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第08話 ギルド登録

 
 冒険者ギルドの入り口を入り、中を見渡す。
 受付が三つあって、少し離れた右の方にもう一つ別の受付があるね。奥にも何かあるみたいだけど、ここからじゃ分からないな。
 三つの受付には綺麗なお姉さんたちが座ってて、三人共俺の方を見てるね。受付には誰もいないみたいだから暇なのかな?
 冒険者だと思われる人達も何人かいるのにね。四人掛けの机が三つあるけど二つが埋まってて、その人達も俺の方を見てるね。
 俺って今、凄く注目されてる? なんでそんなに見られてるの?

 左側には売店みたいなものがあるね、武器や防具も少しあるみたいだけど、あれは何だろ? 回復薬かな? 売店の奥は店になってるね。今も何人か座ってるけど、食事というよりは飲んでるね。まだ昼だけど、仕事はしなくていいの?

 まずは登録だから受付だよね。どの人がいいかな。どの人が優秀かなんて分からないし、一番奥の右端の受付にしよう。
 なんでその受付を選んだかって? そりゃ耳が生えてたからだよ。犬っぽい耳だったけど、これはこれでアリじゃん!

「すみません」
「はい、今日はどういうご用件ですか?」

 ヒャッホー!

 後ろの冒険者から歓声が上がる。
 なになに? と思って振り向くと一人の厳つい冒険者が俺に親指を立ててウィンクしている。
 周りにいる二人の冒険者は「なんでぃ大穴かよぉ」と愚痴りながら俺にウィンクをした冒険者に何か渡していた。「まだまだぁ」という声も聞こえてくる。

「あ、気にしないでください、あの人達はバカなんで。それで今日はどういったご用件ですか?」
 気にしないでって言われても気になるよね。ウィンクまでされたんだよ、俺にその気は無いけどさ。
 受付の犬耳お姉さんがニッコリ微笑んでくれたので、まずは登録と思い、話し始めた。

「ここのギルドに登録したいんですが」
「ご登録ですね、ではお名前をお願いします」

 オッシャ――!!

 また叫び声が聞こえた、さっきと同じ声だ。
 なになになに! 本当になんなの。
 振り向くとさっきのウィンク冒険者が両手を上げてガッツポーズをしていた。

「坊主! お前見込みあるぞ! 後で奢ってやるからな」

 その男は座ってる冒険者全員から何かを受け取り、ヒャッハー! と言って入り口で見た左奥の食堂に消えて行った。

「あのー」
「気にしないでって言ったでしょ。もうホントあの人達はバカなんだからー」
 ホッペを膨らまして少し拗ねた感じの犬耳お姉さん、なんか可愛いね。うん、いい。

「あ、失礼しました、登録でしたね。お名前をお願いします」
「あ、はい。ホシミエイジです。ファーストネームがエイジ、ファミリーネームがホシミです」
「エイージ・ホッシミさんですね」
「いえ、ホシミエイジです。ファーストネームが先ならエイジ・ホシミです」
「エイージ・ホッシミ?」
 そんなに言いにくいのか? 俺の名前って。普通に言えるだろ! わざとか? わざとなんだろ。これが有名な新人いじめだな。ホッシミってそっちの方が言いにくいだろ!

「自分で書きます、用紙を貸してください」
 エイジ・ホシミと書き、犬耳お姉さんに手渡した。なぜか日本語じゃないこの世界の言葉が話せるし書けた。こういう所はチートを感じさせるんだけどな。

「はい、確認しました。エイージ・ホッシミさんですね」
 もう呼び名はそれで変わらないんだね。ならそれでいいよ。記入にはちゃんと書いたから他の人ならちゃんと読んでくれるだろ。

「はい、もうそれでいいです」
「はい、ではこちらの水晶に手をかざしてください」
 ここでも水晶玉が出て来た。また犯罪履歴を調べるの?

「入門でもやったんで大丈夫だと思いますよ」
「あ、これは入門の時の犯罪履歴を調べるものではなくて、能力の鑑定をする魔道具です。冒険者にはランクがありますので、能力によってランク分けされるんです。新人でも能力の高い人に低ランクの仕事をさせる程、冒険者ギルドは無能ではありませんので」

 ふーん、能力が高ければいきなり高ランクから始められるのか。そりゃそうだよな、適材適所が一番効率的だよな。
 でも、俺はレベル1だからな。一番下から始めるしかないんだよね。

 水晶玉に手をかざすと、レベル1と表示され、他のステータスが次々に表示されていく。
 HP:14 MP:16 ATC:12 DFC:11 SPD:14
 そしてスキルが表示されようとした時、

 ボンッ!

