86章 昼食格差
時刻は12時になった。普通のおなかをしている人は、昼食をとる時間である。
「アヤメちゃん、食事はどうするの?」
アヤメはオイリー肌、アトピー性皮膚炎なので、食事に万全の気を配っている。顔がはれてしまったら、引退の2文字がよぎることになる。
「寒天を持っているから、それを食べることにする」
「寒天?」
「うん。そうだよ」
寒天は栄養素が高いものの、エネルギーは少なめである。おなかを満たすためには、他の食材が必要となる。
「いろいろな栄養素を、寒天の中に詰め込んでいるの。見た目はヘルシーだけど、ビタミン、タンパク質、ミネラル、カルシウムといった栄養をとれるよ」
寒天を作るときに、カルシウム、ミネラルなどを溶かしているのかな。ミサキはどのように作っているのか、見当もつかなかった。
「アヤメちゃん、昼食は寒天だけなの」
「そうだよ。昼食は寒天だけだよ」
「寒天だけで、おなか一杯になるの?」
「ちょっと足りないかもしれないけど、気にするほどではないかな」
寒天だけでおなかがいっぱいになる。20000キロカロリー少女にとって、夢のような食生活である。
「最初はきつく感じるけど、徐々に体が慣れていくの。最初は2000キロカロリーくらいが必要だ
ったけど、最近は1日1000キロカロリーで生活することもあるよ」
「1000キロカロリーで生活する?」
「そうだよ。1000キロカロリーで生活するの」
ミサキの必要カロリーは20000。アヤメの摂取カロリーの、20倍を体に入れなくてはならない。
「朝は400キロカロリー、昼は200キロカロリー、夜は400キロカロリーくらいだよ」
120グラムの米(0.8号)で、400キロカロリー。茶碗一杯を食べたら、アヤメの摂取エネルギーに達する。
「アヤメちゃん、米は食べないの?」
「米はあんまり食べないかな。カロリーにはなるけど、栄養にはならない。少ないエネルギーの中に、いかに栄養素を詰め込むかを重視しているの」
「パンとかは食べるの?」
「玄米パン、野菜を練り込んだパンを食べる。栄養たっぷりで、とってもおいしいよ」
本当においしいとしても、食べたいという気持ちにはなれなかった。