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第十六話 狙われたお姫様


 赤い髪の上に黒の鬘を被り、桃色の瞳に黒色のカラーコンタクトを入れる。いつもの高価なドレスは脱ぎ捨てて、平民の女の子が着るようなワンピースに袖を通せば、どこからどう見ても義姉であるロジィだ。まさか自分がヒレスト国の王女、リリィ姫だなんて誰も思わないだろう。
「いってらっしゃいませ、リリィ姫。くれぐれもお気を付けて」
「やだなあ、ラッセル。今の私はロジィだよ。次間違えたら、いてこますぞ?」
「……ごめんなさい」
 ロジィが『リリィ』として城でお茶会をしているのをいい事に、リリィはいつも通り『ロジィ』に変装して街に繰り出す。
 今日、一緒に出掛けるのはギルド『ゴンゴ』のリーダー、デニスと、ロジィの幼馴染、サーシス。さて、今日は何をして遊ぼうか。
「今日はタコ焼きが食べたいわ」
「相変わらずロジィは食べる事ばかりだな」
「いいじゃないか、そこが可愛いんだから」
 ニコニコと微笑むリリィに、サーシスは呆れたように溜め息を吐き、デニスはふにゃりとだらしのない笑みを浮かべる。
 リリィが『ロジィ』となっている間、サーシスとデニスは彼女を『ロジィ』として扱ってくれる。ロジィ扮するリリィが偽物であるとバレる可能性を少しでも下げるべく、ロジィがリリィとなっている間は、リリィもまたロジィとして過ごすのだ。
 王女である彼女が一般市民の中に混ざっているなんて誰も思わないだろうが、それでも万が一の事がある。だからデニス達ゴンゴの者は、リリィが変装をしている間は、彼女を『ロジィ』として接する事にしているのである。
「タコ焼き美味しー!」
「こんなの、いつでも食べられるんじゃないのか?」
 もぐもぐとタコ焼きを頬張るリリィに、サーシスは呆れた眼差しを向ける。
 しかしそんな彼に対して、リリィはフルフルと首を横に振った。
「そうでもないわよ。意外と家臣達が煩いんだから。こんなところで買い食いしているなんてバレたら発狂するでしょうね。ホント、王女様って窮屈な仕事だわ。上手い事一般市民になれたお義姉様が羨ましいくらいよ」
「そう言ってやるなよ。アイツはアイツで、苦労しているんだから」
「そうかもしれないけど。でも私だって苦労はしているのよ? 学業は一定以上の成績を取らなくちゃいけないし、公務だの礼儀作法を覚えろだのと、色々と面倒臭いし。結婚相手だって、国の利益となる人から選ばなくっちゃいけないんだから。お義姉様には悪いけど、こうして自由に生きていける方が、人生は楽しいと思うけどね」
「それは、そうかもしれないが……」
「まあまあ、いいじゃないか、サーシス君。いつもと違って、可愛らしいロジィちゃんと出歩けるんだから。細かい事は言いっこなしだよ」
「可愛らしい……? オレには、どっちも大して変わらないように見えるけどな」
「あら、それって変装が上手って事? お褒めに頂き光栄だわ、サーシス」
「……」
 パチンとウィンクする『ロジィ』……もとい、リリィにサーシスは呆れた眼差しを向ける。
 幼い頃から、王女として生きて来たリリィには、プライベートといえる時間がほとんどなかった。何をするにしても必ず護衛が付くし、一歩外に出れば、不特定多数の人間から好奇の目を向けられてしまう。だからリリィは休日だろうと関係なく、常に周りの目を気にし、王女としての立ち振る舞いに気を配らなければならなかったのだ。
 しかし『ロジィ』として過ごせる時間は違った。王女であるリリィにはプライベートはないが、一般市民であるロジィは、リリィのように好奇の目を集める事がない。よっぽど奇怪な行動さえしなければ、誰も自分の事など気にも留めないのだ。すれ違って振り返られる事もなければ、たった一回の買い物で店員に顔を覚えられる事もない。その上、護衛であるデニスやサーシスは、自分の事を王女としてではなく、親しい友人として扱ってくれる。
 もちろん自分の正体がバレないように、それをデニス達が仕方なくやってくれている事も、本来ここにいるべきなのが『ロジィ』であり、この居場所が自分のモノではない事も、当然知っている。
