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【再会】

冷夏(れいか) 、今日転校生が来るんだって」
 友達の 神矢(かみや) 雷那(らいな) がぱたぱたと廊下を走りながら、そう言ってきた。
 教室にいた私は、初夏の風になびく髪を邪魔そうにかきあげた。
「へえ、で男?女?」
 一応聞いてみる。
「おとこ!!しかも、結構美形!!」
 ルンルンしながら雷那が答える。
「そう」
 男に興味なんか無かった。
 人に関わるのがいやなだけ。
「何よ。冷夏ってばせっかくいい男が来たんだからもうちょっと嬉しそうな顔しなさいよ」
 私のそっけない態度に雷那がつまらなそうに言った。
 ガラリ
「おーい、席に着け」
 バタバタとみんなが席に着く。
 先生の後ろに転校生がいる。
 あれ、何処かで見たことがある。
 転校生を見た時そう思った。
「転校生の  秋月(あきづき)  風夢(かざむ) 君だ」
「よろしくお願いします」
「席は  水城(みずき)  の後ろだ。水城、面倒見てやれよ」
 ボーと転校生の顔を見ていた私は先生の名指しにはっとした。
「あ、はい」
 隣にいた雷那がつんつんと袖を突く。
「ね、見とれるでしょ」
「別にそんなんじゃ・・・・。」
 どこで見たのだろう?
 思い出せない・・・・・・。
「冷夏、テスト取りに行かないの?」
 雷那の声に八ッとした。
 私がボーとしてる間に、先生がテストを配っていた。
 教室のあちこちでざわめきがおこっている。
「テストどうだった?」
 後ろから雷那が聞いてきた。
「うん。まあまあかな」
 私はあいまいに答えた。

 放課後・・・
 私たち2人以外、誰もいない教室。
 私は今日まで提出の雷那の課題をお手伝いしていた。
「いつも男に興味の無い冷夏が珍しいねボーとなるなんて」
 雷那がからかい気味に言った。
「そんなんじゃないって言ったでしょ」
「そんなんじゃなきゃ何なのかな?冷夏ちゃん」
 雷那がツンと私の頬を突く。
 他に考えられないって眼をして私を見てる。
「ただ・・・・」
 雷那に言うと きっと・・・・。
「ただ 何?」
「見たことがあるような」
 きょとん とした眼で雷那は私を見た。
「見たことがあるってあの転校生?」
「うん」
「なーんだ、やっぱり気があるんじゃない。それとも、前世で出会ってた とか?」
 雷那は、ケラケラと笑い出した。
 やっぱりそっちの方に話を持っていくか・・・・。
「そんな事言うなら手伝わないよ」
 ちょっとムッとしていった私に
「えーん。秀才の冷夏の頭が無いとこんなの終わらないよ」
 雷那がすがりついてくる。
「はいはい。それより、手を動かそうね」
「楽しそうだね。何してんの」
 急に声がして振り返ると転校生がいた。
「今、秋月君の話してたの。秋月君は何しにきたの?」
 転校生の方を見ながら雷那が答える。
 雷那の顔はルンルンしてる。
「僕は忘れ物を取りに来たんだ。 あれ、それって課題?」
 転校生が机を覗き込んできた。
「そう。雷那が今日までにやってこなかったから、手伝いしてるの」
 雷那が、何で余計な事言うのって眼で見てる。
「へえ、手伝ってあげようか」
「もう終わるから」
 私はそっけなく答えたつもりだった。
「それなら一緒に帰ろう」
 え?
「ボディガードがわりにはなるだろ?」
 たしかに外はもう薄暗くなっているけど・・・・。
 この(ひと)の方が危ないと思う。
「送ってってくれるの?嬉しい」
 私が答えるよりはやく、雷那が答えた。
 ま、いいか・・・。



