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第10話 億万長者の予感?

 
 食堂に行くと、ウエイトレスの女性が三人いて、「いらっしゃいませ」と声を掛けてくれた。

 一人のウエイトレスに近寄り、俺の食べた分の料金はマスターに回すように言ってみた。マスターからそう言われたと言ったんだけど、ウエイトレスは「えっ?」と驚くと、少々お待ちくださいと言って奥へ入って行った。

 すぐに戻って来たが、後ろに大きな男を連れて出て来た。
 さっきのガンドランダーよりは小さいが、マスターと同じぐらいの大男だった。マスターと違って、ちょっとでっぷりしてるけどね。

「お前さんかい、マスターに会計を回せってのは」
「はい、さっきマスターにそうしろって言われて」
「珍しい事もあるもんだな、あのケチがな。いや、男に対してケチなだけだったか」がっはっはっは

 そんなウンチクいらないんですけど。別に知りたくない事実でした。ちょっと意外だけど。

「お前さんは金が無いのか? たまーにだが、有望な新人で金が無い奴にはマスターもおごった事はあるが、とても有望そうには見えねーがな」がっはっはっは
 やっぱりそう見えるんだね。馬耳お姉さんのポーリンもそんな感じで見てたもんね。でも、初めて会うのに面と向かって言えるあんたは偉いよ。

「ちょっと待ってろ、今確認に行かせてるからよ。でも、ホントに金が無ぇのか? 結構立派な装備をしてるようだが」
「はい、今日この町に来たところで、お金なんかいらない所にいたものですから。今の所持金は金貨一枚です。それで今、買い取りをしてもらってる所なんですが、まだ精算をしてもらってなくて」
「はあ? 金貨一枚持ってるだって? しかも買い取り精算中ってか。なら問題ねぇよ、席について注文したらいいぜ。マスターのおごりなんか無くても十分食えるじゃねーか」

 え? そうだったの? だったら自分で払おうかな。
「そうだったんですね、それなら自分で払います。席について注文すればいいんですね」
「まぁ、そう慌てんな。マスターがおごってくれるってんならマスターに払わしゃいい。確認が取れなかったら払ってもらうがな」


 席に着きメニューを見る。
 へー、色々あるんだね。肉の種類だけは。ただ、全部焼いてるやつだよ。牛や豚のステーキにオークやビッグラットのステーキ。やっぱり魔物も食べるんだね。しかも魔物の肉の方が高いね。鳥もあるけど、飛ぶ魔物もあるね。ワイバーンステーキ(特大)金貨一枚! ……これだけで全財産が無くなっちゃうね。こんなの頼んだら怒られちゃうよな。

 ウエイトレスが来たので、呼ぼうと思ったけど、向こうの方からこっちに来てくれた。
「あのー、すいません」
「はい、あちらの方がご一緒にと言っていますが」
 注文をしようと思ったら、先に伝言を伝えられた。
 え? あちらの方? まだ町に来た所で、知り合いなんかいませんけど。

 見てみると受付に行った時に後ろで騒いでた冒険者だ。
 目と目が合うと手招きをして俺を呼んでいる。

 んー、なんなんだろ、あんまりいい予感がしないんだけど。
 でも、行かないと後でいじめられそうだよなぁ。新人いびりとかテンプレに繋がりそうだもんな。仕方が無い、行くだけ行って、要件を聞いたらすぐに戻って来よう。


 呼ばれた冒険者の席に行くと、席へ座れと促された。
 座ると長引きそうだったので、断ろうかと思ってたら男が立って俺を無理やり座らせた。
 暴力的ってわけじゃなくて、フレンドリーな感じだけど力づくって感じでね。

「まぁ、なんか食えよ」
「は、はぁ」
「坊主のお陰で稼がせてもらったんだ、遠慮せずになんか頼め」
 稼がせてもらった? 俺は何にもしてませんよ。

「さっきの受付な。俺達は賭けをしてたんだ。普通の新人登録なら俺達みたいな冒険者があそこで#屯__たむろ__#してたら、普通なら一番左に行くんだ、入り口に一番近いからな。一番右に来る奴なんかいないんだよ。それを坊主は一番右に行ったよな、一番右に賭けてた俺の総取りって訳だ。でも、偶に依頼を出しに来る奴もいたりするからよ、そうなったらご破算って訳よ」
 俺が一番右の犬耳お姉さんのアイファの所に行ったから、この人は儲かったって事か。
 それで盛り上がってたのか、娯楽が少ないんだね。

