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第07話 町に入る

 
 町の入口に着くと、そこには門があり、兵士が入門検査を行なっていた。

「イージ、儂も付いて行ってやりたいが、約束通り儂はここまでだ。また会う事があったら声を掛けてくれ」
 ベンさんは町に入りたくないと言って、俺を送り届けると言ってくれた宣言通り、町まで送ってくれたけど、やっぱり町には入らず行ってしまうようだ。

「わかった、ありがとうベン。俺は冒険者になるつもりなんだ、色んな所に行くかもしれないし、もし見つけたら声を掛けるよ。ベンも俺を見つけたら声を掛けてよ」
 ベンさんは頷くと、俺達が来た方向とは逆の方に向かって馬を走らせて行った。
 ベンさんありがとう。ベンさんのお陰で町まで辿り着けたよ。またいつか会いたいね。

 ベンさんを見送ると、振り返り門を潜ろうと馬を歩ませた。

「そこのお前! 止まれ!」

 兵士が俺に向かって怒鳴って来た。

 え? なになに?
「はい、なんですか?」
 なんで止められたかも分からないから、なんですか? って顔で答えた。

「なんですか、じゃない! 順番を守れ! これを見て分からないのか!」
 そう言って兵士は人の列を指さす。

 あれ? あの人達がいないぞ?

「いや、あの……あれ? いや、さっきまで黒塗りの馬車がいましたよね。あの馬車と一緒だったんですが」
「馬車? そんな物がどこにある! キチンと列に並ばんか!」
 あれ? どこ行ったんだろ。名前は聞いてるんだ、たしか……

「フィッツバーグって人達と一緒に来たんですが…剣が三本重なった#紋章__エムブレム__#の黒い馬車に乗った女の子だったんですけど。ケニーという女の剣士とターニャってネコ耳の女の子も一緒に」
「フィ、フィッツバーグ⁉ ……お前がフィッツバーグ様の知り合い? そんな事を言ってると偽証罪で捕らえるぞ! 何か証拠でもあるのか!」
 兵士は俺の事をジロジロと品定めするように眺めた後、嘘つき呼ばわりして来た。どこまでも上から目線で怒鳴って来る奴だな。それが仕事なんだろうけど、お前ぐらいじゃもうビビらなくなって来たよ。

 でも、あの#娘__こ__#たちは何処に行ったんだろ? いないならいないでいいんだけど、いなくなるなら言っといてくれたっていいじゃないか。
 俺は助けてやったんだよ? お礼をくれとまでは言わないけど、町にぐらいは一緒に入ってくれたってバチは当たんねーぞ。

「証拠ですか……ありませんね。すみませんでした。あの列に並べばいいんですね」
「そうだ、あの列の後ろに並べ。馬からは降りて並ぶんだぞ」
「わかりました」
 ここで逆らってもいい事は無さそうだもんね。まずは町に入りたいからね。

 入門の列に並んで一時間。ようやく俺の番が来た。並んでる時に、前後の人の会話を少し聞いたんだけど、これでも早い方だと言っていた。
 ここは戦火が近づいて来ているという噂が立っているから、この町を訪れる人が少なくなってきているそうだ。

 俺の番になり、身分証明書を求められた。
 身分証明書? そんなものある訳ないじゃん!

 どうしようかと考えてたら、受付の兵士が説明してくれた。
「なんだ、身分証明書が無いのか。最近ではあまり見なくなったがまだいたんだな、そんな田舎者が。町に来ないと身分証明書は作れないから、お前もその口なんだろ」
「は、はぁ」
 あやふやな返事をしていると、兵士が水晶球を出して来た。身分証明書が無い場合でも町に入る手段はあるみたいだ。

「これに手を乗せて」
「これは?」
「これは犯罪履歴を調べる魔道具だ。田舎者だとそんな事も知らんのだな」
「す、すみません」
 急かす兵士に言われるままに水晶玉に手を乗せた。

 水晶玉は白く光り、受付の兵士もその光を見て頷く。
「よし、犯罪歴は無いようだな。町に入るためには入門料が必要だ。銀貨五枚、金貨だとお釣りがいるから銀貨で出せるか?」
「銀貨……」
 お金なんて持ってないんですけど。さっきの盗賊の持ち物にはあったかもしれないけど、ベンさんが全部持って行っちゃたし、銀貨がどんなものかも知らないんですけど。

「まさかお前…銀貨も知らない田舎者か?」
「はい、すみません。見せてもらってもいいですか」
 兵士は呆れた顔をして「この田舎者が」と言いながらも「これだ」と言って銀貨を一枚出してくれた。

 へぇ、綺麗な硬貨じゃん。これが銀貨かぁ。

「本当に知らないんだな。銀貨でそんなに感動するのか。ではこれならどうだ」
 俺が銀貨に見惚れていると、兵士がニヤニヤしながら金貨を一枚出した。

『completes scanning』

 え? また衛星が何かした?

