11話 旅立ちDeparture
炎の転生者の襲撃の翌日
俺は再び独房に入れられていた。
「転生者ってのはみんなそんな不思議な体してるのか!?」
柵ごしにセリオに左腕を触られていた。
「俺も変な感覚だ。」
炎の転生者を倒したことで、魔素<エレメント>が高濃度に俺の全身にまとわりつき、
俺の左腕に収束したらしく、翌日には腕が生えていた。
「腕を生やすなんて、古代魔術でもなけりゃ出来るもんじゃねぇ。
聞いたことねぇぜ。」
「俺だって元いた世界で腕が生えてくるなんて聞いたことがない。」
「ガハハハ! だよなぁ!
しっかし無茶したなぁ!」
「二度とやりたくない。
挙句に独居房に入れられるし」
「インドラは特別だからな。
それを勝手に外部の者が使ったとなれば色々もめるさ。」
「――そうか
悪かったな。」
ギーッと扉が開き、長が入ってくる。
「長!」
「転生者を打ち滅ぼしたことには褒美を与えたいところだが
あの魔具<ガイスト>の無断使用は禁固刑になる。」
「長 でもこいつは」
「安心しろ
インドラは今 こやつにしか使えん。」
「?
どういうことですか。」
セリオが首をかしげる。
「あの魔具<ガイスト>は所有者を選ぶ。
あれは封印していたのではない、誰も使用者がいなかったのじゃ。
街の者は誰も起動すら出来ず。
ただ置いておくしかなかった。」
「だったら
サトーにインドラで街を守ってもらえばいいじゃねぇか。」
「そうもいかん。
予言が出たのじゃ。
こいつはインドラと共に街から追放する。」
「そ そんな!!」
「よいな エルヴィナ」
「はい 私がインドラを見張ります。」
エルヴィナさんが長の後ろから洞窟に入ってくる。
「そんな エルヴィナ様まで」
「よいな 少年よ。」
「――はい。」
ここで禁固刑になるわけにもいかないしな。
「そして使命が終わったら戻ってきなさい。」
長が出ていく。
「行きましょう サトー
使命は歩きながら話す。」
エルヴィナさんが俺の手錠を外す。
「そんな エルヴィナ様が出ていったら
俺たちはどうやって街を守れば」
「安心して
グランデオ達が帰ってくるから」
「兵役が終わるのか!
兄貴が帰ってくるんだ!!」
セリオがガッツポーズしながら喜んでいる。
長の息子だったか、俺と入れ違いになりそうだな。
「じゃあな セリオ
世話になった。」
「おう! 使命が終わったら戻って来いよ。
いっぱい飲もうぜ!」
「異世界人は20になるまで酒は飲めないそうよ。」
エルヴィナさんと一緒に洞窟を出る。
1日ぶりの外だ。
日の光がまぶしく、肺に活力がみなぎる感じがある。
いい街だった。
「エルヴィナ様!!」
フィディスが駆け寄ってくる。
「どうしたの」
「中央都市グランテラが正体不明の陸上戦艦によって占拠されたと。」
「それは――」
陸上戦艦なんてあるのか無茶苦茶だな。
一応、帝国には鋼鉄の軍艦があるらしいが、陸上はありえない。
「どっち?」
「恐らく連邦軍かと。」
「―――完全に軍部は掌握されたみたいね。」
「転生者ですね。」
今回の炎の男と言い、そういう大規模な騒乱を起こすのは転生者なんだろう。
「あぁ 赤いドレスを纏った女と白髪頭の巨体の男がたった2人で都市を占拠
首相の直轄部隊と帝国軍第10師団は壊滅し、帝国の国境まで撤退したらしい。」
「それだと議会も占拠されてそうね。」
「いやまったく様子が分からないんだ。
陸上戦艦の5隻が周囲を包囲していて一切の情報が入ってこない。」
「――厄介ね。」
「それと長からこれを預かっている。」
「縄?」
分厚い縄のようなものが巻かれている。
「同盟の絆<コネクス・コード>
かつて建国の際に4民族が協力を誓ったとされる特殊な魔具<ガイスト>ね。」
「――長が忘れてた てへっ だってさ。
そろそろ長も交代の時期かもしれんな。」
「・・・」
「・・・長はそういうところ昔からあったわ。
ともかくありがとう。」
「ご武運を!」
俺たちは死の森を抜け、平原に出る。
「ここからどこに?」
エルヴィナさんが地図を取り出す。
「北に行く。
まずはドヴェルグの城塞都市 フォルグランディアに
そこで装備を整える。」
「分かりました。
それと使命っていうのは。」
「そうね、話しておきましょう
昨晩の予言を。」
昨晩 巨木の街 アルボリレス 儀式の間
エルヴィナと長と黒いフードの男女が巨木の幹に刻まれた文様に祈っている。
「木の精と大地の聖名において」
「「グランシェ」」
黒いフードの男女が巨木の幹に刻まれた文様に血をたらす。
文様が大木に広がっていく。
そして細かい歯車がぎりぎりと噛みあう文様に変わっていく。
「起動<ブーツ>」
黒いフードの男女が杖を掲げると木の根本の地面に文字が描かれていく。
「――ふぅ」
文字が書かれ終わると黒いフードの男女がへたりこむ。
「エルヴィナ様 長 終わりましたよぉ~。」
「相変わらず大変そうね。 お疲れ様」
「まったく 最近の若いもんは」
