第32話 嵯峨の持ちだした『投資話』
「ところで、話は変わるが、お前さんたち、『投資信託』しない?」
嵯峨は突然誠達に奇妙な提案をしてきた。
「「投資信託」?そんなもん、小遣い三万円の叔父貴に何でしなきゃなんねえんだよ。それは銀行がやることだろ?叔父貴に金を渡すとろくなことをしねえって茜がぼやいてたぞ」
明らかに胡散臭い話だと決めつけているかなめはそう言って嵯峨の提案をはねつけた。
「あれだよ、今の時流は『投資信託』。今時貯金をしても銀行の金利なんてたかが知れてるんだ。その俺の『投資信託』は一口五千円から入れる。その点が銀行の金持ち相手の『投資信託』とは違う。しかも十日で十パーセントの利益が出るとこが保証されてるんだ。凄いだろ」
嵯峨は得意げにそう言うが、この『駄目人間』の嘘つきぶりは全員が知っていたので全員が無視しようとしていた。
「そんな怪しげな話は無いと思ってるんでしょ?でも実はあるんだな。違法カジノってあるじゃん」
嵯峨はとんでもないことを口にした。仮にも司法局実働部隊は司法執行部隊である。その隊長自ら『違法カジノ』に出入りしていることはスキャンダル以外の何物でもなかった。
「違法カジノですか?それのどこが『投資信託』なんですか!」
話の展開が怪し気を満ちてきた段階でたまらず誠がそうツッコんでいた。
「まあ、最後まで聞きなさいって。俺もいくつか出入りしているところがあるんだが、大概の所はイカサマをしている。そこのいくつかのルーレットのイカサマのルールを俺は掴んだ。そこで金をかけてある程度稼げたなあと言うくらいの所で帰る。これを繰り返すことで無限に金を増やすことを俺は編み出したんだ。凄いでしょ」
警察官が違法カジノに出入りしてしかもイカサマを見破っていながらその生み出した利益を懐に入れている。誠はその事実にあっけにとられた。ただここは『特殊な部隊』と呼ばれる場所である。その隊長が違法行為に手を染めていても不思議なことは何も無いと誠は最近では思うようになっていた。
「叔父貴。その元手が欲しいからアタシ等から金を巻き上げて『投資信託』か?それに十日で十パーセントってそれ以上は儲けるんだろ?叔父貴は。その金で何するつもり……風俗か……聞くまでも無かった」
かなめは諦めたように財布に手を伸ばした。アメリアとカウラもそのまま財布に手を伸ばす。
「僕は嫌ですよ。そんな違法行為に手を貸すなんて。それに隊長の風俗のお金は自分で何とかしてください」
誠は一人、断固としてこの『投資信託』に加担するつもりは無かった。
「ええと、かなめ坊が二万円、にアメリアが三万。カウラが一万五千……ありがたいねえ……これで年が越せるわ。楽しいクリスマスが過ごせて感謝だね。ああ、年明けにはさっきの利率で返すから安心してね。俺は信用を裏切らない男だから」
嵯峨はそう言うと嬉しそうに札束を用意してあった札用の封筒の中に入れた。