 水晶玉が割れた。

 キャッ

 犬耳お姉さんが軽く悲鳴をあげる。

 何が起こったのか。あっ、衛星が一つ俺の手に乗っている。
 こいつの仕業かぁ。なんて事するんだよ、弁償させられるじゃないか。どうしよう、壊しちゃったよ。高いんじゃないの? 俺お金持って無いよ。

「壊れた? 魔道具が壊れた……」
「……すみません。これっていくらぐらいするもの……」
「キャ――――!! あなた凄いのね! この魔道具が壊れる所なんて初めて見たわ! キャー感動!」
「え……」

 突然#燥__はしゃ__#ぎだす犬耳お姉さん。
 それからは暇だった事もあり、他の受付のお姉さんや後ろに座っていた冒険者達もゾロゾロ寄って来て、壊れた水晶玉を見ていた。
 受付の犬耳お姉さんはもう大興奮で「もうあなたAランクよAランク」って騒いでるし、他の受付のお姉さんも納得したように頷いている。
 冒険者達は「マットの勘は正しかったみたいだな」とか言ってるけど、何の事かわからないし、「伝説の始まりだー」って言ってる冒険者もいた。勘弁してくれー。

 そうなりたいのは山々ですが、俺のレベルは1だから、そうはならないと思いますよ。
 衛星達は強いけど、まだ扱い方もよく分かって無いし、結構融通が効かないんだよね。

 いつの間に呼びに行ったのか分からないが、受付のお姉さんの一人が二メートルは優に超える大男を連れて戻って来た。
 浅黒い肌にはたくさんの傷があり、頬にも傷があった。
 お姉さん、武闘派の誰を連れて来たんですか! 俺に何をさせようと言うのですか! 逃げてもいい?

「あ、あのー」
 恐る恐る犬耳お姉さんに声を掛けた。
「ん? なに? 英雄君」
 いつの間に英雄君になったんだ? まだなーんもやってないからね。ギルド登録もしてないんだから。俺の名前は英雄じゃなくて衛児だから。

「それで、登録はどうなるんでしょうか。べ、弁償とかは……」
「登録ー? あなたはAで決まりよ! もう私が決めたから誰にも文句は言わせないわ。弁償なんかいらないわよ、これから活躍してくれたらそれでチャラよ。魔道具もまだ予備があるしね」

 ほっ、弁償が無いのは助かった。でも、活躍って……できないと思うんだよなぁ。
 登録が終わったらさっさとこの町から出よう。ボロが出たら犯罪者扱いされてしまうかもしれないしね。うん、それがいい。

「誰が何を決めたんだ?」
 さっき来た浅黒い武闘派さんが犬耳お姉さんに問いかけた。

「マ、マスター!」
 犬耳お姉さんが武闘派さんに事をマスターと呼んだ。
 マスター? なんの?

「ちょっとその記録を見せてみろ」
 犬耳お姉さんが気まずそうに記録していた紙のようなものを手渡した。
 あれって紙じゃ無いよね、羊皮紙ってやつ? なんか違う気もするけど、そういうのはおいおい覚えて行こう。

「これで水晶がねぇ」
 マスターがまじまじと記録用紙を眺めながら呟いた。

「おう、エイージだったか。お前、今困って無いか?」
 やっぱりエイージなのか。でも、なんか察してくれた? ここはこの言葉に乗っておくべきだろ。
 俺はマスターに縋るような目でうんうんと頷いた。

「よし、じゃあ、私の部屋に行こう。付いて来い」
 俺が付いて行こうとすると、マスターは振り返り周りの連中に大声で説明した。

「この魔道具はどうやら古くて寿命だったようだ。こいつのステータスを見る限り、到底魔道具を壊せるような力は持って無い。ランクはGからスタートさせる。ここまで言えばわかるよな、お前達」
 冒険者達は、「なんでぃ、ぬか喜びさせやがって」などとグチグチ言いながら解散して行った。受付も通常業務に戻るようだ。

「アイファ、残念だったな。こいつはGスタートだ」
 マスターは犬耳お姉さんに一言声を掛けて、奥へと進んで行った。俺も遅れないように付いて行った。
 犬耳お姉さんの名前はアイファって言うんだね。覚えとこ。


 マスターの部屋に通された俺。マスターに促されるまま、席へと着いた。
 部屋には秘書だと思われるお姉さんがいて、俺に飲み物を入れてくれた。紅茶だと思う。

 部屋は八畳ぐらいで、大きなデスクが奥にあり、それがマスター用なのだろう。その横には下の受付の後ろで見たものと同じような机があった。たぶん秘書用なのだろう。

 部屋に入ってすぐの所に応接セットがあり、ローテーブルを挟んで向かい合わせにソファが置いてあった。予備の椅子もあるようだけど、普段は四人掛けで使っているように見えた。
 俺はそのソファに座っている。
 マスターも、一度自分の机から何か取り出した後、俺の前に座った。

