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水の中

 夢を見た―――
 人魚の夢。
 水の中。
 「ウィザード様。どうかお願いです。」
 ウィザード(まほうつかい)
 人魚がフードをかぶった人に願っている。
 「よかろう。ただし・・・・・―――」
コポッ コポポッ
 水が声をさえぎる。
 よく聞こえない。
 ―――――――――――!!
 
 目が覚めた。
 また、人魚の夢?
 一体何なんだ?
 「カイ。おはよう」
 そこにあったのは、深織の顔だ。
 「おはよう、深織」
 「ちょっと、まってってね」
 そう言って深織は、部屋を出て行く。
 
 あれから、しばらく経った。
 傷はもうほとんど消えている。
 けれど、記憶は戻らない。
 自分が誰なのかわからないまま、時だけが過ぎていく。
 
 カタ カタ
 食器の触れ合う音が聞こえてきた。
 部屋の障子戸が開く。
 「はい。朝ごはん、ちゃんと食べてね」
 深織が、いつもどおりに運んできた。
 この家にいるのは、深織と僕だけだった。
 「食べたら、外に行こうよ」
 深織が、ニッコリとそう言った。
 気分転換にそう言ってくれたのだろう。
 「うん」
 ここに来てから、外に出たことはなかった。
 毎夜聞こえる波の音が、近くに海があることを知らせていた。 

 その家のそばに、海はあった。 
 青い空に青い海。
 外の風景は、青 一色だ。
 冷たい風が、海の上を通りすぎる。
「キャハ。フフッ」
 遠くで深織が、波と戯れている。
 「カイ!早く来て」
 深織が僕のほうに手を振る。
 僕は、深織のいる場所に近づいた。
 バシャン
 深織が、僕に水をかける。
 「やったな」
 僕も、深織に水をかけ返す。
 「キャッ。キャハハ・・・・・」
 「クスス。ハハハッ・・・・・・」
 2人で水をかけあう。
 どれくらい、そうして遊んだのだろう。
 気がつくともう日が、高くなっていた。
 2人とも、ビシャビシャに濡れていた。
 「楽しかったね。カイ」
 砂の上に座りながら、僕のほうを向いてそう言ってきた。
 水がキラキラ光って深織が、とても綺麗に見えた。
 僕はふと思った。
 「人魚みたいだ・・・」
 「え?何が?」
 深織が、聞き返した。
 「えっと。深織に助けられた時、夢を見たんだ。
 人魚が、僕を助けてくれる夢。その人魚に、似てるなと思って」
「私、そんなに綺麗?」
 深織はクスクス笑って、僕の話を聞いている。
 「綺麗だよ」
 「え?」
 深織の頬が赤くなる。
 こんな時の深織は、かわいい。
 「だまったままならね」
 僕は、いたずらっぽく言った。
 「もう!いじわるね」
 すこしふくれて深織は、僕をポカポカたたいた。
 「クス クス」
 僕は笑って、深織を見ていた。
 このまま、深織といられたらどんなにいいだろう。
 ―――キィィ――――ン
 !!
 頭が割れるようにいたい。
 頭を抱えてうずくまる。
 「カイ?どうしたの?」
 深織の心配そうな声が、遠くで聞こえる。
 「カイ! カイ!!」
 ――― ・ ・ ・ ミ ・ ・ ・―――
 深織の声と混ざって、誰かが僕を呼ぶ声が聞こえた気がした。

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