第30話 まるで子供の喧嘩
「いいねえ……部下にお茶を入れさせると言うのは。なんだか偉くなったみたいで気分がいいわ」
心からそう思っているとわかるようにかなめは湯飲みを抱え込んでコタツに足を入れてきた。誠は愛想笑いを浮かべながら彼女を見つめていた。しかし、足をコタツに入れたとたんかなめの顔が不機嫌そうな色に染まった。そしてしばらくするとコタツの中でばたばたと音が響いた。
「おい!アメリア!」
かなめがそう叫んで足をこたつの中ではね上げる。
「何よ!ここは私が!」
明らかに足を伸ばすためにアメリアは身体を半分以上コタツに沈めていた。それに対抗してかなめも足を突き出した。
「子供か?貴様達は。こたつの足の事で喧嘩をするんじゃない」
呆れたようにそう言って湯飲みに口をつけるカウラの視線がゲートのある窓に向かった。
「西園寺。仕事だぞ」
「あぁ?」
アメリアとのコタツの内部抗争に夢中だったかなめが振り向いた。
ゲート管理の部屋の詰め所の窓にはそれを多い尽くすような巨漢が手を振っていた。
「なんだよ!大野。出て行きたいなら自分で開けろ!アタシは今忙しいんだ!」
技術部の整備班員であり、『特殊な部隊』の今のところの正捕手である大野に向って監督であるかなめは厳しい一言を放った。
「無茶言わないでくださいよ!警備室にいるんだから西園寺さん達が担当じゃないですか?仕事くらいはちゃんとしもらわないと」
その巨漢で知られるの整備班員の大野が見下ろすようにして顔を覗かせた。誠が目をやるとうれしそうに口に入れたアンパンを振って見せた。
「ったく……オメエはいつも何か食ってるな。少しは減量を考えろよ。だからいつまでたっても神前のスライダーが捕れねえんだよ」
渋々コタツから出たかなめは再び四つんばいでゲートの操作スイッチに向かった。
開いたゲートを見ると大野は大きな身体を翻して自分のワンボックスに乗り込んだ。
「まったく、とんでもねえのがやってきやがった。ああ、面倒くさい」
出て行く大野の車を見送ると再び這って戻ってきたかなめがコタツに足を入れようとした。