6
エッザールに特に何も聞かないうちに朝になった。
お互いに渡された武器は刃と切先の落とされた剣。うん。使い慣れてるやつだ。
あとは愛用の盾。いわゆるバックラーって小ぶりの丸いやつも使わせてもらうことにした。これはエッザールのお古を譲ってもらったんだよね。
ルールは簡単。相手に参ったと言わせるか、致命傷となる場所に刃を当てればいいだけ。
けど……結局は勝っても負けても結婚される自体に変わりはなし。あとはエッザールがどうにかしてくれないと。
「パチャカルーヤさん、俺が勝ったら求婚のこと教えてくれる?」
パチャさんはちょっと面食らった顔をして「ああ……分かった。お前が勝てたらな」と渋々。
っていつの間にお前って呼ばれるようになったんだか。
「おっ、フィン君手合わせでもするのかい?」とまだ寝ぼけ眼のアスティさん。いいなあ、ここまで鈍感な人になりたいよ。
家の大きな庭を闘技場に見立てて、家族のみんなは輪になって見守ってくれている。
しかし、相手がどういった剣術とかスタイルかを知らぬままなし崩しに決まったもんだから、自分もどういうやり方で攻めればいいのかさっぱりわからぬまま。
複雑な気持ちのまま、バァン! と戦いを知らせる大きな銅鑼が打ち鳴らされた。
構えにしろ何にしろ、やはりエッザールの妹だからか、俺のスタイルとほとんど変わりない。あとは本気で打ち込めばいいのか、それとも手加減して……
と考える暇もないまま、パチャは下段から俺の剣を跳ね上げる猛攻に出た。しかも一本の剣を右に左にと持ち替えて攻めるもんだから、剣筋がトリッキー。
やっぱり女性だからかな、一つひとつが軽い。この程度なら……と、上手いこと横に弾いた俺は、そこから遠慮なく攻めさせてもらうことにした。
俺の攻撃に歓声が上がる。だがパチャの方はそれほど声援がない。やはり彼女は家族からあまりいい目で見られてないのかもしれないな。
大人サイズの剣しかなかったので一振りするたびに腕が持っていかれそうになるのをぐっと押さえる。あまり長い戦いに持ち込めそうにない。けどそれはパチャも一緒だ。
「フィン、お前……手加減してんじゃねえぞ!」
息を切らしながらパチャが俺に放った。
「本気でぶった斬るつもりで来い!」
しかしそんなこと言われても、彼女の肌ってすごい綺麗だし、それを傷つけたりでもしたら……うわっ!
左の頬を剣がかすめた。しかしいくら刃のない剣とはいえ、それなりに……うん、拭った手にちょっと血が。
その血で、今まで抑えつけていた俺の闘争心にも火がついたみたいだ。そっちがそう来るなら俺も!
左手に持ったバックラーでパチャの視界を一瞬さえぎり、その隙に突きと首元に一撃を加えようとしたものの、軽いステップですぐ避けられてしまう。
「どうした、息が上がってんぞ!」
パチャは一気に上段から振り下ろしてきた、ヤバい!
こういう場合……そうだ!
姿勢を低くしてそのままパチャの懐へごろんと前転した俺は、すぐさま彼女のがら空きの左の脇腹に一太刀(もちろん寸止めだけど)入れた。
「勝負あり! 勝者はフィン!」
「な……んだと」振り抜いて地面に刺さった切先を抜いたパチャ。その顔は敗北というより、呆気に取られていた感じだった。
「お前……本気でやれって言ったじゃねえか! あたしは遊びで斬り合いごっこしてんじゃないんだ!」
そう、パチャはその気持ちで俺とやり合っていたんだ、けど……
「悪ィ、俺、パチャカルーヤさんの身体を傷つけたくなかったんだ……」
え……というパチャの驚きの声と共に、周りからも大きなざわめきが。
「そ、それって、つまり……あたしのことを!?」
いやいや、好きとか嫌いとかそーゆー問題じゃなくてね。ラッシュが以前話していた「女は殴らねえ」って持論と同じようなものだから!
まあとりあえず、勝負には勝てたわけだけれども、これから俺、どうなってしまうんだか……