「だから遠慮するな、好きなもん食っていいぞ。さっきもおごってやるって言っただろ」

 そういう事ならおごっていただこうか。俺のおかげだもんね。

「じゃ、いただきます。ここのお勧めってなんですか?」
「そりゃワイバーンのステーキだが、それは高すぎる。なんでも食えって言っといて悪いが、それは勘弁してくれ。オーク肉ぐらいなら構わないぞ」
「じゃあ、そのオーク肉をいただきます」

 男はウエイトレスを呼び、オーク肉のステーキを頼んでくれた。「俺に付けとけ」って大声で言ってたよ。
 これでマスターの確認が取れなくても、飯代の心配は無くなったね。


 男の名前はジェイク、Cランクの冒険者だそうだ。
 昨日までダンジョンに入ってたそうで、今日は美味しい依頼があったら受けようかという程度で冒険者ギルドに来ていた。
 ダンジョンで取って来たアイテムや魔石の精算が終わり、そろそろ帰るか酒場に行くかという所に俺が来て賭けになったらしい。
 皆、懐が温かかったから賭け金も多かったらしく、かなりの儲けになったそうだ。

 ダンジョン! あるんだね、やっぱり。一度は行ってみたいな。まずはレベルを最低でも10にしてから行きたいね。

 オーク肉を食べ終えた時、俺に迎えが来た。マスターが呼んでいると馬耳お姉さんのポーリンが呼びに来たのだ。

 因みに今食べたオークのステーキ。まぁまぁ美味かった。でも塩胡椒をもう少し利かせてほしかったな。
 一応、衛星に作ってもらって調味料一式を持ってるんだけどね、やっぱり店で出すのは悪いと思って出さなかったんだ。

 ジェイクさんには「ごちそうさま」とお礼を言って、再びマスターのいる倉庫へ向かった。

「おー! 来てくれたか。早速だが次のもんを出してくれるか」
 倉庫は綺麗に片付いていて、さっき出した物が何も無くなっていた。

 さっきの続きというと次は毒消し草か。

《衛星達、次は毒消し草だ。毒消し草を出して》

 ドッサ―――――――!

 あ、また数を言い忘れてた。少し間が開いたから忘れてたよ。もういいよね、マスターも喜んでるみたいだしさ。
 今度は倉庫三分の一ぐらいを毒消し草が埋め尽くした。
 後は、俺のランクの依頼書以外の物になるんだけど……

 そう思ってマスターを見たら、今度は目がキラキラ輝いてるんだけど。

「ん? どうしたまだまだあるんだろ? ほれ、さっさと出せ」
 なんか喝上げされてる気分になるセリフだよ。その容姿だしさ。

 次はなんだろ、オークでいいかな。後はオーガとワイバーンとポーニャぐらいしか名前を知らないんだよな。

《オークとオーガとワイバーンとポーニャの素材出して》

 それだけの素材でまた倉庫が満タンになった。

「よし、よくやった。後はまた暇を潰しててくれ」
 また? もう暇つぶしできる事ってないよな。そうだ、先に宿を取りに行こう。

「あのー」
「ん? なんだ?」
「宿ってどこにありますか?」
「そういうのは受付で聞け。私は忙しいんだ」
 確かに忙しそうだけどさぁ、そんな邪険にすると出した物をまた収納するぞ。そんな事をしたら殴られそうだからやらないけどさ。

 受付に戻ってみると、アイファの所には冒険者が並んでいた。
 他の所も少し列になってるけど、真ん中が一番空いてるみたいだな。と思って真ん中の受付に並んでいると、アイファから声が掛かった。

「こらぁ! イージ! どこ並んでんのよ! あなたは私が担当するんだからこの列の後ろに並びなさい!」
 え? 担当なんてあったの? 聞いてないんだけど。
 そう思って真ん中の受付のお姉さんを見てみると、やれやれといった感じで溜息をついていた。なんか違うようだ。

