第18話 キリスト教国出身の艦長
「じゃあサラ達を排除したクリスマスの企画。これを考えてくる。ハイ!みんな。これ、宿題だから。キリスト教徒の国、ゲルパルト国籍の私が言うんだからこれに反したら国際問題になるわよ」
そう言うといつものように急な思い付きを誠達に押し付けて颯爽とアメリアは部屋を出て行った。
「何が宿題だよ……どうせ待機だよ。アタシ等が休んで良いわけねえだろうが」
吐き捨てるようにそう言って歩き出すかなめだが、彼女についていこうとした誠の顔を心配そうに見つめているカウラを見つけて振り向いた。
「カウラさん……何か?」
思わず誠は不安そうな顔のカウラに声をかけた。そこで一度頭を整理するように天井を見上げたカウラが覚悟を決めたと言うような表情で口を開いた。
「誕生日って何をするんだ?私はこれまで特に何かをしたと言う経験が無いんだ」
誠は当たり前の質問に当たり前に驚いた。
「ごちそうを食べるとか。みんなで歌を歌うとか……僕の知ってる範囲ではそんな感じですけど」
誠はその乗り物酔い体質から友達が少ないので誕生日を祝ってもらった経験がないことからそんな定番の答えしかできなかった。
「別にどこでもできることだな。それに誕生日とやらの特別性を特に感じないぞ。せっかく産まれてきた日なんだ。もっと特別なことをすると思っていた」
誠の思い付きはカウラの心には特に刺さるようなものでは無いようだった。
「いつもと同じようで、いつもと同じじゃない。そんな日ですよ、誕生日って。少なくとも僕の場合はそんな感じでした」
誠の答えにカウラはまったく理解が出来ないと言うようにひたすら首をひねっていた。
「カウラちゃんの誕生日なんだから!そうね……ゲルパルトだとクリスマスと言えば恋人と子供達のものだから。誠ちゃんを一日貸してあげると言うのは……私が楽しめないからつまらないし……」
アメリアの言葉にカウラの瞳が光った。
「なるほど、恋人達のものなのか。だからモテない宇宙人の国の東和では流行らないのか。東和の生涯未婚率は80パーセントだからな。大企業の勤め人か公務員以外は結婚できない国だからな、ここ東和は」
カウラは納得したのかしていないのか良く分からない表情のままアメリアの顔をじっと見つめていた。
「確かに東和のクリスマスはパッとしないな。甲武の伴天連冬至の方がよっぽど華やかだ。まあ、生涯未婚率80パーセントの国で恋人達のクリスマスなんて言ったって誰も付いてこねえだろうけど」
かなめは皮肉たっぷりに誠に向けてそう言った。
「でも、隊長は浮かれてましたよ。風俗店のサービスが良くなるとか。まあ風俗店はモテない人の為にある施設ですからそうなるんでしょうけど」
誠は最近、嵯峨が頻繁に風俗情報誌を誠に見せて来るのでそんな要らない情報を覚えていた。
「あの『駄目人間』の生活圏だけ良くなっても面白くねえだろ。それにあの小遣い三万円の男にクリスマスの割高な風俗店に行く余裕なんて有るのか?」
まっとうなかなめの問いに誠は黙り込むしかなかった。
「ああ、隊長なら先日娘さんの前で土下座してたぞ。なんでも急な出費があると言って金の無心をしていたらしい。どうせ今の時期の風俗店に行く金を貰おうとしていたんだろうな。まったく恥ずかしい隊長だ」
カウラがそう答える様を見て、なんという無様な隊長の下で自分は働いているのだろうと誠は自分自身の存在価値に疑問を持ち始めた。