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SS メヒティルト

 乾いた破裂音が散発し、響いている。

「……次はもう少し集めてこい。」
「ごふっ、はっ、い。」

 薄暗い洞窟の奥、訪れる者などいない遺跡にてメヒティルトは体中に裂傷を負い、壁に両腕を拘束されていた。地面には《《すり鉢状》》の窪地があり、その中心の石碑にメヒティルトの集めた魔力が少しずつ奪われていた。

「あの犬、いや、あのガキを、使えば……。」

 メヒティルトの体が少しずつ縮んでいく。魔力が主に吸い取られていくので、体力が尽きる前に拘束から抜け出せる。石碑からも離れてしまえば問題ない。
 そういえば、あのガキも《《似たような》》事をされていた。魔族と人族の差はあれど、やっている事は同じか……皮肉にもならないが。

「犬は《《石》》を持っていそうだけど、あのガキも持っているのかしら。」

 毎度、私をいたぶっていく奴はいなくなったようだ。いつの間にか現れ、気づいたらいなくなっている。どうも一人でいると『独り言』が増える……寂しくはない。

「……何かを貰ったのなんて、初めてだったなぁ。」

 床を見つめながらポツリと口を衝《つ》いた。
 少女体型にまで縮み、拘束具から腕が抜け、石碑から離れながら考える。

「どうしちゃったのかしら、胸が少し痛くなった?」

 外傷など無いのに《《なぜ》》胸が痛むのか、は分からない。
 魔族は意思を持つまでの記憶を持たない。力が全て。弱い魔獣を強い魔族が支配する。魔族同士が出会えば、強弱を闘《たたか》って決めるだけ。人族のような物を作る文化など無い。だからこそ、あの魔獣と少年の関係が眩《まぶ》しく、それでいて異常に映った。
 あの魔獣は《《この痛み》》の原因を知っているのかしら。
 また会えば何か分かるかしら。
 私との違いは何かしら。

 あれこれと考えていたら洞窟から出てしまったようだ。岩肌に背を預け、夜空を見ながら気配を探る。……何匹かいるわね。風下の森に入るのを待っているのかしら。

「いつもはビクビクしてるのに、こういう時は向かってくるなんてね。」

 縮んでいる間は、どうしても弱くなっている。だからこそ襲ってくるのだろう。一蹴して足しにしよう。
 夜は《《どこからでも》》攻撃できる。隠れても無駄よ……っと。

――――――――――

「少しは、戻ったかしら。」

 日の出まで狩り続けて、《《やっと》》成熟一歩前といった体で考える。弱い魔獣では……正直、足りない。

「あ、そういえば貰った石を隠してたんだった。」

 自身の影から取り出して、《《少しだけ》》吸う。どうせまた奪われてしまうのだ。影に少しずつだが貯めていく……バレないし。

「こういう石って、やっぱあの犬っころじゃないと、かしらね。」

 どうしちゃったの私は。あの毛玉のことばかり考えちゃってる。ため息まで出るし。石を作ってもらうにはどうすれば良いのだろう。殺したらもう手に入らないだろうし。あ、でも犬なら湧《わ》くかしら。

 ……ふふ。

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