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第31話 こたつ戦争

「おい!」 

「何?」 

 にらみつけてくるかなめにアメリアは挑発的な笑みを浮かべた。

「足!」 

 かなめはそう言うとアメリアを殴りかねない様子で上半身を起こした。

「長いでしょ?うらやましいんじゃ……って!蹴らないでよ!」 

 アメリアが叫ぶと同時にがたりとコタツ全体が揺れた。水音がして誠がそちらに視線を向けるとカウラの顔にお茶のしぶきが飛んでいる様が目に入った。

『あ……』 

 かなめとアメリアが声をそろえてカウラの顔を見た。カウラは何も言わずにポケットからハンカチを取り出すと静かに顔にかかったお茶を拭った。

「冷めてるから……大丈夫よね?」 

「アメリアが餓鬼みてえな事するからだろ?」 

 原因となった二人はとりあえずカウラの機嫌ばかり気にして言い訳を口にした。

「二人とも穏便にしましょうよ。ただこたつに入ってるだけじゃないですか。僕達は歩哨でここに居るわけで喧嘩をしに来たわけじゃ無いんですから」 

 カウラの沈黙が恐ろしくて誠も加えた三人は、意味も無い愛想笑いを浮かべた。当然三人の意識は次のカウラの行動に向いていた。

「私の事はどうでも良い。それより西園寺、仕事だ」 

 一言そう言ってカウラはポットと急須に手を伸ばした。ほっと胸をなでおろしたかなめがゲートの方に目をやった。

「よう!」 

 立っていたのはコートを着込んだ嵯峨だった。手にはタバコを持って相変わらず何を考えているのか分からない脱力気味の視線で誠達を眺めていた。

「叔父貴。暇なのか?」 

 かなめはそう言いながらゲートを開く。

 嵯峨はかなめと同じ貴族制国家『甲武国』の陸軍の軍籍の持ち主であり一応は爵位を持つ人物だった。

 だが今誠の目の前にいるのはそのような殿上貴族と言うにはあまりにも貧相なコートを着た目の色に生気のない男だった。そして古びたママチャリが長身の嵯峨の後ろで嵯峨の貧乏臭さに止めを刺しているように見えた。

「暇っちゃあ暇だな。まあいいんじゃない、うちが暇なのは平和な証拠だよ」 

 そう言って嵯峨はタバコを口に運んだ。司法局実働部隊、正式名称『遼州星系政治共同体同盟最高会議司法機関実働部隊』の隊長に彼が選ばれたのは甲武陸軍憲兵隊の隊長としての経験を買われたということになっていた。だがなによりその何を考えているのか分からないこのポーカーフェイスを野に放しておくのを一部の同盟諸国の首脳が怖がったからと言う噂は誠も耳にしていた。

 確かに誠から見てもぼんやりとタバコをくゆらす様は何を考えているのか一切分からず不気味に思えた。

 そんな不審そうな誠の顔を見て不愉快そうな表情で嵯峨が背伸びをして部屋の奥をのぞき込んできた。カウラはタバコの煙を撒き散らす嵯峨をにらみつけ、嵯峨はそれに気づいて弱ったように頭を掻いていた。

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