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颯太魔法デビュー?

 僕は三日間、死んだ様に深い眠りについていたらしい。
 いたらしいってのも、僕はあまり実感がないからだ。

――――僕は今、魔王城の中庭のある色鮮やかな花が咲く庭園にいた。
 時刻は早朝。朝日が昇り始めて薄暗い。

 事故後に目覚めたのが昨晩だったから、今日で事故が起きてから四日目になる。
 僕は一人庭園で、寝ていて訛った体を柔軟で解して体調を整える。
 
 僕は、あの事故の悲劇の事を覚えてる。
あの時、僕が真奈ちゃんに言った事も鮮明に覚えている。
 だけど、僕が何故後遺症が残らず助かったのまでは、昨夜、僕が目覚めた後に真奈ちゃんから説明を受けるまで、一切の記憶が残っていなかった。

 僕はなんでも、魔王にしか扱う事の出来ない契約術で一命を取り留めたらしい。
 その契約の効力も聞いた。
 殆どは主従契約と同じらしいけど。違う点が二つ。

 一つは僕が不死身になった事だ。
 正確に言えば、僕は真奈ちゃんと運命共同体らしく。僕が致死レベルの傷を負っても大丈夫だけど。真奈ちゃんが死ねば僕も死ぬらしい。だけど、それだけでも相当凄いことだ。
 聞けば魔族の寿命は最低でも万は超えるらしく。例外でない真奈ちゃんもそれぐらい長生きをするらしい。
驚き通り越して実感がなくてよくは分からないけど。
 
 二つ目は、それは――――それは!

「くぅーーーー! ヤッタァアアアアアア!」

 感極まり、早朝の爽やかな空気を払い飛ばす程に叫びをあげる。
 だけどそれは仕方ないことだ。
 僕はこれを聞いた時、文字通り跳ねて喜んだ。

「僕もついに魔法が扱えるんだ! あの、もう殆ど諦めてたけど、少年の頃から夢描いていた魔法を僕は、クゥー!」

 そう、僕は魔法を扱えるようになったのだ。
 事前に僕は真奈ちゃんから普通の人間の颯ちゃんに魔法は使えないと言われていた。
 なんでも人間には魔族の様に魔力を貯め込む方法も、貯め込める場所もないだとか。
 魔族は空気に漂う魔力を鼻や口などの呼吸、空気に触れる皮膚で魔力を体内に取り込み、心臓に魔力を貯めるらしいけど。人間の僕には出来ないらしい。
  
 だけどこの『絶対契約』とかいう契約で、僕は真奈ちゃんから魔力を借りる形で魔法を扱えるらしい。
 しっかり説明をしてくれたけど、僕にはあまり理解できなかった。

 けど真奈ちゃん曰く。大昔、人間界にも魔法の概念があった時代があったらしい。
 所謂魔女と呼ばれる者達だが。女って付くけど中には男性もいた様だ。
 その者たちは各々が魔族と契約をして、魔力を魔族たちから分けて貰い魔法を使ってたらしい。
 絶対契約の劣化版で、流石に契約者を不死身には出来なかったようだけど。
 その魔法を駆使して、神を崇める聖職者達と戦争を行い、膨大な人間達が命を落としたらしい。

 だけど今は、その惨劇が繰り返さない様に、魔界と天界で条約を締結して、人間との契約を禁止にしているらしいのだ。
 だから今回のは危ないらしんだけど。
 どこかで聞いた事のある様な『バレなきゃいいんだよ』とか真奈ちゃんが言っていたからいいのだろう。

 そして、念願の魔法を使える様になった僕は、浮足立って魔法を使おうと早起きをしたのだけど。

「…………魔法ってどうやって使うんだ?」

 使える様になっただけで、まだ扱えてはいない。
 腕を組んで唸る様にどうしたものか……としていると。

「おや? 颯太さんじゃないですか。こんな早起きでどうしたのですか」

 背中越しに声をかけてきた人物へと僕は振り返り見ると、そこにはじょうろを片手のホロウさんがいた。

「あれ、ホロウさん。おはようございます。ホロウさんこそどうしたのですかこんな早くに」

 ぺこりと頭を下げると、おはようございますとホロウさんが返して。

「私は日課であるお花の水やりをしに来たのです。ここは私が管理してますので」
 
 ホロウさんはそう言って、じょうろを傾け、溜めこんだ水を注ぎ口からシャワーの様に花に浴びせる。

「それで颯太さん。こんな朝早くにここで何をしていらしたのですか? 遠くから少し奇行が目に入ってましたけど?」

 さらっと言われて、自分の恥ずかしい行動を見られていたのに羞恥で顔を逸らす。

「い、いやですね。僕もついに魔法が使える様になったから、一刻も早く使いたいなーって思って……」

 気恥ずかしそうに頬をポリポリと掻く僕に、クスクスとおかしそうに笑う。

「な、なにも笑う事ないじゃないですか……。それされると案外傷つきますよ。子供っぽくてスミマセン」

「あっ、すみません。別に私は子供っぽいって馬鹿にしたのではなく。颯太さんの行動が予想通り過ぎて、少し面白かったというか。魔王様と二人で予想してたんですよ。もし颯太さんが魔法を扱える様になったらどうするかって。ですので私は別に颯太さんを馬鹿にしているのではないので、そんな拗ねないでください」