 言われるままにアイファの列に並び、順番が来るのを待った。

 俺の番になるとヨシヨシという感じでアイファが腕を組んで頷いている。

「イージ、聞いたわよ。やっぱりあなた凄いんじゃない。もうポーリンなんて忙しすぎてフラフラになってたわよ。やっぱり私が睨んだ通り、あなたは素質があるのよ」
 アイファは俺の後ろにまだ列ができているにも関わらず、俺の用も聞かず自分の話から始めた。一人ご満悦のご様子だ。

 いいの? 結構な列になってきてるよ。

「で、用は何?」
 もう友達みたいな話し方になってるね。初めの丁寧な話し方はどうなったの? ま、初めの少しだけだったけどね。

「二つあるんだ。一つは宿の場所を教えて欲しいんだ。もう一つは精算金っていつくれるの?」
「精算金は明日になるんじゃない? かなりの量って聞いたわよ。今日中には無理だと思うわね。あなたお金が無いの?」
「そうなんだ、金貨一枚しか持ってないんだ」
「! 金貨一枚しかってあなたね、金貨一枚もあれば、普通の宿なら食事付きで一週間は余裕で泊まれるわよ。あんたバカ? あんたバカなの?」

 そんなに賢い方でも無いと思うけど、バカ呼ばわりは酷いんじゃない?
 可愛い#娘__こ__#に言われると結構キツいんだけど。

「でもアレね、イージは町に来たとこだって言ってたわよね。わかったわ、ちょっと待ってなさい、私が連れてってあげるから」
「え?」
「えっじゃないわよ、私が宿まで連れて行ってあげるって言ってんの。もうじき仕事が終わるからちょっと待ってなさい」
「は、はぁ」

 態々連れて行ってくれるの? やっぱりアイファってツンデレキャラ?

 何もすることも無いし、依頼ボードをまた見ることにした。魔物の名前の確認もあるし、買い取り依頼書を確認して魔物の名前を覚えた。
 衛星がこれ全部持ってるって言ってたしね。

 依頼書の確認もしたし、することもないので座って待ってると、仕事を終えたアイファがやって来た。タイミング良くポーリンもその後ろに見えた。

 そのまま三人で倉庫に向かい、綺麗に片付いた倉庫で、さっき確認した魔物の素材を出した。
 もちろん、倉庫が満タンになった。

 マスターの指示で、手配は明日にしようという事になり、ほっとしたポーリンが崩れ落ちる。かなり疲弊してるみたいだね。
 ヘタりこんでるポーリンから凄く睨まれてるけど、俺のせいじゃないから。いや、出したのは俺だけど、出せって言ったのはマスターだから。

 その後はアイファに宿まで送ってもらった。お金は金貨一枚あれば十分足りるって言うし、今日のところは精算をしなくても大丈夫だろ。

 大体いくらぐらいになるのかアイファに聞いてみたんだけど、凄い事になるんじゃない? って言ってくれたけど、具体的な金額は聞けなかった。

 宿に着き、三日分を先払いで払った。宿代は銀貨十五枚、お釣りが銀貨八十五枚。
 金貨ってこんなに凄かったの? 宿代は素泊まりで払ったから一泊銀貨五枚、入門料と同じだね。
 
 銀貨百枚で金貨が一枚ね、覚えとこ。

 食堂は宿に隣接してて、先払いしてると部屋でも食べられるそうだけど、その都度払うようにして泊まる分だけ払った。どっちでも一食分は同じだって言われたから。

 アイファは俺が宿に入るとすぐに帰って行ったからお礼も言えてない。
 また明日、冒険者ギルドに行かないといけないんだし、その時にでもお礼を言おう。

 さて今日は色々あったね。
 また明日も色々ありそうだ。

 ん? なんか忘れてるような気がするんだけど、色々あったから今日はもう休みたい。考えるのは明日でいいね。

 俺は部屋に入ると、すぐに寝てしまった。
 久し振りの布団が気持ち良かったんだよ。この世界に来て初めての布団だったから。

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