「でね、冷夏ってね・・・」
 雷那の家は、私の帰り道の途中にある。
 雷那は、その家までずーとしゃべり続けていた。
「あ、私の家ここなの。じゃ、また明日ね」
 雷那が別れ際、私に耳打ちした。
「彼って素敵よね」
 って
 つまり、『手を出すな』という事か。
 ・・・・・・・・・・・・・ 
 二人っきりになったらシーンとなってしまった。
 家に着くまで何もしゃべる事がなかった。
「あ、家ここだから。じゃ」
 パシ
 家に入ろうとした私の手を転校生が、しっかりと捕まえていた。
「なに?」
「忘れてしまったの?約束」
 彼の悲しい目が私をとらえる。
 子供のようなその瞳。
 そう、この瞳。見た事ある――。
 いつ?
 いつだったかしら?
 サアァァァ
 風が、通りぬける。
 その風の中に、すい込まれていきそうな彼の姿。
 消えてしまうのかと思った。
「ごめん」
 そう言って手を放した。
「じゃ、また明日ね」
 彼は、笑って風の中をかけていった。
 私はいつ、彼に会ったのだろう――。


 夢を見た――
 妖精の夢。
 小さな私がいる。
 そして、妖精も
「キャハ、・・・フフフ・・」
「ク・・・スク・・・ス」
 ――――――――――――― !!
 目が覚めた。
 涙が止まらない。
 ああ、そうだ
 妖精は・・・・
 なぜ、忘れていたのだろう。

 窓から月明かりが入ってくる。
 その中に人影がうつる。
 私は窓に近づいた。
 キィ
 窓が開く。
 開いた窓から彼が見える。
 庭の木の枝にすわって、月の光をまとう。
 人とは思えないほどキレイ
 あの時と同じ・・・
 だから、私は妖精だと思った。
 人とは思えなくて
 まるで、この世のものではないように思えた。
「思い出した?」
 彼が私を見た。
「まだ、みたいだね」
 彼の瞳が、悲しそうにゆれる。
 まだ?
 何が?何を思い出すの?
 ザアァァァァ
 風が、樹をゆらす。
 風に溶けるように彼の姿が揺れる。
 彼の姿が消える・・・
「まって」
 聞こえなかったのだろうか?
 彼はそのまま風の中に消えていった。


「いつまで寝てるの。いい加減に起きなさい。」
 お母さんの声で目が覚めた。
 夢?
 妖精の事も?
 すべて・・・・・・・?
「いつまで勉強していたのか知らないけど、いい加減にしなさいね」
「うん。わかってる」
 ボーとした頭で答える。
 私の頭のなかは、昨日の夢の事でいっぱいだった。
 なぜ彼が今、目の前に現れたのだろう。
 約束って何?
 子供の頃、妖精と何をして遊んでたっけ?
 妖精の名前は、なんだっけ?


 教室でボーとしながら外を見つめていると、
「おはよん」
 うわっ
 ルン と、した雷那の顔が、目の前にぬっと現れた。
「何よ、そんなに驚く事ないじゃない」
 ちょっとムッとしながら、雷那は顔を私にぐっと近づけて来た。
「昨日、彼と何かあった?」
「え?何が?」
 私が目をパチクリさせると、
「何とぼけてるのよ。彼、さっきから冷夏の事見てるよ」
 え?
 振り返るとたしかに転校生がこちらを見ていたようだ。
「彼、結構気に入ったのに」
 まずい・・・。
 この様子だと転校生と私の間に何かあったって誤解してるらしい。
「気のせいじゃないの?昨日はずーと黙っていただけだよ。」
「ホントに?」
 疑わしいって目をして雷那は私をじっと見た。
「ほんとだよ」
 私も、雷那をじっと見た。
「なぁーんだ。そう言えば冷夏ってば人嫌いだもんね」
 何とか、わかってくれたみたいだ。
 雷那は、きゅうにニッコリした顔になって、
「ね、冷夏これ教えて、今日あたるの」
 そう言って雷那は私の机にノートをひろげた。
 ( 本当はこれを聞きに来たのね )
「どれ?」
 頭の上で声がした。
 ひょいっと顔を覗かせたのは、あの転校生だった。
「教えてくれるの?」
 雷那は嬉しそうに言った。
「ああ、そのつもりだけど」
「あのね、ここなんだけど・・・・」
「ここは・・・・・・・・」
 私はそんな二人をボーッと見ながら、昨日の事を考えていた。
 転校生は昨日の事は何も言わなかった。
 彼は妖精なんだろうか?
 こうして見てると普通の人みたい。

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