 でも……、
(でも、私はここが好き)
 何事もなく流れる一般市民としての時間。この空気も好きだし、傍にいてくれるデニス達はもっと好き。
 だからこそリリィは演じるのだ。この時間が壊れぬよう、精一杯の『ロジィ』を。
「もっとお義姉様の任務が増えればいいのに」
「おい、オレ達の仕事を増やす気か」
「いいじゃないか。僕はこっちのロジィちゃんも好きだよ」
 最初はもっとお淑やかで可憐な姫だと思っていたのに、とサーシスがぼやく。余計なお世話だ。図太くなければ、王女様なんかやっていられない。
「それにしても今日は他国の兵士をよく見かけるね。何かあったのかな?」
 眉間に皺を寄せているサーシスとは対称的に、終始デレデレしっぱなしのデニスが不思議そうに首を傾げる。
 彼の瞳に映るのは、武装をしている青い軍服の男達。ゴンゴの本拠地を出て、街へ向かう通りにも、そして沢山の人で賑わうこの街の中にもちらほらと見掛ける彼らは、その軍服の色から他国の兵士達である事が分かる。
 当然、いつもは見掛けない。それなのに何故、今日はこんなにもよく目にするのだろうか。
「他国というか、あれはマシュール王国の兵士だろ? ライジニア王子の国の。もしかして王子の家出がバレたんじゃないか?」
 青い色の軍服。その色がマシュール王国のモノである事は、大抵の者なら知っている。
 では何故、その他国の兵士が我が国に入っているのか。
 首を傾げるデニスに、その予想をサーシスが伝えれば、彼の予想に同意するようにしてリリィが首を縦に振った。
「可能性はあるわね。そりゃ一日二日なら放っておかれるだろうけど、あの王子が家出して何日になるわけ? こう何日も国を開けられたら、さすがに周りにバレ始めるでしょう? だから大事になる前に、こうして連れ戻しに来たんじゃないの?」
「うーん、でもそれだと、まずはヒレスト城に行くんじゃないかな? それに今日はお茶会の日だ。城に行けば確実にライジニア王子は見付かる。こうやって街の中を捜す必要はないと思うけど……」
「ああ、そっか。確かにそれもそうね」
 ライジニア王子を迎えに来たのであれば、兵士達がこうして街中をウロウロしているわけがない。そう考えるデニスに、サーシスとリリィはそれもそうだと頷く。
 では何故、彼らはこんなところをウロウロしているのだろう。他国の街中で、一体何をしているのだろうか。
「あまり考えたくはない事だけれど、もしかして戦争の準備かしら。確かに次期国王であるライジニア王子は温厚派だけど、現国王であるモンクシュッド国王陛下は我が国との同盟を破棄したがっているのよね? だったら温厚派である王子がいないうちに、モンクシュッド国王様が兵士を派遣し、我が国に攻め込んでしまおうと考えているのかもしれないわ」
「ええっ、ちょ、ちょっと、ロジィちゃん、シャレにもならないような事、言わないでよ」
「だが、確かにそうも考えられる。それに、もしそれが事実であるのなら、これは由々しき事態だな」
「ちょっと、サーシス君まで。止めてくれよ……」
 聞きたくないとばかりに耳を塞ぐデニスだが、その可能性がある以上、目を背けるわけにもいかない。自分達は一般市民であるが、ロジィの任務のおかげでロイ国王とは親しい関係にもある。面会を求めれば、すぐにでも会ってくれるハズなのだ。それを利用して、その可能性をロイに伝えるべきではないのだろうか。
「仕方ないわね。なら、すぐにでも城に戻りましょう。あーあ、せっかく久しぶりに街で遊べると思ったのに。後でライジニア王子に文句を言ってやるわ」
「なら、また城の裏門からこっそり戻るのか?」
「いいえ。せっかくだから、お義姉様のふりをして堂々と正門から戻るわ。城にいる高貴な連中って、庶民の事を見下しているでしょ? だからお義姉様のふりをして、わざとあいつらから小馬鹿にした視線を集めるの。そして十分にその視線を集めたところで、突然変装を解いてやるのよ。そしたらあの人達、一体どんな反応をするのかしら。ふふふっ、楽しみぃ」
(小馬鹿に……?)
