39章 シノブの眼光
20人前くらいまでは順調だったものの、21人前からは急速にスピードダウンする。そのこともあって、完食するのに90分を要することになった。
12400キロくらいのカロリーを、短時間で摂取したからか、強烈な腹痛に見舞われることになった。腹痛になるのは、こちらの世界で初めてである。
「シノブさん、トイレを貸してください」
「はい。従業員トイレは、こちらになります」
ミサキの背中に、シノブの掌の体温が伝わる。マシュマロさながらの、柔らかさを伴っていた。
「ミサキさん、体に異常はないですか?」
「腹痛くらいですね」
おなかは痛いものの、他の部分は問題なかった。
「体に鞭を打つのは、NGですよ」
「すみません」
「体調が回復したら、仕事をお願いしたいと思います」
「はい、わかりました」
従業員に親切に接していた、女性の目が急に鋭くなった。
「体の健康は貴重な財産です。絶対に壊さないようにしてください」
敬語を使用しているものの、有無をいわさない響きがあった。
「わかりました」
ゴミさながらに従業員を扱う人も多い中、人を大切にしようとしている。そのことに対して、感銘を受けることとなった。