結べよ結べ、仲間への恨み
「えっ……」
なんだ、この圧倒的な火力。
そのゴスロリは左手に持った手のひらサイズの小包をかなりの強さで握っている。それもかなり長い時間。
「何……してるんすか……?」
「Look at this デスヨ」
おどおどしながら聞いてみると、そのゴスロリは英語混じりのカタコトな日本語で俺に言い聞かせた。
「見ていて下さい、is!」
いや、isはそこじゃないだろ文法的にも。いやでも、isって<~です>みたいな感じで訳すことも出来るから合ってるっちゃ合ってるのか?
ゴスロリはそう言って蜘蛛の前に堂々と立った。
「火だるまにするis!」
いや、isはそこじゃないんだって! もううずうずしちゃうわよ全く!
ゴスロリはそう言うと、ポケットからライターを取り出した。
そのライターを人差し指と親指で銃のような形で構えた。親指は立たせ、人差し指も立たせる感じだ。霊丸を手1本でやったような感じか。
蜘蛛はこちらへ猛突進してくる。
「今」
ゴスロリがそう呟くと、ゴスロリは親指でライターのスイッチを押した。
カチッ、という音と共にライターから小さな炎が飛び出す。
その炎はゴスロリの人差し指を転がっていく──と思いきや、その人差し指を飛び出し。
炎は赤の線となって蜘蛛に接触したかと思えば。
蜘蛛を巻き込む巨大な火柱が。
「グギャァァァアォォォォォォ!!」
そんなうめき声を上げながら蜘蛛は火葬されていく。
「Mission complete.」
ゴスロリはそうして火葬されていく蜘蛛を焼いている火柱を使って、そのゴスロリの所持品であろうブランド物のバックの中に入っていたマシュマロを同じくブランド物バックに入っていた串に刺して焼きマシュマロをしていた──
「食べマス?」
「あ、いただきまーす」
焼きマシュマロをゴスロリにプレゼントされる。リーベも焼きマシュマロを貰っている。
「なんですかぁこれ。馬鹿みたいに美味いです」
リーベは言葉に表せないようなたゆんたゆんの笑みを浮かべて食べている。
「さっきは thanksデス。このマシュマロはほんのお礼、presentデス」
ゴスロリはそんなことを言いながら焼きマシュマロを大量に作っている。
「そう言えば、ゴスロリちゃん。名前は?」
「ワタシは<マシュロ・アンカー>デス。United States of Americaにlivedデス」
つまり、アメリカ人でアメリカに住んでいたっぽい。
「あ、ワタシ、あなたにgo with you するデス」
「go with you……んんと、付いてくるのか?」
「Oh!! you are very smart!!」
「ど、どうも」
賢いと褒められてしまった。えっへへ。
いや、待てよ?
アメリカから転生してきた感じだから、何かしらの特集能力的なアレは持っているのかもしれないぞ? それともさっきの炎の奴なのか?
「マシュマロ、転生した時に何か貰った?」
「I'm マシュロデス! 覚えて下さい!」
「分かったマシュマロ、それより何か貰った?」
「……ハァ。ワタシはこの小包とライターをgotデス」
一つため息をついてから、マシュロは小包とライターを見せてくれた。あと何故だろう。英語混じりが薄くなった気がした。
「この小包は?」
「この中には<オキシドール>と<二酸化マンガン>が入ってるらしいデス。それもその二つの物質、normalな奴じゃなくてどんなに酸素に化合してもこの中の物質の密度とかは同じらしいデス」
「それって……」
「イエス。これ、永遠にoxygen、つまり<サンソ>が作れるデス」
「そしてこれはライター。これもどんなに火をつけても日がつかないことはないらしいデス」
「……それで、どうして、あんな魔法じみた火柱を?」
「じゃあ、まずはミーと握手するデス」
そう言ってマシュロは手を差し伸べてくる。
俺が何気なくその手を握ると。
「ぬわぁっつ!」
「フーッ!! 火傷するわ!」
「何言ってるんですか? タダの人間でしょう?何を大げさにぃあっつ!」
俺を煽りながらマシュロと握手を交わしたリーベも俺も同じ反応をする。
「ミーの体温はミーの意思で自在にチェンジできるデス。さっきのは72度くらいデス」
彼女の魔法の仕組みはこんな感じだ。
まず、小包をむにむにする。体温は結構上げておくらしい。
そしてその小包から酸素を生み出す。その酸素の行先はマシュロが指定するらしい。どうやってやるのかは不明だが。
そして、その酸素目掛けて炎が飛ぶように<できている>ライターを付けると、助燃性のある酸素がそのライターの炎をどんどんと大きくしていき、火柱を作るらしい。
まさに魔法だ。ゴスロリなのでさらに魔法だ。
「まぁ、それを至る所でトライしてたら捕まってしまって今に至るデス」
「まぁそうなるわな」
俺が軍人でもそうするわ。
「じゃ、レッツゴー、デス!」
マシュロはそんな感じで仕切りながら先導をする。語尾にデスって付けちゃって。何なんだ? 七つの大罪の一つなのか? 魔女教大罪司教なのかぁぁぁぁ!?
