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「なんのこたぁないさ。簡単簡単。あたしと戦って試してもらいたい、ただそんだけ。けど……本気でやらせてもらうのが礼儀さ」
そしてパチャカルーヤさんが勝ったら、俺を婿に。
逆に俺が勝ったら、パチャカルーヤさんを嫁に。
……って、あれ? どちらにせよ俺が結婚ってことになるんでは!?
「……まったく、そんなコトあたしに言わせるなよ」
「そ、そういうことだ、フィン。兄からもお願いしなければ、なら……ない」
そんなうやむやなやり取りをしていた矢先、パチャ(長いから略)さんの隣から、ひときわ大きな身体をした男の人が俺に歩み寄ってきた。
「フィン君。この子に代わって私が話そう。つまりは娘が君に……その、一目惚れをしてしまったのだ」
いやそれは分かるけどさ、だからなんで種族すら違うってのに俺が惚れられるワケ!?
「見ての通りこいつはかなりの男勝りな性格……とにかく己の強さを男衆以上に誇示したいわがままな分からず屋なのだ。分かってくれ!」
だ か ら 理由 を 聞 き た い ん だ よ!!
他の人に聞いても、その理由は話さず……。エッザールさんも同様だった。みんな言葉を濁してるんだよな。
「本人に聞いてくれ……」だってさ。
でもまだ俺、結婚なんて年齢じゃないしな……
「心配ない。私たちの婚礼期は十歳からだ」
さっきの男の人がそうは言ってるけど、俺……適齢期だし。アウトだし!
ちなみに例の男の人は、娘って言ってたとおり、エッザールとパチャさんの親父だった。
なんかもうそこから大盛り上がり。でも見るからに「おお、パチャがやっと求婚したのか」って。まるで厄介ものみたいな言い方されてるんだよね。たしかに今話しただけでもそれはなんとなくわかる。えっザールのもう一人の妹さんと比べられてるのかもしれないけど、全然性格とか言動が真逆。つまりパチャさん男っぽいんだもん。
要はそういうのが嫌がられてるから、さっさと嫁いでもらいたい……ってことなのかもね。
いやいやそうじゃなくて、なんでいきなり俺が求婚されて、なおかつみんなその理由を口にしたがらないのかっていうの。それも気になるし。俺はただ単にエッザールと修行してもうちょっと強くなりたいだけなのに。あのクソ親父みたいに所帯を今から持とうだなんて全然思ってないから!
「エッザール、これって断ることってできないの?」みんな酒が入って身体が熱くなったのか、ようやく踊ったり歌ったりの盛り上がりモードに突入してきた。
「あ、ああ……今それを妹から聞いたのだが……」表から騒ぎを聞いて加わってきた人も交ってきて、もうどっかの酒場みたいにどんちゃん騒ぎと化してきた。だけど当のエッザールだけは深刻な顔をしているわけで。
喧騒に背を向けて、誰にも聞かれることがないように、ポツリと。
「周りの話を聞くと、どうもフィン、君がパチャに求婚したみたいなんだ」
「え、えええええ!?」記憶にない。マジ心当たりないし!
「アスティさんが酔った勢いでなんかしたとか?」それくらいしか考えられない。
「あっれぇ〜? フィンそんなトコでなにひそひそ話してるんらぁ? こっちきて一緒にのまないかぁい?」
相当飲まされたっぽいのか、アスティさんはろれつも回らないわマトモに立つことすらもできない状態だ。
けど、パチャさんがそんな彼と僕とを間違えることだなんて、全然あり得なさそうだし。現に彼女はそれほど飲んでないっぽい。
いや……なんだろう、この騒ぎに加わってすらいないし。やっぱりその性格からか、つまはじきにされているのだろうか。
「その通りだフィン。あいつは……パチャカルーヤは昔っから血気盛んな正確でね。私の剣の相手をいつもしていた。だがこの一族は女性らしさを求めたい彼女にとって冷たかった……さっきあったもう一人の妹、サチャインがそうであるようにね」
男性は男性らしく強くって、女性はおしとやかで料理が得意で常に優しくって。つまりはそういう押しつけ、古いしきたりにパチャさんは縛られなかったってことなのか。
「フィン。結婚なんてバカげたことはさせないよう、私も大老にお願いしておく。だから……」
「うん、わかってる……パチャさんと戦ってくれってことでしょ」
ああ、とエッザールはうなづいてくれたけど、ここでもう一つチェックが。
「そうだ、女性の名を略したり愛称で呼ぶのは、一族で親密になった証でもある。だから気をつけておくんだぞ」
あ、あっぶねえええええ!