第七章: 文化祭当日の劇
イベント当日、教室はいつもとは全く違う雰囲気に包まれていた。机や椅子は脇に寄せられ、壁や黒板には一海が考案した手作りの装飾や謎解きのヒントが散りばめられている。廃校を模した設定に合わせて、教室全体が薄暗く、どこか不気味な空気を醸し出していた。
翔馬は教卓の前に立ち、クラス全員に向かって話し始めた。
「みんな、今日はクラスイベントに参加してくれてありがとう!ルールは簡単だ。教室内に隠されたヒントを見つけて、最終的な謎を解けばクリアだ。協力してやってみてくれ。」
その声に、クラスの生徒たちは少し緊張しながらも期待に満ちた表情を浮かべていた。
「それじゃあ、スタートだ!」
翔馬の合図で、生徒たちはそれぞれグループに分かれ、教室内を探索し始めた。黒板に書かれた消えかけた文字、棚の中に隠された古い紙切れ、さらにはロッカーに仕込まれた謎の鍵──一海が手掛けた仕掛けの数々が、生徒たちを次々と驚かせていく。
「これ、どうやって解くんだ?」規が棚から見つけた紙を広げながら呟いた。そこには古い漢字が並び、解読しないと次に進めない仕掛けになっている。
「ちょっと見せて。」宇俊が紙を受け取り、じっくりと目を通した。「こういうのは論理的に考えればいい。例えば、文字の位置が暗号のヒントになってる可能性が高い。」
「すごいな、お前。なんかプロっぽい。」規が感心したように言うと、宇俊は軽く笑った。
「こういうのは得意なんだよ。それに…まあ、楽しいからな。」
一方で、廊下ではノリトと太起が体を使う仕掛けに挑戦していた。ロープをくぐり抜けたり、隠されたヒントを暗闇の中で探し出したりするタスクが、二人を夢中にさせていた。
「ここだ!この箱の中に何かあるぞ!」太起が声を上げ、手を突っ込む。
「待て、慎重にな!」ノリトが止める間もなく、太起は中から小さなメモを引き出した。それを広げると、次の場所を指し示すヒントが書かれていた。
「やっぱり俺たち最強だな!」ノリトが笑いながら言うと、太起は満足げに頷いた。
一方で、誓は翔馬の近くに立ち、全体の進行を見守っていた。彼は自分の役割に不安を感じていたものの、少しずつその責任感が自信に変わり始めていた。
「誓、大丈夫か?」翔馬が声をかける。
「うん、みんなが楽しんでるのを見てると、なんだか…嬉しい。」誓が控えめに笑うと、翔馬も満足げに頷いた。
「お前がこうしてサポートしてくれるおかげだよ。ありがとう、誓。」
その言葉に、誓はほんの少しだけ頬を赤らめた。
やがて、最後の謎にたどり着いたのは、一海と宇俊のチームだった。彼らは黒板に残された文字の意味を解読し、教室の隅に隠された箱を開ける鍵を手に入れた。
「やったな。一海。」宇俊が軽く拳を突き出すと、一海はそれに応じて笑みを浮かべた。
「これで終わりじゃない。鍵を使って、最後の仕掛けを解かないと。」
二人が鍵を差し込み、箱を開けると、中には「クリア」の文字とともに、ちょっとしたお菓子の詰め合わせが入っていた。
「これかよ!」ノリトが笑いながら声を上げると、教室全体に笑いが広がった。
イベントが終わると、生徒たちは口々に感想を言い合いながら片付けを始めた。
「楽しかったな。」
「またこういうのやりたい!」
「翔馬、いい学級委員じゃん。」
そんな声を聞きながら、翔馬は心の中で静かに安堵していた。
(クラス全員で作り上げたイベントが、こうして成功するなんて。本当にみんなのおかげだな。)
そして、一海や誓、ノリト、宇俊たち、それぞれの心にも小さな変化が芽生えていた。それは、クラスメートとの絆が深まったという感覚だった。