「で? お前は何を隠してる」
 開口一番、マスターが直球で俺に聞いてきた。
「マスター!」
 横でお姉さんがマスターを諫める。

「お、ちょっと急ぎ過ぎたか。私はまどろっこしいのが苦手でな、その度によく怒られてるよ」
 マスターが苦笑いを浮かべて説明してくれた。
 実はいい人なのかな? ベンさんみたいに仲良くやれたらいいんだけどね。

「そういや挨拶もまだだったな。私はこの冒険者ギルドのギルドマスター、オーフェンバックだ。覚えにくいだろうからマスターでもギルマスでも呼んでくれて構わない。お前はエイージだな」
「エ、エ……はい」
 ここで問答をやっても仕方が無いからね、もうエイージでいいよ。
「こっちは秘書のランレイだ」
 紹介されたお姉さんがお辞儀をしてくれた。
 やっぱり秘書だったんだね。

「それで、お前は何を隠してる」
 なんか鋭いね、いい人宣言は撤回か? なんかズバーっと来るよ。
 隠してるって衛星の事だろうけど、なんて説明したらいいんだ? そもそも説明しないといけないのかな。

 そうやって悩んでいるとマスターがさっきの記録紙のようなものを二枚出した。

「これは今回のお前の記録だ。そしてこれが昨日測った私の記録だ」
 凄いね、LV366って強すぎだ。ATCなんかも1300超えだよ。1348って強すぎだ。
 初めに出会ったオーガでATC132だから、この人ならあの森でも余裕で生きていけるんじゃない?

 俺が神樹の和弓を使って、やっとドローぐらいだよ。この人だって武器は使うだろうし、これぐらい強くなきゃギルドマスターってできないのかもね。

「ここを見てほしい」
 そう言ってマスターが指さす先は日付が書いてあった。
 日付を言われても今日が何日かさえ知らないんですが。

「間違いなく昨日の日付が書いてあるな」
 そう言って俺に確認を求める。
 俺は分からないけど、頷いて同意する。

「私のステータスで耐えられる魔道具が、なぜお前程度のステータスで壊れなきゃならん。おかしいとは思わんか」
「……」
 思いますけど、やったのは俺じゃなくて衛星だから。

「しかもあの魔道具は物理攻撃には非常に強い。私も試した事があるが、渾身の一撃でも傷一つ付かなかった」
 あんたそんな事やったのかい! 壊れたらどうするつもりだったんだ。

「あの魔道具をあれだけ粉々にしようと思ったら、相当な魔力量が必要だ。だから聞いている。何を隠してるのかと」
 言っても信じてくれないだろうな。だって今でも衛星達はこの部屋を飛びまくってるんだもん。見えないんだろ? 見えないものって人は信じないからな。

「……スキルです。俺のスキルです。でも、まだうまく調節ができなくて」
 これでどうだ、なんとか誤魔化せないか?

「スキルねぇ……それだけのスキルがあってレベル1ってどういう事だ。辻褄が合わん」
「そうですよねぇ…いや、それは、まだ魔物を倒した事が無いからです」
 ホントに自分でもそう思うけど、ここはこういう理由で行こう。間違って無いしね。

「わかった。言いたくないなら仕方が無い。これ以上の詮索はギルドの規則にも反する事でもあるしな」
 へ、案外物分かりがいいじゃないの。もっとズバズバ来ると思ってたよ、ちょっと拍子抜けだね。

「ステータス通りで行くとお前のランクはGになる。秘密が聞けないとなると、そうするしかあるまい」
 はい、それで結構です。

「ただし! お前には特例を認めよう」
 はい? 特例?

「Aランクの依頼もどんどん受けてもらって結構。どんどん依頼を熟してくれ」
「マスター! それじゃこの子が可哀相です」
「構わん! 私が責任を持つ! Aランクの依頼ごときでこいつが死ぬわけ無いだろ。それに受ける受けないは本人の自由だしな」はっはっはっは

 なんか自由なマスターだね。Aランクの依頼ぐらいじゃ俺は死なないって? あんた俺の何を知ってるのさ。たぶん死なないとは思うけどさ、衛星達が守ってくれるから。
 でもやらないよ、初めの依頼は薬草採取って決めてるんだ。まだ一回しか採ってないけど、覚えてるから。鑑定もあるしね。

「それと、魔物の素材を持ってるなら下で出しといてくれ。最近は戦争の影響か、素材不足で困ってるんだ。どんなものでも、どれだけ多くても買い取ってやるから遠慮なく出してくれたらいいぞ」
 さっき魔物と戦った事が無いって言ったのに。
 でも、文無しだもんね。買い取りはしてもらおう。
 門の所で余った金貨が一枚あるだけだから、宿を取るにしても不安なんだよね。

 マスターとの話もなんとか終わったし、次はギルドカードを発行してもらって買い取りをしてもらおうかな。
 思ってたより話の分かるマスターで良かったね。


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修正
マスターのステータスを上方修正しました。

しおり