18話 敗北
エネルギー弾もダメ、サイコキネシスもダメ、あとは俺の手持ちを順番に試すしかない。
上を見上げて本体を見ていると、徐々に黒い部分が広がっているが、そのペースは遅い。どうやら、完全に起き上がるまで時間が掛かるようだ。
まだこちらに分があるな、手持ちの攻撃方法を順次試しておこう。
右手を上げプラズマを作り出す、キプロス星で温泉を掘った時よりも、時間をかけて作り上げた。
俺の手先5mほど先に、直径2mほどの黄色に光る光球が出来上がった。
さらに力で形を変え先端をとがらる、ラグビーボール状に成った物を、さらに高速回転させる。作成に時間が掛かるが、手軽に打てる技の中で、最大攻撃力を誇る攻撃だ。
左目を閉じ、1000m先の物体に向かって狙いを定め、勢いよく打ち出した。
「ライ〇ニング・ボルトォー!!」
後方から変な叫び声が聞こえた。振りかって突っ込みたいところだが、反撃が来るかもしれないので、目標から目を逸らさずにおこう。
解き放たれたプラズマ弾は、光線の残像を残しながらガイルアに当たった。しかし、当たったように見えただけだった。プラズマ弾はガイルアの手前で止まっている、そして時間経過とともに、小さくなって消えてしまった。
「あ~あ・・・消えちゃったね」
俺は振り返り叫ぶ「お前が、変なセリフを叫ぶからだぞ!」
「なっ、八つ当たり!」と麻衣は頬を膨らませて言った。
「しかたない・・・今まで一度も使ったことのない、とっておきの攻撃をしてやろう!
麻衣は防御をシッカリしておけよ、地球全体に衝撃波が来るからな。
最悪の場合、地球の公転軌道とか、地軸がずれるかもしれない。
・・・そして未曾有の天変地異が起こるだろう」
「そ、そんな攻撃が存在するの?」
「まあな・・・原子の反物質を作り上げて、原子と衝突させ対消滅させる。
その衝撃波は、空間さえも歪めるだろう」
「それって・・・地球が滅びない?」
「まぁ、俺は浮遊都市で過ごすから問題ない。あそこは恒星の超新星爆発に、耐えられるから安全に過ごせる」
「兼次ちゃんて、ほんと最低だよね・・・自分だけ助かろうとか」
「ふふふ、正直言えば、それしか攻撃方法が残ってないのだよ。
さっきのプラズマ弾が最大攻撃だった・・・つまり、これが最後の選択だ」
上を見上げる、ガイルアの黒い部分が全体の4分の3に達していた。
これが最後の攻撃になるな、あとは反撃を避けながら戦わないといけない。
「もし効かなかったら? 負けちゃうの? やっぱり死亡フラグなの?」
「効かなかったら、地球はガイルアに滅ぼされるだろうな・・・
そして俺は、ワームホールでどこかの惑星に、浮遊都市ごと逃げる!」
「またしても最低発言・・・」
「なんとでも言え、生きてこそだ!
卑怯者とか言われようが関係ない、生き残れば、それが正論だ!」
「なんか、何処かで聞いたセリフね」
俺は右手を出し、物理防御シールドの点を作る、それを大きくし物質の存在しない、真空の球体を作り出す。そこに近くの酸素分子を入れ、素粒子レベルで分解し組み替える。反酸素分子の完成だ。
「これは?」と麻衣が俺に近づいてきて、指で突いてきた。
「ここに酸素原子2個分の反物質がある、それを中央で浮かせて周りを、物理防御シールドで真空状態にしている。これをガイルアの手前で、シールドを解く、すると反物質は物質と触れ巨大な衝撃波と共に対消滅する。
爆発したら、速攻で浮遊都市に逃げるぞ、準備しておけよ?」
「う、うん・・・ホントに大丈夫かな・・・」
右手を突き上げ反物質を飛ばす、そしてガイルアの手前まで到達した時点で停止させた。
「滅びるがいい、地球と共に!」
「ええぇぇっ! やっぱり地球も壊す気なのね!」
反物質を囲っているシールドを解く、それと同時に強烈な光が俺達に降り注いだ。
しかし次の瞬間に、その光は急激に減衰していった。右手を突き上げている、俺の姿のみを残して・・・
「兼次は右手を突き上げながら、ララに言われた【勝利予想0%】を思い出すのであった」
「心境を声で語るなよ! そんな事、思ってねーから!」
「もしかして、かなりヤバい状態なの?」
「ああ、もう攻撃方法が尽きた・・・」
ガイルアを確認すると、透明の部分が完全になくなっていた。
雲一つない青空に浮かぶ、立体感の無い黒い模様。
「なんか、空に穴が開いているみたい」
「北側に街があるそうなので、南に飛びながら攻撃するぞ」
「う、うん・・・と言うか、攻撃方法が尽きたんじゃ?」
「まぁな・・・しかし夜巳の予知が外れるとはな! 飛べ、撤退しながら戦うぞ」
俺と麻衣はガイルアと対面しながら、後ろ向きで飛ぶ。上を見上げると、空に浮かぶ黒の模様は、輪郭が僅かにうごめいている、陰影が無いので近づいているのか、遠ざかっているのか、全く解らない。
俺の防御シールドに、突然何かが当たり激しい金属音が連続して起こった、それは地面の砂に着弾し、拳大の穴を開け、そこから砂煙が立っていた。
どうやら、これがララが言っていたエネルギー放射の攻撃か、見えないのが厄介だな。
「キンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!」と麻衣が、突然奇声を張り上げた。
「なんだよ、頭打ったか? 大丈夫か?」
「ちょっと、効果音で戦いを盛り上げて、みよっかなーと」
「盛り上がってねーよ、ジリ貧だよ! ふざけてねーで加速しろ、マジでヤバイ」
その時、俺の左肩に激痛が走った、見ると黒い触手の様な物が、何の前触れもなく突き刺さっていた。っち、防御シールドを貫通かよ・・・とりあえず麻衣を強制テレポートさせるか。
右手を麻衣に向け、力を込めるが入らない。麻衣の姿が二重になり目がかすむ。
「ちょっと、大丈夫?」
麻衣の姿が遠ざかるのが見えた、落ちてるのか?
目の前が暗くなった・・・
「きゃああああああ」
麻衣の叫び声が聞こえた、まずいな意識が途切れる・・・