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いざ王都へ 2

 皆は観光に出ることにした。ホテルを出てしばらく歩くと露天商がズラッと並ぶ通りへ着く。

「ここは露天市場だ、珍しいもんが売ってたりするが、胡散臭いものや偽物も売ってるから気をつけろよ」

 アシノの注意を聞いているのかいないのか、皆はその光景にワクワクとしていた。

「お小遣いは1人1000バレシまで!! バラバラになったら集合は1時間後!! それじゃ皆行くぞー!!」

 ルーの掛け声と同時に人混みの中へとそれぞれ消えていく。

 最初にユモトが何かを見付けて立ち止まる。

「あ、これ、面白そうですね」

 古い魔法の事が書かれている本だった。しゃがんでそれを見ると露天商はユモトに声をかける。

「お嬢ちゃん、本もいいが、お嬢ちゃんにはこういうモノのほうが良いんじゃないか?」

 そう言って露天商は魔石が埋め込まれたブレスレットを差し出す。

「あ、いえ、ぼ、僕は男で……」

「ユモトさん、それ似合うんじゃないですか?」

 一緒に居合わせたムツヤが言うと、しめたとばかりに露天商は営業する。

「お、彼氏さんかい? 彼女にプレゼントしたら喜ぶよー?」

「だ、だから僕はっ……」

 そんなやり取りを遠い目で見つめるモモ。

「それじゃ俺が買います!!」

「お、良いね兄ちゃんそうこなくっちゃ!! 600バレシね!!」

「そ、そんな、悪いですよ!! それなら自分で買います!!」

 慌てて財布を出そうとするユモトだったが、ムツヤが支払いを終えてしまった。

「いいですよ、プレゼントです」

「あ、えっ、はい…… 大切にしますね!」

 ユモトは顔を赤くして目線を下にしてモジモジとしている。そんな2人にモモが声をかけた。

「ムツヤ殿、私と一緒に見て回りませんか?」

「あ、はーい、モモさんわかりました! それじゃユモトさんまた後で!」

 ムツヤとモモは人混みの中を歩いていた。珍しい露天の品々を見ては驚いたり感心したりしている。

「露天を見て回るのは良いですが、こう人が多いと、はぐれてしまいそうですね」

「そうですねー」

 気の抜けた返事をするムツヤに対し、モモは冗談混じりに提案をした。

「迷子にならないように手でも繋いでおきますか?」

 ハハッとモモは笑う。だがムツヤは真面目な顔をしている。

「そうですね、わがりまじだ」

 ムツヤは左手でモモの右手をとった。「えっ」と言った後にモモはゆっくりと赤面した。

「あ、あ、あのあの、じょ、冗談です!!」

「え、そうだったんでずか!? すみません!!」

 そう言ってパッとムツヤは手を離す。

 冗談だったのだからこれで良いと自分に言い聞かせるモモだったが、何だかモヤモヤしたものが残る。


 ふと、その時だった。ムツヤは殺気のような、強い者の気配を感じて振り返る。



「ムツヤ殿?」

 モモはキョトンとしてムツヤの名を呼ぶ。

「あ、いえ、なんでもないです!!」

 気配はすぐ消えた。ムツヤは自分の勘違いだということにしておく。

「そこのオークのお嬢さん!!」

 モモを見つめて手を招く露天商がいた。自分が呼ばれているということに気付いたモモはその露天に近寄る。

「このネックレスどうだい? 似合うと思うんだけど!!」

 それは赤い石が埋め込まれた銀色のネックレスだった。

「うわー、綺麗ですね」

 ムツヤも近寄ってまじまじと見ていた。

「お兄さんはお仲間? 彼氏さん?」

「なっ、違う!!」

 デジャヴを感じるやり取りにムツヤは巻き込まれ、モモは思わずそれを否定する。

 自由時間も終わり、ムツヤ達はホテルへと戻った。

 夜はホテルのビュッフェを堪能する。

「これ、全部好きに食べて良いんですか!?」

「恥ずかしいから大声でそういう事言うのやめろ」

 目を輝かせるムツヤにアシノはため息をついて言った。

「たくさんお食べムツヤっち!!」

「はい、いただきまず!!!」

 そんなやり取りをしてから食事を終えて、一行は疲れて眠りについた。ふかふかのベッドが心地いい。

 アシノの表彰がある日まであと3日ある。

 次の日はルーに連れられて街の名所の観光をしていた。

「ツノミヤって言ったらヨウザよね!! 市民のソウルフードでヨウザの像まで建てられているんだから!!」

 ヨウザとは、小麦粉を練って薄く伸ばした生地に細かく刻んだ野菜や肉を包んで油で揚げた料理である。

「有名な食べ物があるのは分かりますが、像を建てるというのは分かりませんね……」

 モモが苦笑いして言うとルーは遠くを指さす。

「ほら、アレがヨウザ像!!」

 そこには大きさ5メートルほどの人とヨウザが融合した石像があった。

「いやいやいや、像を建てるのもわかりませんが、何で人型なんですか!?」

「それは私にもわからないわ!!!」

 その他、石橋や時計塔。大きな百貨店といった名所を巡る。そんな日々を送っていたら、あっという間にアシノが表彰される前日になった。

 すっかり王都の人の多さにも慣れ、明日は関係者として城の中に入ることも出来る。ムツヤはワクワクが止まらずにいた。

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