第16話 ゲーム作成期限
「そう言えば……今日は?」
突然アメリアが思い出したように言う様を、明らかに仕上げの作業で煮詰まっているサラがうんざりしたと言う目で見つめた。
「呆けたの?今日は12月15日!誠ちゃんのところに今ルカのやってるデバック作業を今日中に仕上げないとって言いつけて出かけたのはアメリアじゃないの!」
サラはそう言うとピンクの髪を掻きあげた後、机の上のドリンク剤に手を伸ばした。アメリアはサラの最後の力を振り絞っての叫びにただあいまいな笑みを浮かべるだけだった。
「でもいいわ。所詮同人ゲームだもの。納期が延びるのは当たり前だし。元々余裕を持って切ったスケジュールだから伸びても大丈夫よ。ご苦労様ね」
アメリアは自分がユーザーな分だけルーズにそう答えた。
「おい、アメリア。それじゃあ今日の私の苦労はなんだったんだ?」
ルカが珍しく怒りをあらわにマスク越しにそう言ってアメリアに迫った。
「報われるわよ……私の今日のおかずとして」
あまりにあっさりとした身勝手なアメリアの回答にさすがに無口なルカも切れた。
「誰がお前の性生活の為にこんな苦労をしなければならなかったんだ!アメリアの身勝手の犠牲になるのはもうたくさんだ!」
アメリアの無責任な一言にルカがそう叫んだ。どちらかと言うと影が薄く、ハンドルを握っているとき以外は感情を見せないルカが怒っているところを初めてみた誠は驚いていた。
「いいじゃないの。それよりも後で良いもの上げるから。走り屋なら飛びつくような自動車モノアニメの一品。今はプレミア価格がついてて結構レアなのよ」
アメリアにとっては仕事と趣味の区別はまるでないものなんだと誠は痛感していた。
「お前の良いものが良いものであったためしがない!それにどうせそんな有名な作品なら大量に流通しているはずだろ!どうせお前のことだからプラスして変な薄い雑誌とか、男同士が絡み合ってるアニメのレーザーディスクとか!そんなもの私は要らないんだ!私は帰るぞ!」
そう言ってルカは乱れた髪を整えることもせずにこの仮眠室と言う名の修羅場を出て行った。
「あー怒らせちゃった。どうするの?アメリア。デバック要員がこれで全滅よ」
苦労人のパーラはそう言ってアメリアに視線を向けた。
「そんなの私がやれば良いんでしょ?簡単じゃない」
アメリアの辞書に『反省』と言う言葉は無いのだと誠は本当の意味で理解した。