青髪空母、発艦開始!
結羅とリーベ、そして新たなメンバーのマシュロが闘争、いや、仲間割れをしていた頃、もう一つのグループは呑気に歩いていた。
本当に何も無い、一本道を。
「何も無かったね」
「だなぁ」
一方、別のチームは。
あの2人、そう、針野結羅とリーベの闘争も知らず、呑気に引き返していた。
「まぁ、あっちが何かいい情報を持ってきたと信じたいですね……って!?」
「ん、どうしたのかぁぁぁぁぁぁびっくりしたァ!」
クリムがコテンと腰を抜かす。それをどうしたかと振り向いたアベルも腰を抜かす。
「何あれ……」
ミカエは武器を構えて唖然としていた。薙刀を持つ手が強くなる。
「巨大イノシシじゃないの……」
体長十メートル位の巨大なイノシシ。
ドスファンゴなどとは比べ物にならない。
「今日のご飯ね」
「ですね。毒は使えませんね」
「あー、久しぶりに動くなぁ」
アベルが体をポキポキと鳴らし、ポケットから取り出したのは──
ミニチュアな艦爆、艦戦、その他諸々の飛行機であった。
「こんな戦闘は80年ぶりくらいかな」
アベルはバックから航空用のゴーグルとヘルメットを付ける。かなり年季が入っている。
「まぁ、もう空母はうんざりだけどね」
「私が前衛で行く! 2人は後衛に回って!」
「了解ですっ」
そう言ってクリムとアベルは後ろに下がる。
「さぁ、来なよ。今日のご飯は猪鍋だね」
イノシシは全速力でミカエに突進してくる。
ミカエは薙刀を構えて、イノシシが大きな角でミカエを振りあげようとしたその時。
「とっ」
と、ミカエはイノシシの角の上に器用に乗る。
イノシシは角を振り上げているので、当然ミカエは上に飛ばされる。
「さぁ、いくよ」
そのまま降ってきたミカエは真っ逆さまに、しかし薙刀を地面に向けながら落ちている。
落下地点は──
イノシシの背中であった。
「ギェ」
という変な声を上げてイノシシはもだえる。
「ミカエさん、どいて下さい!」
ミカエが転がってイノシシから離れる。
するとその数秒後、イノシシの頭上には無数の飛行機が。
その飛行機の足に掛けられているものは──魚雷のようなものである。
「はなてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
その航空機はイノシシの直上に魚雷のようなものを落とす。
大きさの割に凄まじいダメージと共に、イノシシは爆発に巻き込まれる。
「今だっ!」
「はい!」
アベルの合図に息ぴったりのクリムが、矢を放つ。
それは、イノシシの頭、そして、艦爆が落とした魚雷に見事命中する見事な1発であった。
矢は魚雷らしきものに命中し、爆発をすり抜けてイノシシの頭に刺さった。
まるで矢尻に白旗でも付いているかのように。
「……美味しくなさそう」
ミカエがそんな不満をこぼす。
「……まぁ、とりあえず行きましょう。もしかしたら待たせているかもしれません」
クリムがそう言って急かす。
「そうだな……んま、行こうぜ」
年季の入ったヘルメットを被ったままのアベルが歩き出す。
「むぅ……もう少し美味しくなってから来なよ」
ミカエはイノシシにそう声をかけて、背中の薙刀を抜いて、アベルに付いていく。
死人に口なし、死人に耳なし、なのだが。
「おお、結羅! 生きててよかった!」
ミカエ達と合流した瞬間、ミカエは俺にドロップキックを炸裂させた。
「んごっ!? その挨拶がわりのドロップキックは何!?」
可愛い女の子にドロップキックされるのもまた一興なのだが。
「むふふん。サンドバッグに見えたもので」
「わざとだろ。私は知っているぞ」
「それとも甘えて欲しかった? ほら、ソ連! よーしよし、至高だろー」
それ! がソ連に聞こえたのだが、そんなことをどうでも良くさせるかのようにミカエは俺をぎゅっと抱きしめた。乳の感触が凄い。
「はいはい、それで、後ろの金髪碧眼ガールはどうしたんですか?」
クリムが適当にあしらいながらマシュロの名前を聞くので、
「あぁ、この子は──」
「<マシュロ・アンカー>デス! Nice to meet youデス!」
「な、ないすとぅーみーとぅー? 何語よ」
ミカエがくせ毛をクエスチョンマークにして聞く。
「Oh,my God! イングリッシュは世界共通じゃナイんデスか!?」
落胆するマシュロ。まさにorzである。
「それで、何かいい情報貰った?」
ミカエが我に返ったように真顔になって聞いた。
「あぁ、それは──」
「と、いうことです」
「ふぅむ、なるほど……」
俺が勇者に報告書を渡すと、勇者はそれを少し遅めのスピードで読み始めた。この勇者の屋敷には俺を含め、俺の仲間全員がいる。
「とりあえず……あちらのブリューナク王国がなにか危ないことをしでかしている事は間違いないようだね」
まぁ、そういう事だ。臓器がうようよしている城が平常なわけない。
「ともかく、お疲れ様。ありがとう。君たちは少し休暇をやろう。一級スイートルームホテルを六部屋、貸切にしておくように今日中にしておく。それまで、時間を潰してはくれないか」
「は、はい」
やっとこういう事の仕組みが分かってきたか、と安堵した。ようやく時代は平安から鎌倉へと動き出したみたいだ。
「んじゃ、解散で。あ、アベル君? その青髪の子は残ってね」
「……何か」
「んんとねぇ」
アベルは心底緊張していた。口から心臓が飛び出る位に緊張しているのだ。
アベルは慎重そうに勇者に聞く。
が、勇者はそんなことお構い無しにいきなり核心に迫るような質問をしてくるのだった。
「キミ、ここの世界の人間じゃ無いでしょ」
「……ん、図星みたいだね」
図星だ。図星どころか、1ミリも外れていない。
「んで、どこの国から来たの?」
「<蒼龍帝国>から」
「ああ、あの海軍がめちゃ強いところか」
「左様です」
さすがは勇者。戦闘力は皆無だと結羅に聞いていたが、情報力はダテじゃない。
「ま、いいや。君にはそのうち働いて貰うよ。それだけ。戻っていいよ」
「あ、あの」
かなり怖かったのだが、聞いてみた。
この質問一つで死ぬかもしれないが、聞きたい。
聞いてから死にたい。
「あなたの──目的は、何でしょうか」
「<世界征服>」
何の躊躇もなく。
そう言った。
即答で。
「聞きたいのって、それだけ?」
「は、はい。失礼致します」
アベルはペコリと頭を下げて退室した。
が、アベルの頭の中の結論はまとまらない。
何故、ブリューナク王国を偵察したのか。
何をするつもりなのか。
「考えれば考える程、謎だな……」
「ふっかふかやーん」
超一流ウルトラスーパーバリクソ高級ホテルのベッドは、ふっかふかだった。
まるで、雲に飛び込んでいるかのような感覚になる。
「明日は、何するかな……」
トウゲンからはるばるミントの方まで会いに行くか。
「楽しみだなぁ……」
これが、悲劇の始まりになることなど、当然誰も、知る由もない──