 クツクツと喉を鳴らして笑うリリィに、サーシスとデニスは訝しげに首を傾げる。小馬鹿にとは、一体何の事だろうか。
「さ、そうと決まればさっさと戻りましょう。万が一の事があってからでは遅い……」
 遅いのだから。
 しかし、そう言おうとしたリリィの言葉は最後までは続かなかった。
 青い軍服を着たマシュール王国の兵士。その内の一人が、サーシスに銃口を向けている事に気付いたのだから。
「サーシス!」
「っ!」
 パンと乾いた銃声が鳴り響いたのと、リリィがサーシスを突き飛ばしたのは同時だった。
 人の喧騒にかき消されてしまったのだろう。銃声が鳴り響いたというのに、それに気付いた者は誰もいなかった。
「ロジィ!」
「大丈夫、掠っただけだし、私には癒しの力がある。問題ないわ」
 腕を押さえて膝を着くリリィの体を、サーシスが慌てて支える。彼女を守るために傍にいたハズなのに。それなのに逆に守られてしまうとは、何たる失態だろうか。
「すまない」
「そう思うなら、安全なところまでちゃんと守りなさいよ」
「ああ、当然だ」
 軽口を叩く元気があるのなら大丈夫だろう。サーシスはリリィを背後に庇うと、デニスとともに銃口を向ける兵士に向き直った。
「おい、女は傷付けずに連れて来いって話だろ? 何やってんだよ」
「悪い、悪い。あそこで女が動くとは思わなくてさあ。次はちゃんと外さねぇよ」
「ああ、マジで気を付けてくれ。報酬が減ったら意味ねぇからな」
 銃を持つ兵士の下に、他の兵士達もゾロゾロと集まって来る。思ったよりも人数が多い。少しヤバイかもしれない。
「まさか、マシュール王国の目的は、リリィ姫の誘拐か?」
「かもしれないね。でも、何でバレたんだ? ここにいるのはどこからどう見ても『ロジィ』ちゃんだし、彼女がリリィ姫である事を知っているのは、僕達ゴンゴの者と、国王様だけだ。マシュール王国に情報が漏れたとも考えられないしね」
 ヒソヒソと、サーシスとデニスはその原因を話し合う。
 しかし、今はその原因を探っている場合ではない。何とかしてこの状況を打破しなくてはならないのだから。
 今はこの窮地を脱し、リリィを安全な場所に連れて行く事だけを考えよう。
「おい、何だ、アレ?」
「ねぇ、あの人銃持ってない?」
「何だよ、アイツら、何したんだよ!」
「逃げろ! 巻き込まれるぞ!」
 その状況にようやく気付いた人々が、悲鳴を上げながら慌ててその場から逃げ去って行く。その様子を横目で見遣りながら、マシュール王国の兵士は呆れたように溜め息を吐いた。
「お前がこんなところで発砲するから、騒ぎになっちまったじゃねぇか」
「別にいいだろ、オレ達の目的はあの女の子を連れ去る事なんだから。他のヤツらにバレようが何しようが、大した問題じゃない。それに……」
 そこで一度言葉を切ると、男はサーシス達に不気味な笑みを浮かべた。
「目的が達成出来れば、他の誰が死のうが構わねぇよ」
「……」
 躊躇いのない殺意に、サーシスとデニスに緊張が走る。
 しかしこちらとて、殺されるつもりもなければ、命が欲しいからといってリリィを差し出すつもりも毛頭にない。必ずリリィは守り切る。相手の思い通りになどさせるものか。
「とは言っても、少々こちらにとって分が悪い。サーシス君、彼女を連れてギルドへ。そして仲間を呼んで来てくれ」
「一人で大丈夫か?」
「二人してやられるよりマシだろ」
「分かった」
 その言葉が何を表すのか、サーシスとて分からないわけではない。しかしそれでもデニスの覚悟を酌んで首を縦に振ると、彼はリリィの腕を掴んだ。
