第九章: 新たな挑戦
その翌週、翔馬は次の計画を練っていた。イベント後、クラス全体が一つにまとまる感覚を掴みかけた一方で、まだ溝を感じる部分もあった。それをどう埋めるかが、彼にとって新たな課題だった。
昼休み、翔馬は一海、誓、宇俊を呼び出し、教室の隅で小さな話し合いを始めた。
「次のイベントについてなんだけど、もう少し全員が自然と関われるようなものにしたいと思ってる。何かアイデアはないかな?」翔馬が切り出すと、一海が口を開いた。
「自然と関わる…なら、もっと日常的なテーマがいいかもしれないな。例えば、クラス全員で協力して何かを作り上げるとか。」
「具体的には?」翔馬が尋ねると、一海は少し考えてから答えた。
「…文化祭みたいな感じで、展示物や発表を準備するのはどうだろう?小規模でいいから、みんなが得意なことを活かせる場を作れば、自然と関われるんじゃないかな。」
「文化祭みたいな展示か…。それはいいかもな。」翔馬が頷くと、宇俊もそれに賛同する。
「全員に何かしら役割を持たせるってのはいいアイデアだな。ただ、役割を押し付けると反発する奴も出てくるかもしれない。」
宇俊の言葉に、誓は少し考え込んだ。
「…そういう場合は、無理にやらせなくてもいいんじゃないかな。例えば、『手伝いたい人は手を挙げて』って形にすれば、気軽に参加できると思う。」
「確かに、誓の言う通りかもな。」翔馬が感心したように笑う。「無理に参加させるより、自由に選べる方がみんなも気楽だ。」
放課後、翔馬は教卓の前に立ち、クラス全員に向けて新たな提案をした。
「次は、クラス全体で小さな展示を作ろうと思う。テーマは自由だ。グループを作って、それぞれが得意なことを活かして展示を作ってみてくれ。」
教室内はざわつき始めた。前回のイベントの成功があったからか、今回は前向きに受け入れる生徒が多かった。
「グループはどうするんだ?」規が手を挙げて尋ねる。
「自分たちで自由に組んでくれて構わない。」翔馬が答えると、教室内で早速話し合いが始まった。
だが、その様子を見ている和綺は、窓際の席で腕を組みながら冷めた表情を浮かべていた。
(また面倒なことを始めるんだな…。俺には関係ない。)
その時、公博が和綺の隣に立ち、冷静な声で言った。
「また参加しないつもりか?」
「別に、俺には関係ないだろ。」和綺はそっけなく答えた。
「関係ないなら、それでいい。ただ、お前が本当にそう思ってるならな。」公博の言葉には、どこか挑発的な響きがあった。
その一言に、和綺の中で小さな苛立ちが芽生えた。
「お前に俺の何が分かるんだよ。」
公博は答えず、ただその場を離れていった。その背中を見送りながら、和綺は胸の奥でくすぶる感情を抱えていた。
数日後、クラスではそれぞれのグループが展示の準備を進めていた。一海と宇俊のグループは、謎解きの延長で「宝探しゲーム」の展示を考案し、材料を揃えていた。ノリトと太起は、体を使った競技のコーナーを作る計画を立てていた。
誓は、翔馬の補助として全体を見回りながら、生徒たちの様子を記録していた。その手元のメモ帳には、各グループの進捗が丁寧に書き込まれていた。
そんな中、和綺は一人教室の端に座り、何も手をつけていなかった。彼の内面では、参加すべきか、距離を置くべきかの葛藤が渦巻いていた。
(どうせ俺なんかが参加しても、誰も期待しない。それに、関われば面倒が増えるだけだ…。)
だが、その瞬間、翔馬が和綺の席に歩み寄り、にっこりと微笑んだ。
「和綺、お前にも得意なことがあるだろ?何でもいいから、手伝ってくれると嬉しいんだけどな。」
その言葉に、和綺は少し戸惑いながらも答えた。「俺に…何ができるって言うんだよ。」
「それを決めるのはお前自身だ。無理にとは言わないけど、何かやりたいことがあったら教えてくれ。」翔馬の言葉は、決して押し付けがましいものではなかった。
和綺はしばらく黙り込んでいたが、やがて小さく頷いた。
「…少しだけなら、考えてみる。」
その返事を聞いて、翔馬は満足そうに微笑み、立ち去った。