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エッザールが頼みに頼みこんだ結果、いちおう結婚されるのだけは回避できた。けどこれって一族の中じゃ異例らしく、形式だけでもやるということに。

しかもアスティさんが式を受け持つって話だし!



なんだかなあ、ここに来てトラブルだらけだ。

エッザールはラッシュと人獣討伐に行った時の土産話で引っ張りだこだし、さらにはこの村にディナレ教会を建てる計画らしく、アスティさんはずっと駆り出されてるし。俺は俺で一気にヒマになった。



「フィン、ここに居たのか」庭先でぼーっとしてたら、パチャさんが俺の前に現れた。

「ケガは……その、大丈夫か?」

ケガとはいってもほっぺたかすってちょっと擦り傷できただけだし。けど彼女はすごく深刻な顔をしてる。

二人とも何を話していいか迷ってると、疲れた顔のエッザールもふらふらとまるで俺たちに引き寄せられるように来た。

「フィン、妹に代わって礼をいうよ。なんせこんな性格だからな、我々一族の間でも……」

「兄貴、そのことはあたしが」

だいたい言いたいことは分かってた。このトカゲ一族は、男も女もきちんと「らしく」することが普通のことなんだって。

「唯一分かってくれたのが、兄貴と、それにフィン。お前なんだ……それに」

目を合わせづらいのか、ずっと下を見たまんま。

きっと人間なら顔が真っ赤になっているのかな。

「寒さで倒れているところに命を救われた挙げ句、その……求婚をお前にされるとは思わなかった」

「だから、なんで俺が求婚なんか……」

忘れてた、教えてもらう約束だってことを。

それを問うと、パチャは大きく深呼吸して、俺に一気にまくし立ててきた!



「あたしたちシャウズの一族はな、男が意中の女性に結婚を申し出るときは、そ、その……」

言うに言えないパチャの代わりにエッザールが。

「自らの身体の匂いの付いた布や物を、相手に嗅がせるのだ」

「それってつまり、汗臭くなったシャツとかを嗅がせたりとか?」

「ああ、つまりはそういうことだ」



え……なにそれ? そんなことした覚えねーし!



「おい、まさか忘れたとは言わせねーぞ!」と、激昂するパチャをなだめつつ、エッザールは続けた。

「あまりこういうことは我々男性の方からは言えないんだ。だからパチャが」

「いやマジでわからねーよ! いいから言ってよ!」



どうしようもない気恥ずかしさでパチャの両がプルプルと震えていた。そんなに言えないことなのか……?



「倒れてるあたしにや・っ・た・だろ!」

「焚き火の前であっためたこと?」

「ち、ちがう……それじゃなくて……」だんだんとパチャの声が小さくなってきた。



「フィン! お前の履いてる靴の匂いをあたしに嗅がせたじゃないか!」



え……え、ええええええええええ!?



そうだ! あのときアスティさんがやってたことを、つい俺も真似して!

まさかあのとき目を覚まさせた人が、パチャさんだったってこと!?



「突然あんなことされて、お前の靴……すっげえ臭くてマジで死んじゃうかと思ったけど……でもその行為がお前の優しさと愛情表現なんだって、あたしはすぐに思ったんだ!」



優しさじゃねーからそれ! ついアスティさんの真似して試してみたかっただけなのに!

「じゃあなんでそんなくっせー足の臭いをあたしに嗅がせたんだよ! もしかして面白がってたのか?」



「ないないない! それはない!」



「そうだ! フィンもアスティも足が臭いからって気にする必要はない。我々獣人と違って人間は靴を履くのが当たり前なんだから、むしろ君たちは臭いことを堂々と誇るべきじゃないかと思うんだ」



「そんなの堂々としたくねーよ! つーか臭い臭いってそんなにデカい声で言わなくてもいいじゃねーか!」



マジかよ、あれが求婚の仕方だったなんて知らなかった。調子に乗って真似するんじゃなかった……



あああもう! アスティさんのバカぁぁぁあ!

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