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三人で

「コーゼ……また、攻めてくるんだろうか」

 日も暮れかけた夕方。サポナ村の家へと戻った私たちは再び椅子に座る。全員分の食料を分け合って空腹を満たし、まだまだ話足りていないとばかりに、誰ともなく話題を持ち出していた。

「ステフ?」

「コーゼとカミュートの間でいつ戦いが起きるかわからないんだ。いつ始まってもおかしくないぐらい、険悪だって」

「ステフ、その話詳しく教えて!」

「兄さん、僕もよくはわかっていないんだ」

「そっか。そしたら、やっぱり情報収集だ」

「そうだよね。明日には僕も街で話を聞こうと思う」

「ステフ、私たちと一緒に来るか?」

「本当?! 良いんですか?!」
 
「あぁ。そうすれば、先ほどの様に犬に追いかけられることはない」

「うんうん。一緒に来いよ。獣はアイシュタルトが倒してくれるから」

 ルーイが得意げな顔でそう言った。

「兄さん。兄さんは? 何してるの?」

「俺? 隠れてる」

 はぁ。ステフがルーイの顔と私の顔を見比べながらため息を吐く。

「アイシュタルトは、それで良いんですか?」
 
「あぁ。それでいい。後ろで隠れておいて欲しいと最初に伝えてある。そうでなければ、守ることができぬからな」

 ステフがルーイの真似をしながら、私の名を呼ぶことに、嬉しさを感じる。顔が綻ぶのを誤魔化しながら、そう答えた。
 ふと、ルーイからの視線を感じる。そちらに目をやれば、ニヤニヤとよくないことを考える顔で私を見るルーイがいた。私の声が途中でうわずってしまったことに、何かを感じ取ったのだろう。
 先ほどあの様に煽ったのは、やはり失策であったか。

「ぼ、僕は一応旅ができる程度には鍛えてあります! お役に立てるかわかりませんが、連れて行ってください!」

「戦うというのか?」

「はい!」

「ククッ。わかった。そしたら肩を並べてもらおう。ただし、無理はするな。手に追えないと思えば、すぐにでも後ろで隠れていろ。ルーイと共に、私が守ってやる」

 ステフのその真っ直ぐな気持ちは、何とも微笑ましかった。犬程度からは逃げる必要がないぐらいには、剣を教えてやろうか。そうすれば、再び旅に出る時に少しでも役に立つであろう。

「わかりました」

「ステフも何か武器を持って旅してるの?」

「い、一応剣を持ってはいるけど……使ったことなくて。いつもはその辺に落ちてる木の棒とか」

「何故使わぬ?」

「重たいんです。一振りにかなり力が必要で、使わなくなりました」

「見ても構わぬか?」

「はい」

 ステフが荷物の中から、一本の剣を取り出した。私が手にしてもずしっと重く感じるこれは、もっと大柄な男を想定して作られたものであろう。

「これ、買ったのか?」

「いいえ。元は商品の一つです。獣に襲われた時ように武器を探していたので、ちょうど良いと思ったんですが、まさかこれほど重たいとは思いませんでした」

「ステフの体型には合わないだけだ。街へ着いたら、新しいものを一本作らせると良い。木の棒よりは役に立つはずだ」

「でも……」

「偽物だと思っていた金貨を使えば良いだろう? それで十分だ。足りすぎるぐらいだ」

 足りなければ私が出せば良い。私と離れても、自分を守る術を持たせておきたかった。

「ずるい! 俺も欲しい!」

「兄さん……」

「ルーイが剣を使うのか?」

「ううん。剣はいらねぇ。でも、何か欲しい!」

「ナイフを持っていたではないか?」

 ルーイを捕まえた時のことを思い出す。ルーイはナイフを振り回していたはずだった。

「あれは! アイシュタルトに捕まえられて、どこかに飛んでいったよ」

「あぁ。そうだったな。それならば、ナイフを買えば良い」

「捕まえって……兄さん、何やったの?」

 ステフの顔色が悪くなる。私たちの出会いを話してやろうか。いや、そうすれば兄の威厳が失墜するか。二人を見比べながら、笑いを堪えた。

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