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第130話 出番の無い連続辻斬り事件

「クラウゼ、辻斬りの一件はどうなったんだ?」 

 カウラの言葉にかなめは眉を寄せてアメリアに目をやった。

 しばらくアメリアはナスの漬物を齧りながら黙ってご飯を掻きこんでいた。無視されたと思ったのか、カウラの表情が少し曇ったのを悟るとそのまま茶碗と箸を置いた。

「まずうちには出番は無いわね。出番があるとしたら茜ちゃんの方。犯人が『法術師』であった場合は茜ちゃん達に召集がかかるかも」 

 はっきりとアメリアは断言した。しかし、かなめもカウラも納得したような顔はしていない。そこに助け舟を出すようにかなめが口を開いた。

「法術特捜にもお呼びはかからねえんじゃねえの?東都警察にも法術専門の捜査部門が出来た以上、面子があるってことだ。同盟厚生局と東和軍の一部の結託を見抜けなかったことで公安は幹部三人が事実上の更迭。人体実験の材料にされた被害者が租界の難民だけじゃなくて東和全域で捜索願が出されていた人物も含まれていたことで総監が謝罪会見の上辞任だ。どちらも東和警察は無能の烙印を押されたわけだ。今度、アタシ等が手柄を上げてみろ。連中の首もどうなるかわかったもんじゃない。ここでまた法術特捜に手柄を持っていかれてみろ。国家公安委員長が辞任しなきゃいけなくなる。そんな無様を晒せるわけがねえ」 

 そのまま鯛そぼろを茶碗のご飯にふりかけ、静かに急須から茶を注いだ。突然のかなめの暴挙に誠は唖然としていた。

「今度は邪魔しないから手際を見せろと言う所か……隊長も人が悪いな」 

 カウラは呆れたようにそうつぶやいた。ぐちゃぐちゃと茶碗の中の物をかき混ぜ始めたかなめをカウラが汚いものを見るような目で見つめていた。

「租界だとか軍の不穏分子だとか、そう言うところは私達の担当領域だけどねえ。辻斬りだの強盗だのはおまわりさんのお仕事でしょ?頭を下げてこない限り動く理由も無いし動けば経費がかかるだけ。つまらないじゃないの」 

 アメリアはそう言って味噌汁をすすった。

「あのー……西園寺さん」 

 恐る恐る誠が声をかけた。

 かなめはすでに茶碗に醤油を注いでいた。その茶碗の中のどろどろしたものを一口飲み込んだ後は、今度は味噌汁を注ごうとしていた。

「どこか変なことでもあるのか?」 

 とぼけたかなめの言葉に、隣に座っている薫の頬が引きつっていた。それを知っているのは間違いないが、平気な顔をしてそのぐちゃぐちゃの物体を飲み下し始めた。

「ああ、なんか気分が悪くなってきた」 

 そう言うとアメリアが立ち上がった。カウラも薫が用意した湯飲みを手に取ると立ち上がった。

「神前。どうしたんだ?」 

 まるで空気を読んでいないかなめが頬にご飯粒をつけたまま急いで口に飯を詰め込んでいる誠に声をかけた。

「ええ、まあ」 

 それだけ言うと誠は立ち上がり、自分の食器を流しに運んでいった。

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