第17話 趣味と仕事の区別がつかない女
「15日ねえ……」
「なんだよ言いたいことがあればはっきり言え」
かなめはデバック作業をこなす人数が減ってアメリアの思わせぶりな態度に苛立っていた。カウラと言えば二人にあきれて詰め所に帰るタイミングを計っている。だが彼女達より圧倒的に階級が低い誠はただ黙って彼女達が次の行動を決めるのを待つしかなかった。
「この前の同盟厚生局のはねっかえりを潰した件のおかげであの事件で何もしなかったルカが今回のライブを仕切ってくれることになってたし……まあ総舵手のルカは『ふさ』が動かない限り出番も無いものね。運航部の正規のお仕事って年内は何も無さそうね」
アメリアは先ほどまでルカが座っていた席に着くとデバック作業をしながらそう言った。
「マジかよ。おい、サラ。これが今年最後の仕事だそうだぞ……てか遊びだけど」
かなめがコンピュータ端末の画面から伸び上がり目をやった先には死にそうな表情のパーラが台本の下書きを手に取っている様が見えた。
「わかったー……頑張るわねー……」
ドリンク剤の効果もないというように半開きの目が痛々しいサラがそれを受け取ってしばらく呆然と天井を見上げているのが見えた。
「つまり……私と誠ちゃんはフリーなのよ!一切の制約のない自由が約束されているのよ!」
突然大声でアメリアはそう叫ぶので、一同の視線は怒って立ち去ったルカの代わりにデバック作業をしていたアメリアに集中した。
「何を言い出すんだ?ただ遊びたいって正直に言え」
あきれ果てたカウラは本心からアメリアに向けて軽蔑を込めた一言を放った。
「病気だ。ほっとけ。詰め所に帰るぞ」
かなめもカウラに同感のようで、そう言うと首筋に刺していたジャックを引き抜いて作業を中断した。自由を強く叫ぶアメリアだが、サラ達の疲労が伝染したと言うような疲れた顔をしてかなめは誠の隣に来て肩を叩いた。一方、明らかに胡散臭そうなアメリアの言葉にカウラは無視を決め込もうとした。二人に連れられて誠は修羅場から立ち去ろうとした。
「ちょっと待ってよ!これはいい企画があるのよ。聞いて行かないの?カウラちゃん、かなめちゃん、誠ちゃん」
これ以上関わり合いになりたくないと言う顔のカウラに向けてアメリアは甘い口調でそうささやきかけた。
「私の誕生会でもやろうって言うのか?素直にクリスマスがしたいって言え」
カウラの一言にアメリアはまるで衝撃を受けたようによろめいた。いつものように芝居がかった動きでそのまま原稿の仕上げをしているサラの隣の机に突っ伏した。
「アメリア。みんな呆れてるわよ。アメリアはリアクションがわざとらしすぎるのよ。だからライブでもアメリアは受けが悪いの。もっと自然にふるまうようにしなさいよ」
そう言ってサラは誠達に目もくれずにもくもくと作業を続けていた。
「サラまでそんなこと言うの?プロのお笑いの基本を学んでるのは私一人なのよ。少しは尊敬の念と言うものを持ちなさい」
アメリアはここで元落語家と言う肩書に物を言わせてサラを威圧した。
「呆れるものは呆れるわよ。結局作業は全部私達に押し付けて自分は勝手に遊ぶことばかり。そんなので部長が良く務まるわね」
明らかに不機嫌そうにそう言うとサラはアメリアを無視する体制に入った。
「まあそうね。でも、隊長も何も言わないし……ああ、あの人が一番趣味と仕事の区別がついていない人だったわね。我ながら良い上司を持ったものだわ」
「アメリア、あんなのを見本にしていると本当に『廃人』になるわよ」
サラはあまりにまっとうなことを言うので、アメリアはただニヤニヤとその細い目をさらに細めて笑うだけだった。