それはともかく。
「マシュマロ、ちょっと英語の部分少なくなったね」
「ミーはマシュロデス! ひどいですよレディーのネームでプレイするなんて!」
「あ、いや、的確すぎるツッコミの中申し訳ないのだが、質問に答えておくれ」
「あぁ、ミーは天才なのであなた達の喋り方を少し真似したみたデス」
「ほぉ~」
自分で言ってもいいんじゃないか、と言うくらいの天才だ。
と、思っていると。
高い金属音が聞こえた。
何事じゃ、と後ろを振り向くと。
「何シテルですか、そこのブルーヘア」
マシュロが凄い速さで後ろにつく。
俺の首にはナイフが向けられ、そのナイフはマシュロの竹串によって防がれていた。
「……やるじゃん」
「……何をしてるデスか、と聞いてるデス」
リーベは俺の首に向けているナイフを鞘に戻して、言ったのだった。
「団長を……団長を……返せ!!」
短剣二本を持って目にも止まらぬスピードでかけてくる。
気をつければならない。あちらは敵ではなく、味方。
そして、刺せば死ぬ。
「団長を……!団長……!」
そう言って短剣を振り回す。
俺が横に避けると逆の手の短剣で頭を刺そうとする。
「くっ……!」
痛いのはイヤ。
痛いのは……イヤ。
痛いのは……イヤ!!
「ボーイ、どいてデス! あのブルーヘアはワタシがバーンです!」
「やめて! あいつは俺が<落とし前>つけないとならん! 俺に任せとけ! あと俺の名前は針野結羅だから!」
「オーケィ<ニードルボーイ>! 見てるデス!」
ニードルボーイって何ですか。
「死ね……死ね……死ね……! お前なんて、死んじまえばいいんだ!」
何だろう、この感じ。
どこかで……!!
「お前なんて、死んじまえばいいんだ!」
あれは、誰だったんだっけ……!?
あれは、雪風と付き合って間もない頃。
その男も雪風の事が好きだったんだっけ。
それで俺と雪風が付き合っていると知って……。
何故、恨まれるんだよ。
俺は悪いことなんて何一つ、していないじゃないか。
なのにどうして?
ねぇ。どうしてだよ。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして。
悪い事なんて、してないのに。
<団長>と呼ばれる人間を殺したのも、正当防衛なはずだろう?
あぁクソが。
考えるのもめんどくさい。
今は──
正当防衛のため。
リーベを殺す。
「くっ……!」
肩に刺さっているナイフを抜いて、太刀を抜く。
が。
腹を見ると、腹が無かった。
穴が空いていたのだから。
「え……」
何をしたんだ……?
あいつは……
「ハァ……ハァ……これで……」
リーベの手には手のひらサイズの筒が。
どうやらこの筒から強い空気をどうにかして生み出して、結羅の腹に穴を開けたのだろう。
「団長……? ボク、復讐したよ……?凄いでしょ……褒めてよ……」
だんだんと声が小さくなっていく。
団長が頭を撫でてくれたあの頃。
ボクの活躍を過大な程評価して。
ボクを最後の最期まで見捨てなかった団長は。
もう。
いないんだ。
「ねぇ団長……?褒めてよ……! 褒めてってばぁ……!!」
「っ……く」
結羅が再び目を覚ますと。
目の前のリーベは泣き崩れていた。
多分、俺を殺した罪悪感についての悲しみで泣いているんじゃあ無いんだろうな、というのは一瞬で分かる。
「……何で死なないんだよ……」
リーベがまたナイフを持つ。
しかし、今回はナイフを向ける方向が違う。
それは、リーベの首であった──
「おい!」
「殺してよ! ボクを殺してよ!」
それは、あまりにも悲痛で。
あまりにも罪悪感に駆られてしまうような声であった。
「団長がいないこの世なんて……もうないも同然なんだよ! 団長はボクを唯一認めてくれたのに! こんなクソみたいな世の中、消えてしまえばいいのに!!」
もう悲痛な声ではなく、悲鳴のような声であった。
耳にも、頭にも残るような高い声。
あぁ。
俺も、そんなことを言っていた。
それは、雪風に零していた愚痴であったが。
「 皆死んじまえばいいんだよ……」
「嫌なこと、あった? そっか。でもね」
雪風はこう言って俺を励ましていたのだ。
「君がいつも思うよりも醜く、君がいつも恐れているよりも清く。君がいつも思うよりも世界は、君の思い通りに出来てるよ」
「……!」
リーベが俺のその言葉を聞いて俺の方を向いた。
「それが違うから……!」
「まだ決まった訳じゃないだろ?」
リーベの目からは大粒の涙が。
俺は膝を付いているリーベと同上に膝を付いて言った。
「それは、まだ生きていかないと分からないよ。お前1人でいい。まだもう少しだけ、生きてみなよ」
「……じゃあ、ボクはキミと生きる。キミが死ぬまで、ボクは死なない。キミが死ぬ姿を見るまで、団長に顔合わせは出来ないからね」
リーベは俺に手を伸ばす。
俺が手を差し伸べると、リーベはその手を受け取り立った。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
2人は、歩き出す。
自分の生きる<意味>を見つける、その日まで──
「ごめん、ちょっとトイレに行ってくる」
「バッドタイミングデス。まぁ、いってらデス」
そう言って俺は近くにあるトイレのような小屋に入った。
「……ッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
笑いがこみ上げてくる。
「ハハハハハハ! 滑稽だよ全く!我ながらの猿芝居だなぁ!ックハハハハハハ」
壁に体をぶつけつつ、壁に寄り添って座る。
「ックク、なんてチョロいんだよ……!ハハハハハハ!」
そんな結羅の高らかな笑いは、どこにも、誰にも漏れることはなかった──