長が黒いフードの男女の頭にぽんと手を乗せる。
「ようやっとるの。」
「さて どうじゃエルヴィナ」
「読み上げますね。
ルーク 記録を。」
「は はいっ。」
「異界より来たりし者 民を救う
なれどとどめるべからず
異界より来たりし者は贄なれば
しばし後に異界より大群が来る
それを束ねるは大いなる白き巨人
抗するにも力
4族を束ねるべし
異界より来たりし者が巨人を打ち破る」
「なるほど
異界より来たりし者はあの少年のことだろう。
だが大いなる白き巨人とは――」
「おそらくそちらも転生者かと。」
「それ以外に考えられませんし。」
「確かに対抗するには4族の力がいるな。」
「いえそれだけでは足りません。
彼の力が必要です。贄であろうとも。」
ゴランディオ平原
ところどころに点在する畑と広大な草地が広がる
俺とエルヴィナさんはそこをまっすぐ北上していた。
「そんなことが。
俺は贄 ですか。」
「えぇ インドラの使い手は必ず戦に巻き込まれるという言い伝えがあるの。
それが戦いの贄と呼ばれていたそうよ。
だから長と話し合って追い出すついでに監視役を付けて他の部族への使いにしようということになったわ。」
「―――なるほど。色々交渉してくれてたんですね。」
「贄 怖くないの?」
「怖くてもせっかく繋がった縁ですし
つなぎとめてみます。」
「おーい!!! そこの男女」
畑で農作業をしていたらしい男が呼んでいた。
「どうしたんですか。」
「あんた その腰の魔具<ガイスト> 戦闘用のだろ?」
「そうね 何か困りごと?」
「それがよぉ 畑荒らしが出てるみたいでな。
そいつでちょちょいと倒してくれねぇか。
死体もってきてくれりゃ 肉は捌いて山分けでどうだ。
それに心づけの路銀も用意してる。 どうだ!」
「エルヴィナさん ここは」
「エルでいいわ。
そうね、エルリーフの名にかけて畑荒らしを倒しましょう。
特徴を教えて。」
「あぁ 体は牛みたいにでかいやつで、ちょうど あれだな。」
畑の男が指さす方向を見ると。
ドドドドドドドドド
土埃をあげながら牛が突進してきた。
「サトー 1人で戦ってみる?
インドラの力の制御を練習するにはいい相手だと思うけど。」
「へ 俺が」
「うん 毎回あんなインドラを限界まで使ってたら体がいくつあっても足りないし。」
「――それもそうですね。」
やるしかないのか 俺がこの世界で生き残るには。
この力を使いこなすしかない。
「インドラ 力を少しだけ貸してくれ」
インドラを腰から抜く。
「それじゃあ 頼むぞ!!」
畑の男が一目散に逃げていく。
「危なかったら私が仕留めるから。」
エルが弓を構え魔素<エレメント>を全身に纏い始める。
「助かります。」
「べティル・タイフン 突進を躱しても尾から生成した風の刃が来るから気を付けて」
俺はべティル に距離を詰める。
インドラの放電は弓じゃないから遠距離だと届かない。
「ぐもぉぉぉぉ」
まっすぐと俺の方へ突進してくる。
俺はべティルに対して右斜めに走りだす。
べティルが少し方向を修正しようとしたタイミングで
左斜めに切り返し
「ぐもっ!」
とっさの切り返しで速度が落ちたタイミングでインドラの放電を一直線に放つ。
バチンッ!!とインドラの雷がべティルの腹部に届く。
一瞬ひるんだその間に距離を詰める。
「ヴァジュラ!」
金剛杵をわずかに握りこみ、べティルの首元めがけて振る。
ドッ!!!!
べティルの首元をインドラの雷が貫通する。
「やった!」
「仕留めても油断しない」
エルの矢がべティルの尾に突き刺さる。
ブゥンッ!!!と風の刃が俺の足元に切り跡を付ける。
「危なかった」
冷や汗が出てくる。
べティルの体が地面に倒れこむ。
「助かりました。」
「心臓が止まっても残った魔素<エレメント>で魔術が乱射されることもあるから気を付けて。」
「獣まで魔術が使える世界 か」
「普通の獣じゃなくて魔素<エレメント>を取り込み新しい形質を発現した獣
魔獣よ
見た目は他の獣と変わらないから覚えていくしかない。」
「おーい! いいじゃねぇかさすがだぜ兄ちゃん」
いつの間にか戻ってきていた畑の男が上機嫌でスキップしている。
「しかしべティルの首が黒こげじゃねぇか、すげぇ魔具<ガイスト>持ってんだな。
さっさと捌くから手貸してくれや。」
「え 俺?」
「私も手伝おう。」
数時間後
俺とエルは畑の男から肉を山分けしてもらい。
路銀も少々もらった。
「まさか 異世界に来てまでサバイバル生活をすることになるなんて」
俺はもらった肉をナイフで割いてエルの付けた火で原始的にただ焼く。
「帝国やアルメニアの都市部ならともかく大体の国ではこんなものよ。」
「はぁ 城塞都市はどのぐらいなんですか。」
「歩いて5日, 水路で1日ってところね。」
「5日も歩く その間はずっと」
「まぁ魔獣を殺して肉を食べたりでしょうね。
最短ルートだと村は通らないし。」
「・・・嘘だろ」