 僕ってそんなに分かり易いのかな?
 僕が口を尖らしてそっぽを向いていると、コトンとホロウさんはじょうろを地面に置き。

「いいでしょう。まだ時間もありますし。颯太さんに魔法がなんたるかをお教えいたします。前に颯太さんに色々と魔法を教えるって約束もしてましたしね」

「本当ですか! ならお願いします」

 僕は言葉に甘えて一礼する。
 分かりましたとホロウさんは鎧を頷かせると、魔法の講義を始める。

「ではまず魔法なのですが。最初に大きく二つに分けます。一つは『魔』で二つ目は『天』です」

 魔に天?

「この二つの分ける基準は至極簡単です。魔界と天界、どちらの住人なのかってことですね。天界に住む者なら『天』を。魔界に住む我々には『魔』の力が宿っています」

「分けるってことはその二つは全然違うって意味ですよね?」

 質問する僕にホロウさんははいと頷き。

「まず『魔』の特徴ですが、呪いや壊すなどの破壊の力です。『天』の特徴は浄化や回復などの癒す力ですね。まず最初にこちらの力で分けられるのですが。人間の颯太さんにはどちらの力も持っていませんが。それは今の段階では、ですね」

「それってどういう意味ですか?」

 ヤバい全然分かんない。

「魔王様から話は受けてると思いますが。人間は昔、魔族と契約、天界人の加護を受け、争いが起こっていました。その時、魔族の契約した者は『魔』の力を。天界人の加護を受けた者は『天』の力を授かっているのです。勿論鍛錬しないと習得は出来ないですが。魔王様と絶対契約を結んだ颯太さんなら、本来『魔』の力を持っていなくとも、練習次第では『魔』の力を扱える様になるって事です」

 なるほどなるほど、とふむふむと頷く僕。
 本当に分かっているのかと疑問の視線を送りながらも、ホロウさんは説明を続ける。

「では次にお教えするは、属性ですね」

 遂に来た属性!
 ゲームやアニメでは、自分の適性な属性持ち、その属性の魔法が扱えるってやつだよね。

「そのご様子ですと、大体の意味は察していると思いますので、ある程度説明は省きますが。まず属性の種類ですが、これは魔族、天界人共に共通で。炎、水、風、土、光、闇の六つがあります。それぞれ生まれ持って有する才能みたいなものです」

「その六つの魔法しか扱えないんですか? なんだかもっと色々あると思ってましたが……」

「これはあくまで属性の大きな括りですので、色々と魔法はございます。例を出すなら、水属性の中に氷もあり、土の中には岩や沼があり、光であれば雷があるなどですね。その種類は膨大過ぎて、簡単にこの六つでカテゴリー化されているのです。この六つの属性こそが、全ての魔法の元素でもありますからかもしれません」

「なるほどですね……。その属性の適性はどうやって調べられるんですか?」

 それはですねと、ホロウさんは自身の鎧の中に手を突っ込む。
 え? もしかしてそこに道具とか収納されてるの?
 と面食らう僕を他所に。ホロウさんは鎧からサイコロみたいな正六面体の石を取り出した。
 サイコロの様な石の面は、各々が色が、赤、青、緑、橙、白、黒と違っていた。

「この石に魔力を注ぎ込めば、その者が持っている属性の色が発光して、適正が判断できるのです。赤なら炎。青なら水。緑なら風。橙なら土。白なら光。黒なら闇ですね」
 
 そう言ってホロウさんは僕の石を渡して、魔力を注ぎ込む様に促す。
 が

「どうやったら魔力を注ぎ込めるのですか?」

 そもそも僕は一度も魔力を扱ったことはない。
 だから、どうすればこの石に魔力を注ぎ込めるのかも知らない。

「大体感覚ですが、そうですね……。自分の体内を捻る様な感じで、感情を沸き立たせるような、体内の血の流れを石に向わす感じでやってみてください」

 僕ってあまり、体で覚えろ系の事は苦手なんだよな……。
 とぶつぶつ零す僕は、一応言われた通りに石に魔力を注ぎ込もうと集中する。
 体内を捻る様に、感情を沸き立たせ、血を石に向わす要領で――――!

「ハァァアアアアアアアッ!」

 けたたましく叫び、意識を石へと集中させる。
 が、石はどこも光らなかった。

「……やっぱり初めてだから、うまくはいかないか……。これはまず、もっと練習してから再挑戦かな……」

「あ、あの……颯太さん。えっとですね……」

 おそるおそると声をかけるホロウさんに、キョトンと首を傾げる。

「驚く事に、一発目なのに颯太さんは魔力の発動は成功しています。私達は、ある程度鍛錬を行えば相手の魔力を感知することが出来ますので、颯太さんから魔力が発せられるのが確認できました……。ですので石が光らなかったってことは……」

 言い淀むホロウさんは、申し訳なさそうに告げた。


「颯太さんは、適正なしってことに……なりますね」


 どうやら僕には、魔法の才能がなかったらしい。

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