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第129話 遠慮のない朝食

「おかわり!」 

 かなめの辞書に遠慮と言う言葉は存在しない。朝稽古をして、そのまま朝食を作る薫の邪魔ばかりしながら食堂を薫のフォローに回っていたカウラに追い出された。その上、仕事の資料をめぐり討論していたアメリアからも邪険にされた。当然のように少し機嫌が悪かったかなめもその状態は空腹前の十数分前までの話だった。もりもりとどんぶり飯を食べ終えて元気よくかなめは叫んだ。

「はい!かなめさんはよく食べるわよね。サイボーグって小食って聞いてたけどかなめさんは違うのね」 

 うれしそうな表情の母を見て誠は和んでいた。食卓にはアメリアの姿は無かった。なんでも東都警察からの情報提供があり、その内容をめぐって話があると言うことで客間で端末を眺めて司法局本局の明石達幹部と議論しているところだった。

「辻斬りか……物騒な世の中だな」 

 すでに食事を終えて、デザートのヨーグルトまで平らげたカウラがポツリとつぶやいた。アメリア達が篭ったのを見て二人の端末にアクセスしてある程度の情報を得たのだろう。

「それはいつの時代だ?ここは東和だろ?そんな日本刀下げて歩いてたらすぐにお巡りさんに捕まっちまうぞ。まあ、甲武は最近は辻斬りが増えてるらしい。軍縮で失業した軍人崩れの士族共が平民相手にうっぷん晴らしで斬りつけるんだ。ひでえ時代になったもんだ」 

 二杯目のどんぶり飯を海苔の佃煮をおかずに食べていたかなめが呆れたようにかなめを見た。

「後部の話は置いておいてだ。司法局が黙っていられないのは仕方ないだろ?ここ二ヶ月で八人。どれも一太刀で絶命。しかもどの死体にも財布もカードも金目のものはすべて残ったままで放置されてたって言うんだから」 

 カウラはそう言って難しい表情を浮かべた。カウラの誠が野球部時代に使っていた体を大きくするためだと無理に食べていた時のどんぶりからご飯を食べる様子を薫が興味深そうに眺めていた。

「一太刀で人を斬るのは相当手馴れた証拠ですわね。素人だったらどうして一太刀で致命傷を与えることなんてできませんよ。それは剣術をやっている人ならだれでも分かることです」 

 そんな薫の言葉にかなめは頷いた。誠も真剣でわら束や丸太などを斬ることの難しさを知っているので頷かざるを得なかった。

「でもそれは警察のお仕事だろ?司法局が顔を突っ込むことなのか?アタシ等は休みなんだから気にする必要なんかねえよ」 

 お気楽にそう言ってどんぶり飯にをかきこみながらかなめは大きなため息をついた。

「あ!もう無いの?」 

 とりあえずの打ち合わせを終えて戻ってきたアメリアが空のニシンの甘露煮が入っていた小鉢を見て叫んだ。

「へへーん!早いもん勝ちだ!」 

 かなめが得意げに叫んだ。

「ああ、まだ箱に残ってたのがあると思うから」 

「いいです!おかずはちゃんとありますから」 

 立ち上がって冷蔵庫に向かう薫を押しとどめてアメリアはそのまま一昨日誠の父誠一が座っていた席についた。

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