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第十一話

「よく来てくれたね。みんな疲れてるから、マッサージ中心に頼むよ。腰の痛みを訴えてる生徒もいるから、湿布もよろしくだよ。」
 魔冥途は、恭しく教師桃羅の前で跪いている。
 魔冥途たちは、ぴったりフィットした薄いピンクのナース服を忙しげに揺らしながら、女子生徒たちにスポーツドリンクを配っている。

「また取られたちゃったよぉ。本当に治してほしいのは、おふくたちなのにぃ。」
 悔しそうにジャージの袖を噛む福禄寿。他の神様牛たちも恨めしげに魔冥途を見やっている。

「鬼、いや魔冥途たちはこんなに役立つのに、どうして神様牛って、穀潰しばかりなのかなあ。本当、この世に存在していることも無駄だよね。家庭用ゴミとして捨てられる日が待ち遠しいよ。次の選挙では、それを法律化する政党が勝っちゃうかもね。」
 女子生徒たちへの諸々の癒しサービスを終えた魔冥途たちは再び凧に乗り込んで帰って行った。それを呆然と見ていた大悟と楡浬。

「鬼たちって、魔冥途と呼ばれてますわね。その字の当て方は、何か悪いことをする者に対する侮蔑的な表現だと思いますけど、やってることは完全に慈善事業ですわ。そんな相手に悪い字を当てるでしょうか。何か変だと思いませんか。楡浬様。」

「そうねえ。アタシも奇妙に感じるわ。第一、このアタシが馬嫁下女のメイド神になってること自体、天と地がひっくり返ってもあり得ないことなのに。いったいどうしたことかしら。」
「そう言えばその名前、いつからそんな風に呼ばれてるのでしょうか。それに、オレがこんな言葉使いになってること自体おかしいですわ。オレは桃羅の姉というよりは別の存在だったような。それに、あまたの女子の垂涎の的である巨乳が、無用長物に思えて仕方ありませんわ。」
(やっとその疑問に届いたのう。今の大脳では思い出せないのは無理もないのじゃ。だから、考えるのではなく、心の眼を開いて見せよ。そのための訓練はすでにやったはずじゃ。)

(誰ですの?外部に発信する言葉じゃないんだから、自分の脳内ワードで行くぞ。改めて、誰だ?聞き覚えがある声だぞ。)

(聞き覚えじゃと。情けないのう。絶世の美少女である、このババのことをその程度しか覚えていないとは。)

(ババ!?この前にもオレに話しかけてきたクラスメイトの婆さんか。)
(婆さん言うな。『このババ』というのは謙譲語であることぐらい推測するんじゃ。このババは、周りの神からは、『近頃の若い子は』と褒められてるんじゃぞ。)

(それは出来の悪い若者に対する侮蔑の言葉だぞ。)

(余計なツッコミを入れるな。それよりも、もっと大事なことをおぬしは忘れておるだろう。おぬしの命と引き換えに隣にいる神見習いがおるじゃろう。そいつとナニかをするのが目的であり、問題解決の方法じゃなかったのか。)
(ナニか?いかにも猥雑なことを連想されるカタカナだな。)

(バカ言うでない。そういうところは元不健全男子であることの証明じゃな。まだ復帰可能性を残しておる証拠じゃな。あとは自分で考えるんじゃな。)

(ちょっと待ってくれ。そこまで言えるあんたこそ、真の神様だよな。だったら神痛力で何とでもなるんじゃないのか。)

(それがどうしてか、何もできないのじゃ。頭で理解していることを具現化することがなぜかできない。主体的な行動をしようとしても、からだが不自然に変な方向に行ってしまうのじゃ。馬人間どもの言うことも聞きたくないし、反撃もしたいところじゃが、なぜかからだが言うことを聞かないんじゃ。それはほかの神も同じ。ただ、以前にいたところとは違う世界にいると明確に認識しているのはこの通信の中だけじゃ。言いたいことは以上じゃ。)

 オヨメ姉と寿老人との脳内通信は切れた。オヨメ姉は顎に手を当ててしばらく思考を巡らしていた。

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