旅のお仲間の方々にもお話を伺いたいと……」

 まずいなとアシノは思った。おそらく魔人と、飛び上がったムツヤのことを尋ねられると。

 しかし、拒否権はない。

「わかりました。すぐに参ります」

 アシノ達は衛兵に連れられて城の中へと入ると、立派な扉を抜けて玉座の間へと踏み入った。

 勲章を授与するということもあり、ちょうど国のお偉いさん方も集まっている。

 そんな中で、王が口を開いた。

「さて、勇者アシノよ。単刀直入に聞きたい。あの魔人は何者だ」

「私にも分かりません。ただ、イタガで戦ったということは事実です」

 ふむ、と王は目を閉じる。

「そして、先程飛び上がったその者は何者だ?」

 王はムツヤを見据えて言う。来たかとアシノ達は思った。

「かの者はムツヤ・バックカントリーと言います。極東の地の腕利きの冒険者で、訳あって私と旅をしておりました」

「そうか、まぁ今は深く詮索することはよそう。それよりも魔人の対策を早急に考えねばなるまい」

 王は手を組んで少し身を前に乗り出す。そこに大臣のイグチが発言をした。

「やはり、各地に散らばる勇者たちを集めることが最優先かと」

「余もそう考えておる。勇者達を集め、魔人に対抗をするべきだと」

 王が言うとイグチは小さく頷いて言う。

「それでは早速、勇者達に使いの者を送ります」

「頼んだ」

 一礼してイグチは衛兵を見る。目だけで会話をすると衛兵は扉の外へと立ち去る。

「勇者アシノよ。お前には勇者達が集まるまでこの王都ツノミヤを守って欲しい」

「もちろんでございます。王」

 アシノは敬礼をして言った。ルーが皆に真似するように耳打ちすると、ムツヤ達も習って敬礼をする。

 ムツヤ達は急遽、城の一室を用意された。他の勇者が王都へ到達するまでの間城を守って欲しいとの事だ。

 音の妨害魔法を張った後、鎧を脱いだアシノはドカッと椅子に座った。

「さてと、面倒なことになったな」

「軽く言ってくれるわね。魔人にムツヤっちの事に、問題は山積みよ」

 ルーはベッドに仰向けに寝転がりながら言う。

「でも、他の勇者の方達が助けに来てくれるんですよね」

 ユモトが言うとアシノは浮かない顔をした。

「まぁな」

「あまり気乗りしない感じですね」

 察したモモが言うとアシノはため息をつく。

「他の勇者は色々とくせ者でな、あまり得意じゃないんだよ」

「勇者って変わり者が多いのよ。アシノを見れば分かるでしょ?」

 アシノは無言でルーに向けてビンのフタを飛ばし、遠距離デコピンをお見舞いした。

「私達としては、ムツヤを自由に戦えるようにして魔人と戦うのが1番なんだが……」

「それをすると、王の目に止まり、裏の道具が戦争に利用される……と」

 モモが思い出して言うと、アシノは「そうだ」と答える。

「どうにかムツヤさんの事を隠しながら魔人と戦うしかないんですね」

 ユモトが言うとムツヤは自分に気合を入れた。

「わがりまじだ!! 俺がんばりまず!!」

「簡単に言ってくれるがなぁ……」

 アシノはまた、ため息をつく。そして、気持ちを切り替えて言った。

「とにかく、今は何を考えていても仕方がない。王を守るために城から出られないしな」

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