第12話 奪還 recapture
川沿いの平原を歩く。
もう少しで大きな水路に出るらしい。
サバイバル生活と言えば聞こえはいいが、魔中を狩って肉を捌いて焼いて食って
また歩く。
原始的な生活だ。
現代人の俺にはめちゃくちゃきつい。
「げっそりしてきたわね。」
「脂っこい肉以外が食べたい。」
「魚でも釣る?」
「米とか」
「コメって極東の食べ物よね
高いしめったに手に入らないと思うけど」
「ぞんなぁ」
「はぁ 近くに村があるから寄ってみる?
黒パンぐらいならあるかもしれないし」
「あぁ 偉大なるエルリーフのエル様。なんと慈悲深い。」
「そういうのはいいから
さっさと行きましょ。」
エルが照れた顔をそむけながらさっさと歩く。
なんかこういうところはアマ姉に似てるな。
「しっ!」
エルが俺の方に手を向ける。
「何かあったんですか。」
「この切り株 人の仕業だけど
何かおかしいわ。
森の方に入りましょう。軍かも。」
「! 分かりました。」
川沿いにあった切り株だが、確かに不自然だ。
普通は木を伐採する時は切り込みを入れて方向を決めて切るはずだが。
この切り株にはその跡が一切ない。
何かめちゃくちゃな力で真っ二つに割かれているような感じだ。
それに丁寧に切った木で簡易的な丸太の橋まで作っている。
だが軍にしてはおかしいな。
軍人なら移動にわざわざこんな手間はかけないはずだ。
切られている位置からして180センチ代の大男だろう。
それも特殊な魔具<ガイスト>を持っていると見ていい。
「サトーは私の後ろをゆっくりついてきて。
インドラはいつでも抜けるように。」
「了解です。」
サバイバル生活で魔獣を数匹狩ることになって少しは制御が出来るようになったし
人間相手ならその10分の1ぐらいの出力で十分なはずだ。
辺りを警戒しながら進む。
カサカサ
「! 」
川とは逆の方向から下草がかすれる音がする。
「サトー」
「えぇ」
エルが矢を構える。
「た 助けて く れ」
かすれた人の声が聞こえる。
「!?」
エルが声の方向へと矢をつがえたまま走る。
俺もその後を追うと。
ボロボロの布切れをまとった中年の男が木の棒を杖にして歩いていた。
「あなたは...」
「私はエルヴィナ 何があったの。
この先に村に何か。」
「村が襲われた。
男は奴隷にされ、女はあいつの部屋に」
「それで相手の見た目、人数、使ってる魔具<ガイスト>の情報は分かる?」
「魔具<ガイスト>は使ってない
あいつは救済だと言って腕を振るうだけで大地が割れて村長もおじさんもみんな――
俺に力があれば」
男が拳をぐっと握る。
「転生者か。」
「恐らくね。」
「敵は男1人と女3人、男は変な金ぴかの服を着て
女は胸の開いた礼服
あとは―――覚えてない。」
「十分よ。休んで。」
内戦に乗じて軍と無関係な村を占領したんだろう。
「同郷の者が悪いな。」
「え あんたも転生者なのか」
「彼はいい人
安心して あなたの村は私達が解放する。」
村はすぐに見えてきた。
「俺が転生者を不意打ちで仕留める。
他の3人は頼みます。」
「えぇ。任された。」
敵は見えた。
どうやら村の真ん中の大きな屋敷にいた。
窓から女を従えているのが見える。
警戒はされてないし、侵入は楽にできたが
ここからだな。
大きな屋敷の扉を開ける。
「ん? 誰だ貴様は」
全身を金箔で覆ったようなスーツを来た男がいた。
女は別の部屋か。
「はじめまして。俺は」
体で隠しておいたインドラを起動する。
「? なんだ 名乗れ。」
バチッ!!!!
インドラの放電を男の頭部に直撃させる。
「あんたを倒す者だ。」
プスプスと男の頭部が黒こげになっているのが分かる。
「キャッ」
「アあっ!」
エルも始めていたらしく風切り音と共に別室で女の悲鳴が上がる。
「が がっ」
「!!」
黒こげになった男が立ち上がる。
嘘だろ。
完全に雷が直撃したはずだ。
ジュゥゥッと男の頭部が煙をあげて再生していく。
「くそっ」
俺がインドラを再度放とうとした瞬間
ゴンッドッ
ミシミシッと床下から地面が盛り上がって家が崩壊する。
「残念だよ
お前も転生者だろう。」
崩壊した家から飛び出すと男が立っていた。
さらに頭部が完全に治っている。
「裁きを」
「ぐっ」
男が腕をあげた瞬間に地面から土の拳が飛び出して俺の腹部を強打する。
「愛の救済だ。面白い力に免じて奴隷にしてやろう。」
「ヴァジュラ!!!」
インドラに力を込めて雷撃を男の首に直撃させる。
だが男の足元から地面が盛り上がり電撃が吸収される。
「ちっ」
転生者はどいつもこいつもとんでも能力者なのか。
インドラを解放するしか。
「サトー 撤退して!」
「え」
ゴトッと地面が一瞬揺れた後に
ガガガガガ
地面が盛り上がっていき
「―――これは」
「これが神の愛だ。」
土で出来た巨人が上半身だけ地面から生えている。
「くっ」
男の背後に走りこみ
巨人の側部に回り込めば
「嗚呼、愚かな者をお許しください。
愛ゆえに」
男の向く方向と連動しているらしく
巨人の方向転換が速いっ!!