 俺が衛星の事を考えてると、金貨に感動していると勘違いした兵士がずっとニヤニヤしている。

 チャリン チャリン チャリン チャリン チャリン チャリン

 兵士の前の机の上に硬貨が出てきた。兵士の目の前にいる衛星が金貨を一枚と銀貨を五枚出したのだ。
 馬車に乗ってた三人も、列に並んでた人達も、ここの兵士達にもやっぱり衛星は見えないようだった。

 兵士は「なんだ、持ってるじゃないか。チッ」っと悪態をついて銀貨五枚を取り、代わりにカードを一枚渡してくれた。

「これが仮の入門証だ。有効期限は一週間。一週間を過ぎて仮入門証のまま町に滞在していると密入国者となるから気を付けるんだぞ」
「はい、わかりました。あっ、馬を預ける所ってありますか?」
「馬? お前、馬を持ってたのか。それならあと銀貨二枚だ。そういう事は先に言っておけ」

 チャリン チャリン

 また兵士の前に銀貨が二枚出てきた。
 兵士は銀貨二枚を取り、許可証をくれた。馬の方は町に入るたびに払わないといけないそうだ。面倒だね、もう売っちゃう?
 ただ、何かのギルドに入れば入門料も無料になり、馬もその者の所有物と分かるようにしておけば無料だという事だ。

 おお! ギルド! 絶対、冒険者ギルドだよな。あるよな?

 馬を預かる場所としては、この受付詰所に隣接している厩舎か、宿で預かってもらうかになるそうだ。
 町を散策するのにも邪魔になるので、隣の厩舎で預かってもらう事にした。一日銀貨二枚と言われた。

 チャリン チャリン

 このお金って……も、もしかして偽造⁉
 これって犯罪じゃないのか?

 兵士に言って、さっきの水晶玉をもう一度出してもらった。
 ダメならいいんだ。いや、良くないけど。でも、ここでハッキリさせておかないと、後々まで響くと思ったから確かめたいと思い、犯罪鑑定できるさっきの水晶玉を出してもらった。

 兵士は「この田舎者め」と今度は少し笑いながら水晶玉を出してくれた。
 田舎者だから珍しい水晶玉をもう一度見たいのだろうと勘違いしたみたいだ。俺にとっては好都合だけどね。

 水晶鑑定は白。水晶玉はさっきと同様に白く光った。犯罪鑑定で黒の場合は黒く光るらしい。分かりやすいね。

 これは偽造では無いって事? いや、違うような気がする。だって集落で一人殺してるんだよ。それでも犯罪鑑定で白って事は、俺がやった事じゃないから白く光ってくれるんじゃないだろうか。見張りを殺したのも硬貨の偽造も衛星がやった事だからじゃないだろうか。
 衛星がやった事も俺のせいになるんなら、衛星が倒した魔物で俺のレベルも上がるはずだしね。

 でも、その恩恵を受けている俺も白でいいの? 共犯って事にならないのかな。

 兵士も信用している魔道具が白って言ってんなら、深く考える事も無いのかな。

 水晶玉を兵士に返して町への門を潜った。
 門を潜ると若い男女が十人いて、同じ制服を着て「ようこそフィッツバーグへ」って言ってた。
 ここはフィッツバーグという名前の町らしい。今知ったよ、誰も教えてくれなかったからね。

 フィッツバーグ? ……え? 馬車に乗ってた少女の名前もフィッツバーグだったよな。もしかして領主の娘だったの? それならなんで消えたの?
 門の兵士も惚けてる感じは無かったし、攫われたような感じには思えなかった。周りが何も騒いでなかったからね。だったら俺から逃げたって事か。逃げられるほど嫌われてたって事か。ちょっとショックだよ。そりゃネコ耳にちょっとガッついた感じは出てしまってたかもしれないけど、逃げる事はないじゃないか。
 それとも逃げる程、俺が#醜男__ぶおとこ__#だとか……
 まだ自分の顔って見て無いんだよね。どんな顔なんだろ? 元のままかな? 元の顔? ……思い出せない。

 色々と思い出せない事が多いよな。その辺は今晩にでも考えよう。
 今は、まず馬を預けて、ギルド登録だ。

 馬の預かり代はさっきの受付で渡したから、馬を預けるだけでいいんだよな?
 トラブルも無く馬を預かってもらい、また門の前に。

「ようこそフィッツバーグへ。何かお困りですか?」
 さっき見た十人の男女と同じ制服の、一人の女の子が笑顔で声をかけてきた。
 見た目だけど、十代後半ぐらいかな? 可愛い子だな、ツインテールの髪型が凄く似合ってる。

「うん、初めての町なんでどこに何があるのか分からなくて」
「それはお困りですね。私達はそういった方達の手助けをしている案内係です。気軽になんでも聞いてください」
 へぇ、それは助かるな。じゃあ、まずは冒険者ギルドの場所と、後は宿の場所だな。
 そういえば、まだ衛星はお金を持ってるのかな? ここじゃ聞けないし、まずは冒険者ギルドだな。

