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第6話 趣味にすべてをささげる女

「まあ、神前を虐めるのはこれくらいにしてだ。それより、ゲームのデバック作業中にまた誰かが逃げたのか?あんなゲームやりたがる方がどうかしてるんだよ。アタシは『女王様』だけどあそこまでのプレイは……してたな。すまん、アタシが間違ってた。マゾを舐めちゃいけねえや」 

 真正の『女王様』であるかなめのプレイは誠の想像を超えていた。彼女はにやりと笑ってリアルサディストとして空想サディストに過ぎないアメリアに軽蔑するような視線を送った。だが、アメリアはすぐに状況打開の策を編み出していた。

「そうね、デバックは誠ちゃんと現役『女王様』のかなめちゃんに頼めばいいのよ。残酷表現に対するこだわりはやはり現役の『女王様』じゃないと分からないでしょうから。とりあえずタクシーを呼びましょう。近くの電車の駅まで二人に行ってもらって、そこから豊川に特急で帰れば良いんだわ!そうすれば少しでも時間を稼げる!今は時間が……時間が……」

 明らかに慌てふためいているアメリアはそう言うと誠とかなめの腕を掴んで立ち上がった。

「アメリア!馬鹿なことを言うんじゃない!こんなド田舎にすぐ来るタクシーなんて有るものか!近くの駅まで一時間はかかるんだぞ!ここからだったら高速のインターチェンジの方がまだ近い。すぐにタクシーが来たとしてそのままタクシーで豊川まで帰るつもりか?いくらかかると思ってるんだ」 

 カウラがそう叫んだが、アメリアはすでに端末に手を伸ばしていた。そして左腕で誠の腕を掴みそのまま重い扉を開いた。

「アメリアさん。カウラさんの言う通りですよ。それに房要特急は本数が少ないですし、豊川には停まりませんし。例え都心で渋滞に引っかかるとしてもタクシーを呼ぶ時間と電車の待ち時間を考えたら素直にカウラさんの車で帰った方が早いですよ」 

 その行動で誠は抜けた穴を誠を早く帰すことで埋めようとしているアメリアの魂胆を見抜いた。しかし、車がないアメリアに思いついた案はどう考えても無謀としか言えなかった。かなめは完全にアメリアのさせるままにしている、カウラにいたっては立ち上がってアメリアの後に続いて開いたドアに続いた。 

「そうね、焦った私が馬鹿だったわ。大丈夫よ。島田君はきっと逃げたメンバーの行方をつきとめるわ。彼等も今はフルスクラッチした『デ・トマソ・パンテーラ』の納入も終わって暇してるころですもの。技術部の特に整備班のメンバーの手は空いているはずよ。大丈夫」 

 そう言ってアメリアは誠の手を引いて廊下を進んだ。気になったのか誠が見ている後方ではかなめがニヤニヤ笑いながら付いて来た。

「電車は諦めたか。行きと同じで車は私のでいいんだな。高速は混むから覚悟はしておけよ。時間がかかると言って暴れたりするなよ。アレは私の車だ。大事に乗ってるんだ。その辺を気にかけてくれ」 

 カウラはそう言うと心ここにあらずと言う雰囲気のアメリアに声をかけた。

「お願いできるかしら。あの車の後部座席は私の定位置だから」 

 誠の意思とは関係なく、アメリアとカウラの間で話がまとまった。その様子にかなめはにんまりと笑った。

「毎回誰か逃げてないか?ゲームだのお笑いだのが嫌なんじゃねえの?特に今回のゲームはかえで監修だろ?相当エグくて純情な奴の見てられない作品に仕上がるのは目に見えてるぞ。と言うか、マジで今回アメリアは猥褻図画販売容疑で捕まるんじゃねえの?犯罪者すれすれの島田を超えた犯罪者がうちの部隊から現れるわけだ」 

 かなめもかえでからゲームの企画を聞かされているだけにその内容の壮絶さに思わずそう言っていた。

「あの子達もお笑いやゲーム作りが嫌いなわけじゃないもの。まああの子達にじっとしていろって方が無理な話なんだけどね。実際のにはちゃんとモザイクは入ったものを売る予定だから。かなめちゃんが見たのは原画。当然修正はかけるわよ」 

 そう言うとアメリアは訓練場の粗末な階段を降り始めた。窓の外を見れば、この訓練場の本来の持ち主である東和陸軍の特殊部隊の面々が整列している様が見られた。

「ご苦労様ねえ」 

 そう言いながらアメリアは戦闘服のままの誠の手を引っ張って埃が巻き上がるような手抜き工事の階段を下りながら早足で歩き続けた。

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