第20話 英雄の愛機
技術部の各セクションの部屋を通過してハンガーへと出た誠達の前にはいつもなら隣の建物である車両置き場においてある人型兵器『シュツルム・パンツァー』の搬送用トレーラーが一台置かれていた。
そしてその運転席では部隊では若手の19歳の技術兵である西高志兵長が端末を手にじっと目の前のオリーブドラブの機体を見上げていた。
司法局実働部隊の部隊として保有する4機のシュツルム・パンツァーのうちの一機。05式特戦乙型。そしてその担当操縦者は誠だった。
すでに多くのメディアで紹介されてきた誠の機体は配属直後の『近藤事件』と『バルキスタン三日戦争』そして先日の『同盟厚生局違法法術研究事件』で知られた存在になっていた。
「何を見上げているんだ……そうか、明日から下志野駐屯地の基地祭だったか」
特に関心は無いというようにカウラは誠の機体を見上げた。
「でも人気ですよね、神前さんの機体。僕も何度かネットでこの塗装の05式乙型のプラモデルの写真見つけましたよ。しかも一人じゃなくて数百って人がこれと同じのを作ってるんです。あの『バルキスタン三日間戦争』で使った05式広域制圧砲まで再現した猛者もいるんですよ。すごい人気ですね、神前さん」
他意は無いのはわかるが誠にも年下の西からそう言われるとただ頭を掻くしかなかった。
「ああ、そう。僕は別に人気者になりたくってこれに乗ってるわけじゃ無いんだけど」
慣れている誠だが、こうしてカウラの澄んだ目で見上げられると恥ずかしく思えてきた。開かれたコックピットに顔を突っ込んでいた整備員までいつの間にか誠達を見下ろしていた。
「でも、人気があるってことはそれだけ神前さんが信頼されているってことですよ。見ている人は見てるんですよ。そのうちうちも『特殊な部隊』って後ろ指刺されることも無くなりますよ」
明るい表情でそう言う西に誠はただ照れ笑いを浮かべた。
「見ている人は見ているか……本当に僕は役に立ってるのかな……」
「よかったじゃん。アタシ等は所詮添え物。同じ05式でもアタシとカウラの機体のプラモは売れ残ってるらしいわ。人気者は大変だねえ」
嫉妬に満ちた視線をかなめが誠に向けてきた。
「そんな、人気者なんて……でも基地祭でサインとか求められたらどうしましょうか?僕にはそんなのありませんよ」
誠は戸惑いつつかなめに向って訪ねた。
「別に好きに書けばいいんじゃねえの?アタシは関係ねえし。それにいい気になってる奴ほど早く死ぬのが戦場の掟だ。今のうちに良い思いしとくんだな」
かなめはそれだけ言うと誠に背を向けて機動部隊の詰め所に向う廊下を歩いて行った。
「そんなひどい事言わないで下さいよ」
泣き言半分に誠は置いて行かれまいとかなめの背中を追って機動部隊の詰め所のある本館に向けて歩き出した。