「じゃあ、冒険者ギルドの場所を教えてください」
「冒険者ギルドの場所ですね。それならこの大通りを真っすぐ行って、七筋目を右に曲がった所にあります。七筋目ですよ」
「七筋目ですね。ありがとう。あと、宿は何処ですか?」
「宿ですか、宿と言っても沢山ありまして、一泊の予算はどれぐらいですか?」

 どれぐらいって…どれぐらいなんだ? そういや、ベンさんが銀貨五枚ぐらいの所に泊まれって言ってたな。でもお金は持って無いし、場所だけでも聞いておくか。

「銀貨五枚ぐらいの所はありますか?」
「はい、その予算でしたら同じ七筋目にありますよ。『黒猫亭』って看板が上がってますから、すぐに分かると思います。七筋目ですよ」
「七筋目ですね、わかりました」
 お礼を言って大通りに向かった。

「あっ、お客さん」
 お客さん? 誰が?

「ダメじゃないですか、案内料を払ってくれないと」
 え? これって商売だったの? サービスじゃないの?

「一つの案内に銀貨一枚ですから、二つ案内しましたので、銀貨二枚です」
 場所を教えてくれた女の子は、そう言って手を出した。

「衛星さん、銀貨二枚お願いします」
 チャリン チャリン
 女の子の手の上に銀貨が二枚落ちた。
 女の子は「ありがとうございまーす」っていい笑顔で去って行った。

 そんな商売があるって知らなかったのは俺が悪いのかもしれないけど、たかが道案内でお金を取るんだね。なんかこの町が怖くなって来たよ。もし払わなかったらどうなったんだろ。どこかに連れ込まれたりしたんだろうか。
 衛星がいなかったらと思うとゾッとするね。

 気を取り直して大通りを歩く。
 七筋目ね、この通りかな? なんか道が細いし、雰囲気が暗いんだけど。
 本当にこんな通りに冒険者ギルドや宿があるの? 冒険者ギルドはともかく、こんな通りの宿は遠慮したいね。

 五十メートル程歩いただろうか、まだ冒険者ギルドも宿屋も見当たらない。

 チンッ! ゴンゴンゴンッ!

 え? 何の音?

 チンッ! ゴンゴンゴンッ!
 チンッ! ゴンゴンゴンッ!
 チンッ! ゴンゴンゴンッ!

「アニキィ、あんな雑魚みたいな奴に四本は使い過ぎじゃありやせんかい」
「バカ野郎! オレは慎重にやっただけでい、ビビってる訳じゃねぇからな」

 なんだろ、このテンプレ感。町のゴロツキに絡まれる俺ってやつ?
 呆然と立ってると、子分の方が俺と目と目が合った。

「アニキィ、こいつピンピンしてやすぜ」
「なにー? どういう事だ、あいつらしくしりやがったか」
 俺の方がどういう事か教えてほしいんだけど。

「仕方がねぇ、やっちまえ!」
「やっちまえってアニキ、おいらしかいやせんぜ」
「だったらお前がやればいいだろう」
「まーたそんな冗談を。おいらの弱さを知ってて言ってやすか? おいらはゴブリンに三秒で負ける自信がありやすぜ」
「ばーか、三秒も持つんなら立派なもんだ。オレがお前ぐらいの頃だったら、ゴブリンを見た途端に、一目散に逃げたもんだ。立ち向かえるお前は偉いってもんよ」
「ア、アニキィ」
「なんでぃ、何泣いてやがんでぃ」
「アニキがおいらの事を褒めてくれたんで嬉しいんでさ」
「だったら早ぇとここいつをふんじばって、祝杯でもあげるか!」
「アニキィ、おいらどこまでもお供しやすぜ!」

 ……なんだ、この三文芝居は。

「あんた達! いつまで掛かってるんだ! もうとっくに終わらせてるもんだと思ってたよ」
「「姐さん!」」
 姐さん?

 振り向くと女が一人立っていた。さっき門の所で案内してくれたツインテールの女の子だ。
 これって俺は騙されてここにいるんだね。今わかったよ。
 じゃあ、ここには冒険者ギルドも宿屋も無いんだ。ガッカリだよ。早いとこ終わらせよ。

《衛星達、さっき盗賊を捕えた眠らせるやつを、この三人にやってくれない?》

『Sir, yes, sir.』

 うん、一瞬だね。さすが衛星君だ。
 こいつらはこのまま放置でいいかな。なんか関わり合うとこっちまでダメージを負いそうだ。

 また大通りまで戻って、歩いてる人に冒険者ギルドの場所を聞いた。
 このまま大通りを行けばすぐに見つかると教えてくれた。もちろんタダでね。

 冒険者ギルドはすぐに見つかった。大通り沿いに、宝箱の前に剣と杖がクロスする大きな絵の看板があって、入り口には大きな文字で冒険者ギルドって書いてあった。

 ようやく冒険者ギルドに着いたな。
 ここから俺のチート物語が始まるんだ。よな?
 まずは目指せレベル2だ!

しおり