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狙われた町

刻一刻とジャノの身体が熱くなっていく。もうこのまま溶けるんじゃないかと思えるくらいだ。
とにかく道をまっすぐ。とはいってもここは荒野だ。イーグの指し示す道を信じてひたすらまっすぐ行くほかない。
シィレで毒でも盛られたか……いや、まさかそんな。
頭の中に浮かぶ様々疑念をとにかく打ち消していく。あのとき一緒に連れて行けばよかったかな、とか。
「見えた! あれがエズモールだ!」
イーグの声に顔を上げると、眼前には巨大な岩山がまるで俺たちの道をふさぐかのようにそびえ立っていた。でけえな……つーか今までこんな山があったなんて全然気づかなかったし。
人の手で山肌が大きく削り取られ、階段状になった至る所に洞窟やら家やらが建っている。その屋根からはもくもくと煙が立ち上っていた。

「ここ、良質な鉄鉱石が採れるんだ。いつしか鍛冶屋がたくさん移り住むようになった……って痛え!」
ンな話はあとだ。医者はどこなんだか早く教えろ! と俺はついいつもの調子でイーグを殴っちまった。

ぶつくさ文句を言いながらもあいつは馬を降り、つむじ風のように俺たちの前から姿を消した。すまねえイーグ。あとでいくらでも殴られてやるから。
ふと、ジャノが小さな声でどうしたのって聞いてきた。
やめてくれよ、姫さんの時といい、二度も大切な存在を胸の中で亡くすのはごめんだぞ。
「街についた。いま医者を探してるからな、もう少しの辛抱だ」
「……らいじょーぶだっていってるやん」
「お前な……やせ我慢するんじゃねーっての!」

しかし不思議だ。あちこちの家の煙突から煙が出てるっていうのに、どこを見渡しても人の気配がしない。なんなんだここ!?
「妙だな。もう朝になっているのに住民が一切姿を見せないというのは」マティエもこの状況を不思議に思っていた。
「違う」と馬車から降りたジールが俺たちにささやきかけた。
「私たち……監視されてる」
「どういうことだ?」
マティエの問いかけに、ジールは後ろの家を指した。
「窓のとこ……人がこっちを見てる」
気づかれないように横目で見ると……確かにそうだった。
カーテンがわずかにめくれている。その影に人の姿が。
「ふん……どうやら私たちは招かれざる客というわけか」言うなりマティエは槍を手にした。
やれやれ。ってことはこの街は獣人嫌いか、もしくは他所からの来訪者は認めていないのか。まあいずれにせよここは早々に立ち去っておいた方が無難か。

……いや、でもここにナウヴェルたちは来たってことだろ? ということはあいつらはいったいどこへ!?

「逃げるだヌ!」
突然、聞きなれない訛りの声が通りの向こうから聞こえた。
「早く、馬車は捨てて早くこっち来るだヌ!」
声のする方向に目を向けると、奥の路地からトガリに似たような細く長い爪が、ちょいちょいと俺たちに手招きをしていた。
「ど、どうするラッシュ?」困惑するジール。
どうもこうもねえだろ、あの手からして俺たちと同じ獣人……まずは信じるしかない。

俺たちは荷物を抱え、人間の視線の届かない場所へと一目散に逃れていった。

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