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信仰と奉納

 理解出来ないことというのは結構あるもので、そんなモノは探せば幾らでも出てくるだろう。
 それはれいも同じようで、能力を自主的に制限している現状では、時折理解の及ばない事態というのが確認されている。特に人や魔物などの生き物。といっても、その場合は大抵相手があまりにも愚かであるだけなのだが。
 まぁそれはさておき、現在れいは少々困惑していた。表面上は普段と全く変わらない無表情なのだが、不可思議な事態に直面して、理解が出来ない状態だった。
 いや、状況は理解出来ているのだろうが、その結果に帰結するまでの変化が理解出来ていないといったところか。
 現在れいが居る場所は、巨大建造物の最上階。その部屋の奥に存在する祭壇のような場所の上に設置した、大きく威厳のある椅子に腰掛けていた。
 その部屋にはれい以外に誰も居ないが、長いこと椅子以外何も無かった部屋とは思えないほどに物で溢れかえっていた。
 最近椅子以外に本棚を設置してみはしたが、れいが行ったのはそれぐらい。しかし、現在は本棚に収まる本だけではなく、食べ物やどこぞの工芸品に魔法道具、珊瑚や宝石などの金銀財宝。とにかく色々なモノが大量に置かれている。
 元々かなり広い部屋ではあったが、今では一人部屋のような狭さだった。それらは異空間にでも保管すればいいので問題ないが、何故こうなったのかとため息でも吐きたくなる。それに、残っているのはまだマシな部類なのだ。
 積み上げられた数々の品の中には、突き返したモノもある。その筆頭は生き物だろうか。
 例えば人。献上だか奉納だか知らないが、年端も行かぬ子供から眉目秀麗な若者まで様々な人が捧げられていた。流石にそれらはれいの前に連れて来られる前に、それらの品々を管理しているらしいエイビスが突き返していたが、実に迷惑なものであった。それにそんなものが必要ならば、れいなら自分で何かしら創造して身の回りの世話なりさせるだろう。
 他には死肉なんかもあった。それも殺して間もないような肉だ。当人達にとっては祭事なんかで食べるような上等な肉なのかもしれないが、それもまた、不要なのでエイビスが突き返していた。
 さて、そういった諸々がやって来る理由は宗教である。れいを神として、様々な物を捧げているらしい。そして、それらを近場の管理補佐がエイビスへと連絡して、ここへと運ばれてくるらしい。
 実は似たようなことは昔からありはした。れいが設置した本棚に収まる本もその類のモノであるし、食料が貴重な頃は食料が主に捧げられていた。
 しかし、食べ物は形だけ受け取った後に直ぐに捧げた者達に還していたし、他のモノも大体似たようなモノであった。それらを管理していたのがエイビスで、れいはその報告だけ受けていただけ。
 それが最近になってれいの下に届くようになってきたのは、単純に規模が増したため。それに色々と足りていなかった昔ならいざ知らず、今では還すのも難しい状況だった。それでも人なんかの処分に困るモノは還しているが。
 それに、元々捧げた後に還すという習慣が確立している場所ならいいのだが、信仰される範囲が一気に拡がったために、そういう風習まで伝わらなかった場所も多いのだ。
 更に、大陸間で交流が盛んになり技術が進歩したことにより、様々な宗教の教えや風習、思想などが氾濫した結果、それらが混濁して新しい慣習を生み出したりしているらしい。
 そういうわけで、急激に増えた案件に対処が大変になり、エイビスは一部を除いて供物を受け取る方針に変換したらしい。その判断には、以前捧げられた本を思ったよりもれいが気に入ったのも手伝っているのだろう。
 そんな流れをれいは理解しているのだが、それでも量というモノがあるだろう。この辺りは、主座教の本拠地の騒動を管理補佐達が幾度か早急に解決したのも関係しているようだ。特に最近の騒動は、他所では大火にまで発展してしまった場所もあるほどなのだから。
 そういった逸話が拡がったのも大きい。実際の時期と時差があるのもそのせいと思われる。
 そして、生まれた時から強者であったれいには、信仰心というものがイマイチ理解出来ない。なので、そこまでして供物を捧げるという心情が最も理解に苦しんだ。
 そういうわけで、未だに増えていく供物を眺めながら、れいは困惑していた。
「………………これを止めさせるわけにはいかないのでしょうか?」
 そんなことを考えるも、既にかなりの規模になっているのが窺える。それでも神であるれいの言葉は大きいだろうが、実害といえばエイビスが大変なぐらいだろう。持って来られた供物は異空間に収納すればそれで終了なのだから。
 そこまで考えると、れいにとっては迷惑というほどのモノではないのだった。それに、中には少しは興味がそそられるモノも混ざっているので、どうにも判断しかねていた。
 れいは一度息を吐き出すと、まずは目の前の品々を異空間に収納する。それで一気に広くなった室内を見回しながら考えてみた結果、れいはもう少しだけこのまま様子をみてみることにするのだった。

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