「行くぞ、オレから離れるな」
「でも、デニスが……っ!」
「いいから早く!」
 デニスを残して行く事に躊躇いを見せるリリィの腕を強く引き、サーシスはその場を離れようとする。
 しかし集まって来た兵士達に行く手を阻まれ、その先に進む事は出来なかった。
「逃がすかよ!」
「警備兵が来たら面倒だ! さっさとやっちまうぞ!」
「ちっ!」
 逃げられない、そう判断したサーシスはリリィから手を放すと、代わりにその手に剣を握る。
 そうしてから、彼はデニスに向かって声を上げた。
「デニス、先にこっちを片付けるぞ!」
「……仕方ないね」
 剣を片手に走り出すサーシスに小さく溜め息を吐くと、デニスもまた剣を手に敵を迎え撃つ。
 敵国の兵士が言うように、しばらくすれば騒ぎを聞き付けた警備兵達がやって来るだろう。彼らに『ロジィ』の正体がバレてしまうのは痛手だが、今はそうも言っていられない。逃げる事が不可能なら、ここで時間を稼ぎ、警備兵達が来るのを待つべきだ。
「さっさとその女を渡せ!」
 剣を片手に大きく振り被って来る男の攻撃を屈む事によって避けると、デニスは相手の腹に剣の柄を勢いよく叩き付ける。
 ぐう、と呻き声を上げて男がよろめけば、デニスはその男を大きく蹴り飛ばした。
「?」
 簡単に吹き飛んだ男に、デニスは眉を顰める。
 弱い。本当にマシュール王国の兵士か、と疑う程に。
「ぐあっ!」
 背後から、二人の兵士が同時にサーシスに斬り掛かる。
 しかし剣を大きく振り被ったせいで胴ががら空きだ。同時に肘鉄を打ち込めば、これまた同時に男が呻き声を上げる。よろめいた隙に二人の後頭部をわし掴むと、サーシスは互いの額を思いっ切りぶつけ合う事によって、彼らを地に沈めた。
(剣の扱いも素人並じゃないか)
 デニス同様、サーシスもまた鍛え抜かれた兵士らしからぬ剣捌きに眉を顰める。
 するとその様子を見ていた兵士達から声が上がった。
「くそっ、男はいい! 女を狙え!」
「っ!」
 その声に、サーシスは更に表情を曇らせる。
 正攻法で敵わないと分かった途端、先に弱者を狙うつもりか。卑怯な事この上ないな。
「サーシス!」
「ロジィ、下手に動くな。守り切れない!」
 ここから逃がせば彼女に追手が付く可能性がある。そうなれば彼女を守る事は出来ない。ここは彼女をギルドに逃がすのではなく、目の届く範囲に置いた方が、確実に彼女を守る事が出来るだろう。
 そう判断したサーシスは、リリィを背後に庇いながら、襲い来る兵士達を順番に薙ぎ払って行く。
 それを横目で見遣りながら、デニスは兵士達に攻撃を仕掛ける。
 よく分からないが、兵士達は然程強くはない。確かに人数は多くて厄介だが、このまま数を減らして行けば、隙を突いてギルドに逃げる事も可能だろう。
(とにかくリリィ姫はサーシス君に任せて、僕は敵を減らす事に集中しよう)
 そう考え、デニスは次々と兵士達を倒して行く。
 しかし次の瞬間だった。デニスの瞳が、それを捉えたのは。
「っ!」
 剣で襲い掛かって来る兵士の後ろで、真っ直ぐにこちらに銃口を向けている兵士の姿を捉える。そうだ、拳銃を持っている敵がいたのだった。
(厄介だな)
 斬り掛かって来た兵士の剣を打ち払うと、デニスは拳銃を持つ兵士がその引き金を引く前に、屈む事によってその銃弾を躱そうとする。
 飛び道具は厄介だ。先にあの男を仕留めるべきか。
「っ!」
 しかし次の瞬間だった。拳銃の男の口元が、嫌な笑みを象ったのは。
 そしてその焦点をデニスから外し、それを真っ直ぐにリリィへと向ければ、デニスに戦慄が走った。
(しまった!)
