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247章 貧血、酸素不足

 マイ、シラセはトイレを終えて、こちらに戻ってきた。コンサート開始の2分前だった。

 一番手として、ズービトルが登場。ユタカ、マイ、シラセは超一流男性グループに、大いに興奮していた。シラセは興味ないのか、アホ毛は反応していなかった。シノブは目の前を理解できないのか、思考回路がストップしていた。

「ズービトルです。よろしくお願いします」

 コンサート会場に、マイクは準備されていない。マイクを使用せずに、歌を披露するようだ。
マイクなしは非常にレアケース。ミサキの心の中に、大きな興味関心が芽生えることとなった。

「最初の歌は、20歳の僕です。お聞きください」

 市販では売られていない、ズービトルのオリジナル曲。今回のために、新しい曲を準備したのかもしれない。

 旅館にギター、ベースの音が流れる。一音一音の、プロのレベルの高さが詰め込まれている。ミサキは一瞬にして、ズービトルの大ファンになった。

 フユコのアホ毛はピンと伸びていた。音楽に興味のない女性にも、ズービトルのすばらしさは伝わっている。

 マイ、シラセは完全な前のめり。餌付けをされた、動物さながらだった。

 シノブは一音一音を、耳に覚え込ませようとしていた。彼女の心の中で、一生の思い出にしようとしているのかもしれない。

 ユタカは感動のあまり、涙を流している。ズービトルの音楽力に、涙腺は緩んだようだ。

 ズービトルの演奏が終了すると、会場からは賞賛の拍手が送られた。

「二曲目は、「君を心から愛する」を歌います」

 こちらもオリジナル曲。ズービトルはオリジナル曲を、15人くらいの前で披露している。

 二曲目からは、心の中の苦しさ、心の中の葛藤などが伝わってきた。ズービトルくらいの有名
バンドであっても、順風満帆な恋愛は難しい。

「三曲目は、「おなかペコペコガール」です」

 曲名を耳にした瞬間、自身を真っ先に思い浮かべる。ミサキ以外には、「おなかペコペコガール」は存在しない。 

「おなかペコペコガール」の歌詞は、ミサキを想像で書いた世界観。ほとんど当たっていなかったけど、一部にはドンピシャなところもあった。

 ズービトルは歌い終えたあと、頭を大きく下げた。

「ズービトルの曲は以上です。ありがとうございました」

 15分前後の演奏は、心に大いに刻まれた。20年、30年後になっても、忘れることはないと思われる。

 ズービトルの視線は、ミサキのほうに向けられた。

「ミサキさん、サイン、握手をお願いします」

 ズービトルにサインをすることになるなんて。頭の中を整理しようにも、回転は追いつかなか
った。

 ミサキは立ち上がるも、頭の酸素、血液は不足していた。そのこともあって、立ち眩みをおぼえることとなった。

「ミサキさん、どうかしたんですか?」

「シノブちゃん、頭がくらくらする」

「ゆっくりでいいので、頭痛を和らげていきましょう」

「うん」

 ミサキは頭に酸素、血液を少しずつプラスしていく。元気を取り戻した脳は、通常通りに動くようになった。

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