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星の落ちた地

カツカツと、あちこちでノミが岩を叩き、削る音が薄暗闇の広間に響く。
それ以外には、話し声ひとつ立ってはこない。
松明に照らされた岩肌は、光を反射して鈍い銀の光を発していた。
その一つを削り、男は長い指で訝しげにそれを見つめていた。
「これが、そう……ですか?」
濃いエメラルドグリーンの肌を持つその男の隣で、白い髭の皺深い老人は高らかに「おう、まさしくそれじゃ!」と痛いくらい男の背中をバシバシと叩いた。
「いたた、やめてくださいよそんなに」
「ここに来た若ぇ連中は見つけるのに半年はかかったモンじゃ。お前さんなかなか素質あるのぉ。名前はなんと言うんじゃ?」
「だーかーら、私の名前はエッザールだと、もう何回言いましたか?」
「ん? 今が初めてじゃないのか?」
そのトカゲ族の男……エッザールは、うんざりした顔で大きくため息をついた。
「いや、もういいです。とりあえずこの鉄鉱石……と、なんでしたっけ名前?」
「お前さんも物忘れが激しいのお。ええか、これは星じゃ。ワシの爺さんの爺さんのそのまた爺さんがここに巨大な流れ星が落ちたのを見てな、大急ぎででっかい穴から掘り出したのが始まりじゃ」
「その星の欠片が、この街の始まりなんですね」
そういうことじゃ、と老人は背負い鞄に星をざらざらと詰め込んで行った。
「ふう、お爺さんはかなりたくさん採ったのですね」
髭や髪こそ伸び放題だが、その腕はエッザール以上に太く、身体は鍛え抜かれた筋肉を宿していた。
「ああ、伊達に二十年ここで星を見つめちゃおらんわい。さて、ガンデのところにこいつを……ぐあっ!」
突然、空気を切る鞭の音が老人の肌を切り裂いた。
「無駄話ヲスルナ! 働ケ!」
布を切り抜いただけの粗末な服装に身を包んだその小さな姿は、生気のない青白い皮膚。そして黄色く爛々と光る目は老人たちを蔑むかのように見つめていた。
倒れた老人の身体に追い打ちをかけるかのように、その人にも似た生物は何度も鞭を浴びせた……が。

「いい加減にしてもらおうか、いくらなんでもやり過ぎだ!」
見かねたエッザールが、青白い生物の顔面に重い一撃を喰らわせた。
「キ、貴様コノ俺ニ歯向カウ気カ!?」
「だとしたら……いったいどうするつもりで?」
エッザールの抑えていた怒りが、震える拳を通して伝わって見えた。
「許サン、今カラ仲間ヲ呼ブカラナ! 飯抜キデ一生最下層で働カセテヤ……!」
そうですか、と一言。エッザールはその生物の細い首を小脇に抱え、反対側にと捻り折った。
「ひょっ!? お、お前……こいつ殺しちまったのか?」
「造作もないことです。こいつら群れてない限りは強くも何ともないですからね」そう言ってエッザールは、事切れた生物の亡骸をポイと暗がりに放り捨てた。

「まあ、これで正体がわかりました……この街はマシャンヴァルに乗っ取られているってことを」
エッザールは老人を手当すると、細い腕で鉱石ごと軽々と背負い上げた。
「とりあえず捕まって正解でしたね……さて、みんなを解放しなければ」
「おお、お前……一体何者なんじゃ!?」
その言葉にふふっと、彼の顔が微笑む。

「ラウリスタに会いに来ただけ。ですよ」

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