ヴァジュラを数発男の方へと放つが
巨人の腹から生えてきた無数の土の手によって全て防がれる。
「サトー!
撤退しなさい!!
女は全員仕留めたから」
それを聞いた男のまゆがピクリと動く。
「エル!!! 上だ!」
エルの方向へ巨人が腕を振り下ろす。
ドゴゴゴォオオオ!!!と地響きと共に巨人の手が地面にめり込む。
「エル!」
エルは巨人の腕の範囲から風の魔術で飛びのいていたらしく。空に浮いていた。
「だめだ! こいつはここで倒さないと。」
「作戦はあるんでしょうね。」
「インドラを解放すれば」
「それはダメ!
また体を分解すれば再構築できるか分からないのよ!」
「愛ある信徒を殺した貴様は生きて返さんぞ
女」
ドゴゥガッ
巨人が腕を薙ぎ払った
村中の家屋が人の高さで全て薙ぎ払われ、上空へと飛び散る。
「エル!!」
ドドドッと家屋の破片が激しく降り注ぐ。
「滅侭き」
「オアアアアアッ!!!!」
野太い声が村中に響き渡る。
「誰だ! 貴様!!
我が神聖な神体の上に」
「あたしか?」
巨人の肩の上に長身の人物が立っている。
巨大な斧、戦斧を担いでいる。
大きいな180センチは下らないし、骨格も太い。
ボロボロのマントをまとい、ごつい軍用のブーツを履いている。
顔は逆光でよく見えないが、女性だ。
それにエルから聞いたドヴェルグの特徴である体に獣の特徴――耳が側頭部ではなく、頭の上に生えている 犬の耳に似ている。
「少年!! この戦いあたしも混ぜろよ」
「助かります。」
俺は滅侭杵を解除し、ヴァジュラに切り返る。
「舐めるな! 蛮族が!!!」
「うるせー
男のくせにぴーぴー吠えるな」
大柄の女性の斧が紫色の発しながら巨人の首を両断する。
「ぐあああああっ!!!」
男が叫び声をあげながら首を抑える。
「そういうことか。」
「このゼキ゚エルの神聖なる肉体に傷をっ!!!
蛮族ァァアア!!!」
巨人が肩を振り払い頭ごと上半身を思いっきり地面にたたきつける。
ドヴォガアアアアアッ
村の家屋が衝撃で全て倒壊していく。
「蛮族! 愚民!! 救うに値せぬ下衆!!! 下等種族!!!」
「そこまで嫌悪するのは彼女がお前の天敵だからだろ。」
俺はエルの助けで上空へと飛び上がり、
ゼキ゚エルの背後に飛び込んでいた。
「我が愛に抱かれて死ねぇぇぇ!!!!」
「ヴァジュラ!」
ゼキ゚エルが地面から土の武具を飛び出させる前に
ゼキ゚エルの首を電撃で焼き切った。
「%!#$!!$!!!#$!!#$!#」
「亡くなった人達のはなむけだ。」
ヴァジュラをゼキ゚エルの全身に浴びせる。
完全に全身が黒こげになり、
それと同時に土の巨人が崩れていく。
どうやら炎の奴と同じく転生者本人が死ぬと全ての魔術効果が消えるらしいな。
「敵を倒したが、村は...」
周りを見渡すと全損した家屋が広がっていた。
それにあちこちにバラバラになってしまった村人の遺体が散らばっていた。
「助けて!」
家屋の破片の下から人の声がする。
「エル! そっちを」
「えぇ」
2人で家屋の木材を持ち上げると地下室のような扉が半開きになっていた。
そして女性が数人中に入っているらしい。
「あいつらは」
1人の半裸に布で胸を隠した女性が俺を見上げる。
体のあちこちに痣がある。
―――もっと俺が早く来ていれば。
「もういません。大丈夫です。」
「良かった あぁ 良かった。
みんな もうあいつらはいないって。」
「でもすいません。村の方は」
俺は女性を地上に持ち上げる。
「―――いいんです。生きてるだけで。
ありがとうございます。」
「レイチェル!!」
村の外であった男が大柄の女性に担がれていた。
「ふらふらだったから担いできた。」
「ラーム! 良かった。生きてて。
本当に。」
「なんとお礼を言っていいか。」
男が涙と鼻水で顔をむちゃくちゃにしながら何度も頭を下げる。
「サトー 撤退は私の判断謝りだった。」
エルが俺の肩に手を置く。
「サトーってのか 少年」
大柄の女性が男を放り投げて俺の顔をじーっと眺める。
「はい 転生者の沼鹿 悟士です。」
「ほーん 転生者ってのもみんなとんでもない奴じゃないんだな。」
「彼はまともよ。
私はエルヴィナ・S・ルーギルティア
エルでいいわ。
よろしく」
俺も転生者とは言え人の頭に電撃ぶつけたりとんでもない奴に足を突っ込みつつある気がするが。
「あたしはヴィヴェルブ・ディアブランデ・バレー
なげぇからヴィヴでいいぜ。
よろしくな サトーとエルヴィナ」