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第09話 買い取り伝説?

 
 一階に降りて来ると、さっきまでの騒ぎはもう治まっていて、不機嫌な犬耳お姉さんが俺を睨んでいた。名前はアイファさんだったね、なんでそんなに不機嫌なの?

「あのー」
 アイファさんの受付に行き、声をかけた。

 凄っごく睨まれてるんですけど、俺は何にもしてないですけど。

 バンッ!

「あれ? これさっき書いた……」
「そうよ、さっき記入漏れがあったわ」

 それで怒ってたの? それぐらいでそんなに怒る?

「あ、そうなんですね、すいません」
「なんでよ! なんでGなのよ! 私の勘に間違いは無いの。あなたはAのはずなのよ! なんで#皆__みんな__#信用してくれないのよ!」

 そっちか。俺の為に怒ってくれてたんだね。なんか嬉しいな。

「アイファさん、ありがとう」
「バッ、そんなんじゃないわよ。私は私の勘が正しい事を証明したかっただけよ」

 出してくれた用紙を受け取った。
 ヘヘ、ツンデレっすか。

「あなたもあなたよ! Gランクだって言われてなんでそんなにニヤついていられるのよ。そこはもっと怒るとこでしょ!」
 こっちに飛び火した?
 俺の事で怒ってくれてるアイファの言葉で嬉しくてニヤついてたら怒られた。

「それで?」
 それでって何?

「は、はぁ、なんでしょう」
「はぁ、じゃないわよ! さっきエイージ…もう言いにくいわね! もうイージでいいわね。イージが自分で書いてくれた用紙だけど、ここが抜けてるわ」

 犬耳お姉さんのアイファが指したところは職業欄だった。
 やっぱりイージになるのね。

 職業? 職業って何? 冒険者じゃダメなの?

「あの、職業ってなんですか? 今から冒険者になるので、今のところ無職ですが」
「何言ってんの、そこにはジョブを書くの。剣士とか魔法使いとか、イージは何が得意なの?」

 ジョブ欄だったのね、ちょっと恥ずかしい。
 でも、得意なものか……剣はイマイチだし、魔法は使えないね。今のとこ弓が得意になるんだろうけど、この和弓じゃなかったら引く事も出来ない訳だし、得意なものって無いよ。

「イージは水晶玉を壊すぐらいだから魔法が得意じゃないの? もしそうなら得意な魔法も書いてよ」
 だから魔法なんて使えないんだよ。なんて書こうかなぁ。やっぱり俺には衛星しかないよなぁ。

 職業欄に衛星魔法と書いた。
 それしか思いつかないんだもん。

 用紙を手渡すと、アイファが確認する。

「衛星魔法? 何それ、聞いた事ない魔法ね。ま、いいわ。これで全部記入済みね」
 アイファは用紙をしまうと、少しゴソゴソやってカードを出して来た。

「はい、これがあなたのカード。これであなたも冒険者よ」
 そう言って渡されたカードを手に取った。

 へぇ、意外と綺麗なんだな。真ん中に大きくGと書いてあるよ。色は#銅__ブロンズ__#なんだな。

「本当だったら#金__ゴールド__#のAランクカードなのに、Gランクカードでそこまで嬉しそうにされるとこれ以上文句も言えないわね」

 いえいえ、これで十分です。俺の実力に見合ったランクだと思います。

「さ、どんどん依頼を熟してランクを上げて行ってよー。そして私の勘が正しい事を証明してね」

 依頼? 確か、俺のラノベ知識では薬草採取なんかが低ランク依頼だったりするんだよな。ここではどうなんだろ?

「依頼ってどんなのがあるんですか?」
「そこのボードに貼ってあるから確認して。やりたい依頼があったら剥がして持って来てくれればいいから。そして依頼を達成すると、ポイントが付いてランクも上がるって仕組みよ」

 ふーん、どんなのがあるんだろ。さっきマスターがどんな依頼でも受けて構わないって言ってたよな。

 依頼ボードの紙みたいなものを見て行くと、薬草採取G、ゴブリン討伐F、オーク討伐D、オーク肉の採取C、魔石(中)の採取C、コボルト討伐E、ワイバーン討伐B、毒消し草採取F、オーガ討伐C、ワイバーン素材の採取A、リカント討伐D、キラービー討伐D(数によってはAになる事もある)、ホーンラビット討伐E、ホーンラビットの素材採取F、クロコダイン討伐A、クロコダインの素材採取A、ビッグラット討伐F、ビッグラットの素材採取G、キラービーの素材採取D、アイアンタートル討伐B、アイアンタートルの素材採取A、……などなど。

 えらく乱雑に貼ってあるんだな。依頼の討伐場所や数や詳細も書いてあるけど、結構あるよな。

 今は文無しだし、いくつか売れるものは無いかな。
 そう思って、衛星に「これを持ってる?」って聞くと衛星達は丸になってくれる。「これは?」と聞くとまた丸になる。そうやって全部聞いてみたら、素材採取に関しては全部持っていた。
 どんだけ獲ってんだ! 俺にも獲物を分けてくれよ、俺を守ってくれるのは有難いんだけど、俺の育成も少しはやってくれてもいいんじゃない?

