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告白

 ユウトと向かい合うセブルはしばらく黙る。うつむき何かを深く考えているようにユウトには見えた。セブルを焦らせたくなかったユウトも黙ったままセブルが語り始めるのを静かにまつ。そしてセブルは顔を上げて語り始めた。

「魔獣と呼ばれているあれらの正体は、もうご存じの通りクロネコテンです。ネコテンは人に危害を加えない魔物ですが、あることをされることによって指示された内容を全うする存在、魔獣へと変化します」

 セブルの語る内容にユウトは頷いてこたえる。

「そのあること、というのが核の増設です。おそらく魔物というモノはそれぞれ核によって自身の形を作っているんだと思います」
「一つ聞いてもいいか?」

 ユウトは言葉が切れるのを見計らって軽く手を上げてセブルの語りをさえぎった。

「はい、なんですか?」
「セブルにも核はあるのか?自覚はできるものか?」
「もちろんあります。ただ自覚するには魔女の家でジェスにその方法を教えてもらって初めて自覚できましたけど」
「そうか・・・ならその核というのはゴブリンのこの身体にもあるということだろうか」

 セブルは少し間をおいてユウトに答える。

「おそらく、身体のどこかに存在しているはずです。ゴブリンも魔物のはずですから」
「わかった。すまない、話を続けてくれ」

 街道で魔獣を討伐した時に見た宝石のようなものが自身の身体のどこかにあるのだと想像してユウトは若干動揺してしまっていた。

 そんなユウトの変化にセブルは気づいたのか首をかしげて見つめるが話を再開させる。

「核を増設されてその身体を変質させたネコテン達魔獣に与えられた役割はこの地に潜むゴブリンの排除でした。これはボクの想像ですが本当の目的はあのゴブリン、ロードの抹殺だったのかもしれません」

 セブルの予想は当たっているとユウトはあの雨の日のロードとの取引での話を思いだした。

「ゴブリンを見つけ殺すことだけを目的として駆けまわるモノとなってしばらく経ったある時、身体を支配するもう一つの核から指示の変更が行われました。
 それは魔獣を一か所に就業させるものだったのを覚えています。そしてその時、ボクはたぶんもう一つの核の支配から逃れるために指示の更新を邪魔したんだと思います。結果的にその抵抗は新たな核に負荷を与え、機能障害を引き起こさせ、ついにユウトさんと出会えて、もう一つの核の支配から救ってもらえたんです。そしてさらに生きる機会を与えてもらえたことを本当に感謝しています」

 ユウトは野営地のあの夜、魔獣との戦いのことを思い出す。あの感情的で直線的な攻撃、行動はセブルの核に対する抵抗の表れだったのかもしれないと考えていた。

「ボクはあの時、ユウトさんに二度救ってもらっています。そしてついさっきこの子の生死の分かれ道を見て、あの時の自分自身と重なってしまって・・・我がままとわかっていましたけど同胞を助けたかったんです」

 セブルはそう言って隣で座っているもう一匹のクロネコテンを見下ろす。その視線に気づいたのかスッと立ち上がりその体をセブルに寄り添わせた。

「セブルに助けられたからか随分と慕われてるな」

 じゃれあうクロネコテンを見てユウトは顔がほころぶ。

「こ、こら。離れておとなしくして。まだ大事な話をしてるんだから」

 セブルがそう言うとクロネコテンは渋々といった様子で離れてもといた位置へと戻った。

「ん?そのクロネコテン、言葉が通じたのか?」

 ユウトはいぶかしげに大人しく座り直したクロネコテンを見つめる。

「・・・本来のネコテンであれば言葉は通じません。本当なら身体を触れ合わせた魔力のやり取りで気持ちを伝えあいます。でもこの子はボクの送った魔力に載って知能と知識を少し得たんだと・・・思います。そしてボクの持ってる知能と知識は・・・」

 セブルは話を進めていくにつれ、しどろもどろになっていった。

 ユウトはそんなセブルをただじっと待つことしかできない。どこか辛そうに感じられるセブルにもう話さなくてもいいと助け舟を出すことができたかもしれなかった。それでも踏み込むと決めた自身の決心を想い出してユウトは待つ。セブルはぽつぽつと言葉を紡ぎ始めた。

「ボクはある時突然、自分というものがあると気が付きました。そしてある程度の知恵を持ち、それは何かを食べ、取り込んだ結果なんだということを理解していました。

 その・・・ユウトさんは怒るかもしれませんが、取り込んだ何かは人であるということに罪悪感はありませんでした。

 でもその人を思うとき、とても哀しいような切ないような分解も説明もできない感情で頭の中がいっぱいいっぱいになってしまうんです。

 その感情がボクのものなのか、その人のものなのか。取り込まれたせいなのか、取り込んでしまったせいなのかもわからないんです。

 ただただ、理由のわからない感情ばかりがあふれ出してきて、おぼれてしまいそうで」

 紡ぐ言葉が重なるにつれセブルの身体は変化を始める。徐々に変わり始めるセブルの姿は頭が落ちそうなほどうつむき両手で顔を覆った女の子だった。

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