 男の狙いは自分ではない、リリィだ、と男の視線からデニスが判断するのに、そう時間は掛からなかった。
 しかしそれが分かったところで、今から男を止める事は出来ない。自分がその男を薙ぎ払うよりも、男がリリィを撃ち抜く方がきっと早い。
(させるか!)
 このままでは間に合わない。
そう判断した瞬間、デニスはその凶弾からリリィを守るべく、反射的に彼女の前へと飛び出した。
「ぐあっ!」
「デニス?」
 パン、と乾いた音が響けば、リリィを庇ったデニスが、呻き声とともにその場に崩れ落ちる。
 ドサリと倒れたデニスの姿にリリィは一瞬時を止めたが、次の瞬間には真っ青になりながら彼に駆け寄ろうとした。
「デニス、デニスっ!」
「待て、ロジィ! 動くな!」
 倒れた友人の姿に我を失うリリィの腕を、サーシスは掴む事によって引き止める。
 しかしそれによって生じたサーシスの隙を、男達が逃すハズがない……いや、デニスが倒された事によって、サーシス自身も僅かに動揺してしまったのだろう。そしてその動揺した隙を逃すハズもなく、男が剣で斬り掛かって来た。
「くっ!」
 その殺気に気付き、サーシスは慌ててそれを剣で受け止める。
 しかし守らなければならないリリィや、剣を振るう男に気が取られてしまったせいだろう。サーシスは自分に向けられていたその銃口に、気付く事が出来なかったのである。
「うわあっ!」
 パン、と乾いた音とともに凶弾がサーシスを貫けば、リリィを引き止めていた彼の腕が力なく落ちた。
「サーシス!」
 悲鳴を上げて倒れるサーシスに、リリィの表情が真っ青に染まる。
 しかしそんな彼の体を支えるより早く、男の荒い手がリリィの腕を乱暴に掴んだ。
「ちょっと、何するのよ! 放して!」
「うるせぇ、散々手こずらせやがって!」
「一緒に来てもらおうか!」
「きゃあっ!」
 男が力任せにリリィの腕を引けば、腕に走る痛みにリリィから悲鳴が上がる。
 しかし、
「あ?」
 グイッと、足に掛かる僅かな重みに、男は訝しげに眉を顰める。
 気怠そうに見遣れば、怪我を負いながらも、自分の足を掴む事によってリリィの誘拐を阻止しようとするサーシスの姿があった。
 急所は外していたのだろう。どうやらまだ、息があるようだ。
「ンだよ、まだ生きてんのかよ」
「彼女を、はなせ……っ!」
「ちっ」
 まだ息があるのなら、死んだふりでもしていれば良かったのに。わざわざ殺される方を選ぶなんて、何てバカな男だろうか。
「止めて!」
 サーシスに止めを刺そうとする男にリリィが悲鳴を上げるが、そんな声を男が聞き入れるハズもない。
 力なく睨み付けて来るサーシスに剣を振り上げると、男は無情にも、その剣をサーシスへと振り下ろした。

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