 採取依頼を剥がして、奥の受付に持って行く。
 犬耳お姉さんのアイファがいた受付より更に右奥にある受付ね。『買い取り』って書いてあるから、そこでいいと思う。

 まだ貨幣価値がよく分からないから多めに売った方がいいだろうと思い、採取依頼は全部剥がして来た。全部で三十枚。
 だって衛星が持ってるって言うんだもん。衛星が持ってても仕方が無いだろ? だったら売って俺の懐を潤してくれたらいいじゃん。

 持って来た依頼書を全部受付で渡す。
 受付はこっちも耳が付いたお姉さんだった。馬? 馬耳? アリかどうかは微妙だけど、可愛いからアリでいいと思います。

 馬耳お姉さんは、出された依頼書に少し驚いた顔をしたが、俺の顔を見ると『あ~』という顔になり話し出した。

「こちらの依頼書の説明ですね?」

 あ、そう思ったわけね。俺ってそんなに弱そうに見えるのかな。どっかに鏡がないかなぁ。

「いえ、全部持ってるので売りたいんです」
「え⁉ これ全部?」
「はい」

 驚いた顔の馬耳お姉さん。でも、すぐに腕を組んでジト目になって俺を見る。
 おお! 結構大きいじゃん。ってそんな事を考えてる場合じゃないか。ちゃんと説明しないとね。

「収納のアイテムを持ってるので、そこに入れてあるんです」
「収納ね、でもこんなにたくさん入る収納アイテムって、あなたお金持ちなの?」

 たくさん収納できるアイテムは高いんだな。一つ勉強になった。
 でも、さっきの犬耳お姉さんといい、この馬耳お姉さんといい、初めは丁寧なのに段々言葉使いが崩れて来るんだけど。これって俺が悪いの?

「いえ、お金を持って無いから売りたいんです」

 馬耳お姉さんのジト目が更に細くなる。

「それに、Aランクの素材も入ってるんだけど、あなたのランクは何? とてもこれだけの素材を獲って来るとは信じられないんだけど」

 やっぱりそう見られてたのね。そうじゃないかと思ってたよ。

「さっき登録したばかりだからGですね」
 そう言ってさっき発行してもらったGランクカードを見せた。

「あっ、さっきの騒ぎはあなただったのね。Gランクだったら、そうねー……これだけね」
 馬耳お姉さんは、納得したような顔になり、依頼書の中から数枚分けて俺に渡してくれた。

「これだけって?」
「あなたはGランクなんでしょ? だったら受けられる依頼もFまでよ。それがあなたの受けられる依頼って事」

 え? これだけ? これだけじゃ宿代にならないかもしれないじゃん。それは困るよ。

「さっきマスターから、どんな依頼でも受けてもいいって言われたんだ。確認してみてよ」
 頼むよ、こっちには死活問題なんだ。今日、野宿するか宿に泊まれるかの瀬戸際なんだ。

「マスターが? おかしな話ね。そんな許可を出した事って無いんだけど。まさか嘘じゃないでしょうね」
「いやいや、本当だから。確認してみてよ」
 馬耳お姉さんは渋々席を立ち、確認に向かってくれた。

 少し待つと、馬耳お姉さんが戻って来た。なぜかマスターも付いて来ている。

「やっぱり持ってたか。それで?」
 マスターは依頼書の束を見て依頼ボードを見てそして俺を見た。

「ほぅ、この依頼書の束の分、全部持ってるって言うんだな」
 馬耳お姉さんからも説明は受けただろうが、状況を見て判断してくれた。
 ホントこのマスターって察しがいいよね、助かるよ。

「はい」
「それで全部売りたいって? そんなに金がいるのか」
「はい、今日の宿も決まって無いぐらいなので」
「よし分かった! 依頼としては、その持ってる依頼書の分だけを達成とし、素材は全部買い取ってやる。それでいいか?」
「はい、宿代ができればいいので、それでお願いします」
「マスター! いいのですか? そんなの前例がありません!」
 馬耳お姉さんがマスターの言葉に声をあげる。

「構わん! 今は少しでも多く素材が欲しいんだ。さっきこいつとも約束したしな。これからもこいつだけはそういう扱いをしてやってくれ。頼むぞポーリン」
 馬耳お姉さんは納得いかない顔をしてるが、マスターの言葉には逆らえないようで、渋々了解していた。
 ポーリンって言うんだね、こっちも覚えとこ。

