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第十二話

「どうした人間。いや同じクラスの宇佐鬼大悟。妹の死がそんなに悲しいかのう。人間の命は儚いものじゃ。死はすぐ目の前で待っているぞ。そなたも会いに行こうと思えばいつでも行けるんじゃ。それが人間の命というものじゃ。」
 大悟に話しかけたのは、魔冥途との戦闘には関与しなかった寿老人。心配そうにしているわけではなく、スーパーで日用品を購入しようとしている主婦のようである。

「桃羅を助けてやってくれ!さっき、誰も気づかなかったけど、消えた桃羅を復活させただろう。何でもするからその力を貸してくれ!」
端正な顔を涙と皺で著しく歪めながら、寿老人に訴える大悟。寿老人はニヤリとして、大悟の目に焦点を当てた。

「ほほう。あのワザが見えた人間がいたとは意外じゃ。宇佐鬼大悟、面白いのう。しかし、何でもすると言われても、ここは学校じゃ。それにこのババは神じゃ。半端ない額の授業料、つまりお賽銭がかかるぞ。」

「いくらだ?どれくらいかかってもなんとかするぞ。」
 老人はこっそりと大悟に耳打ちした。大悟は真っ青になり、膝から崩れた。

「、そんな。オレが一生働いて払えるとか、そんなレベルじゃねえ。」

「どうした。妹の命は高いじゃろう。そりゃそうさ。人間の命はお賽銭では買えぬのじゃから。」

「そうだ。お賽銭で買えないなら、オレの命ならどうだ。等価交換なら文句ないだろう。」

「ははあ。そうじゃのう。うむ。後悔しても知らぬぞ。」

「そんなとは先刻承知だ。」

「ならばたった今、宇佐鬼大悟の命もらい受けた。」
寿老人は空中に呪文を唱えた。寿老人から白い雲のような煙が出て、それは大悟を包み込んだ。

「こんな形でいきなり人生の終着駅に着くとは。わずか16年で地球を何回か回ったかな?いや人間が一生で歩く距離は地球三周半らしいから、一周もしてないな。」

「あまり潔くない覚悟の仕方じゃのう。まあよいわ。さあ、お賽銭代わりの命は軽くいただいたぞ。」

「うん、これで桃羅が助かったんだな。あれ?なにも変わってないぞ。人間の死は突然やってくるとは聞いているが、実感がないな。辞世の句を読み忘れたぞ。」

「宿題を忘れた小学生か!命を取るというのは、必ずしも死ぬことではないんじゃがのう。」

「はあ?言ってる意味がわからないんだが。もうボケが始まったのか?てか、すごく長く生きてるらしいし。」

「失礼なことを申すでない。まあよいわ。命はもらい受けた。」

「さっぱりわからない。」
 ひたすら首を捻るばかりの大悟のところに、校舎からイノシシが走ってきた。

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