「しかしお前、宿代も無いのか。銀貨十枚もあれば泊まれるはずだぞ。宿代ぐらいならその持ってる依頼書の分で足りるはずだ。だがこっちの依頼書の分も優先して出してくれ。持ってるんだろ?」
「はぁ……」

 それって酷くない? 欲しい物を取って依頼達成にしないって、ちょっと横暴すぎない?
 そんな考えが顔に出てしまったようで、マスターが付け加えてくれた。

「心配するな、依頼達成とはしないがランクは上げてやる。もちろん出したものを見てからになるがな。さ、付いて来い」
 マスターに促されるまま、後を付いて行った。

 倉庫に連れて来られると、ここで出せと言われた。
 なぜか人払いをして、大扉も閉め、ここにはさっきの馬耳お姉さんのポーリンとマスターに加え、デカいおっさんが呼ばれて来ていた。解体作業担当のリーダーでガンドランダーという熊の獣人だ。
 マスターもデカいと思ったけど、このおっさんはそれ以上にデカいね。顔も怖いし、絶対逆らわないようにしよう。

「じゃあ、こっちの依頼書の分からでいいですか?」
「ああ構わん。結局全部出してもらうことになるんだから、何から出しても構わんよ」
 俺にとっては依頼達成が掛かってるんだよ。だから依頼書の分から出そう。

 やっぱり衛星にお願いするには言葉に出さないといけないから、日本語で言うしかないか。誰もいないのにお願いするとこを見られるって痛い奴と思われそうだしね。

《衛星達、薬草を出して》

 ドッサ―――――――!

 広い倉庫が薬草で半分埋め尽くされた。
 あ、数を言うのを忘れた。

 目測だけど、一辺が十メートルぐらいある倉庫の半分が薬草で埋め尽くされてしまったので、マズいと思ってマスターを見た。
 口は半開き、目は大きく見開いている。
 やっぱりマズかったか。収納しないとね。

「すみません、多すぎましたね。すぐに収納しますからちょっと待ってください」
 俺が収納するために一歩出ようとしたら肩を掴まれた。

「い、いや、いい。このまま出しておいてくれ」
 マスターは薬草から目を離さずに答えた。

「いいんですか? 怒ってないです?」
「お、怒ってない……次を出してくれ」

 怒ってないならいいか。次は……
《次はホーンラビットの素材とビッグラットの素材を出して》

 ドッサ―――――――!
 あ、また数を言うのを忘れた。

 残りの半分がホーンラビットとビッグラットの皮、角、牙、肉で埋め尽くされた。

 今度こそは怒られるかもしれないと思い、そーっとマスターを見ると、さっきより大きな目になってて口も全開になってる。人間ってここまで口が開くんだね。
 あ、隣のガンドランダーっておっさんと馬耳お姉さんのポーリンも同じ顔になってるね。

「えーと、もう出せないですね。ハハ」
 こんなに持ってたんだ衛星達って。いつ獲ったんだよ。少しぐらい俺に回せっての。
 マスターからは返事がない。相当怒ってるのかな? やっぱりしまった方がいいね。

「すみません、今しまいますね」

 ガシッ!

 また肩を掴まれた。

「い、いや、このままでいい。まだあるって言ってたな」
「はい」
「じゃあ、出してくれ」
「え? もう置けませんが」
「あ、ああ、そ、そうだったな。ポーリン、すぐに手配してくれ。薬草だったら薬屋ギルド欲しがってただろ」
「……」
「ポーリン、おいポーリン!」
「わっ! あ、はい、何か言いました?」
「この薬草をすぐにここから出して薬屋ギルドに運ぶ手配をかけてくれ」
「は、はい! わかりました!」
 ポーリンはすぐに倉庫から出て行った。なんかフラついてる気がするけど、どうしたんだろうね。

「ガンさんはこの素材の手配だ。もう解体はしてあるようだから、このまま運び出せる。鍛冶屋ギルド、料理屋ギルド、アクセサリー屋ギルドにそれぞれ手配をかけてくれ」
「……」
「お前もか、ガンさん!」
「あ、ああ、聞いてたぜ。手配をかけるんだったな」
「ああ頼む」
 ガンドランダーも急いで倉庫から出て行った。

 ガンドランダーが出て行ったのを確認し、マスターは俺に話しかけた。

「イージ、倉庫が空くまで出せないから少し暇を潰しておいてくれ。向こうの酒場に行けば飯でも食えるだろう」
「はぁ」
 だからお金が無いっての。金貨一枚でどれだけ食べれるんだろう。

「ん? そういえば金が無いって言ってたな。お前の飲み食いの分は私に回すよう、言ってくれればいい。私のおごりだ、腹いっぱい食ってこい」
「はい、ありがとうございます」

 良かったー、マスターがおごってくれるのか。飯代が浮いちゃったね、ラッキー。

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 若干依頼ランクを修正しました。

しおり