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第二十話_一週間2

「さて、どうしたもんか…」
少女が倒れながら庭に来た。

「(普通なら家に入れてとりあえず目を覚ますまでベッドに寝かせるんだよな?)」

そう思い、雅は少女を抱える。
綺麗な髪。やわらかい肌。甘い香り。
それらが雅の自制心を乱す。

「まぁ、俺はロリコンじゃないんでそこまで欲情はしないがな」
「えっ、ミヤビ…様?」
「あ」
スミルと目が合った。

「スミル。俺はロリコンじゃない、それだけは覚えておいてくれ」
「そうじゃなくって!その子!ボロボロじゃないですか!?何かあったんですか!?」
「いや、説明はあとだ。空いてる部屋があったらそこで寝かせてくれないか」
「わかりました」

客間に少女を運ぶ。

「スミル。何か食事を用意してくれないか?この子、腹減ってるみたいでさ」
「わかりました。胃にやさしいものを作ってきますね」
「ああ」

スミルが扉を閉める音が聞こえる。

「どうやって塀を登ってきたんだ?」
そう、フィレイの屋敷の塀はそれなりに高く、身軽な大人でも登るのに苦労する上、塀には有刺鉄線みたいなのが連なっていて、飛び越えでもしない限りこちらには来れないはずだった。

「…まさかな」

“飛び越えてこちらに来たのかもしれない″
そんな考えが浮かんできたがそれはないと振り払う。
理由としてはこちらの世界に来た時、あの教師が
「以上?じゃない!何だその見え透いた嘘は!上空から来ただと?飛行魔法を使えるのは眷属か上級魔導士しかいない!」
と言っていた。
眷属というのは知らないが、とりあえずこんな少女が眷属ではないのは一目瞭然だった。
また、上級魔導士はこんな年端もいかない少女がなれるものではないと思った。

「でも、じゃあなんで入ってこれたんだ?」
「(壊して入ってきたとか?いやいや、普通に無理だな。俺でも壊せなかったんだし、音とか聞こえなかったし)」
なかなか考えが浮かばず、唸っていると。

「お、いい香り」
調理場からこちらに香りが漂ってくる。

「う……ん…」
「お、起きたか」
少女が目を覚ます。
「っ!?」
途端、すぐさま雅にナイフを持って切りかかろうとする。が

「!?」
「残念。没収してあります」
さきほど、少女を抱えたとき、きっちり荷物検査を行っていたのだ。
「変なところは触ってないから安心しろ」

「…!!」
「声を出さないのはいい心がけだな。だが…」
「!!……」
少女が雅の方へと倒れる。
「うぉい!大丈夫か!?」
慌てて支えようとする。

…だが。

少女の右手は動いていた。

雅の心臓の位置。胸の方へと。

「…大丈夫そうだな。とりあえず落ち着いてくれ」
「…!??」
勿論、そんなことを雅が許すはずもなく、少女の手首は雅によって拘束されていた。
「何が目的だ?言っておくが、俺はお前の何倍も強いぞ。抵抗するなら」

「殺す」

ありったけの殺気を込めて言った。
前の世界では命のやりとりは何回かあった。それ故に成せる芸当だった。
「……」
少女の方はというと。
「…ひっ!」
顔を怯えさせ、今にも泣きだしそうな表情をしていた。

「なぁ、教えてくれ。別に俺とか他の奴らに危害を加えなかったら俺も手をださないから」
「…い、言えない…ごめんなさい」
赤毛の少女は俯いてしまう。
「(まぁ、そりゃそうだろう。ばれたらまずいことだから俺を殺そうとしたんだしな)」
「まぁ、いいや。とりあえず飯食え。そろそろできるころだろうから」

タイミングよくスミルがうどんを作って持ってきてくれた。

「(うどんがあるのか。今度作ってもらおう)」
「あ、起きたんですね……」
一瞬スミルが少女に向ける顔がこわばった気がした。それは侮蔑などの感情ではなく、何かの怒りのように見えた。

「どうぞ」と言い終わる前に少女はうどんの皿に飛びついて顔をうずめて食べる。

「………」
「(ボロボロの服。人殺しの技術。テーブルマナーの無さ。普通に考えたら奴隷…とかだろうな)」

スミルを呼び、耳打ちをする。
「なぁ…この世界には奴隷がいるのか?」
「…はい、います。雅さんの想像通り、あの女の子は十中八九『奴隷』でしょう。特徴がほぼ一致しています」

「奴隷と主人のことを詳しく教えてくれ」
「一般的な主従関係ですと、奴隷商店で購入した奴隷は絶対服従で何をしてもいいことになっています。ですので、食べ物を食べさせないなんてことも可能なわけです。ですが、奴隷を意図して、つまり自分が直接的に危害を加えて殺してしまうと、殺人罪として火炙りにされます。奴隷の安否は奴隷商人の名簿帳にしっかりと記録されており、主人の有罪か無罪かも判断できるようになっています。
また、主従関係が切れるときは、主人が契約を破棄するか、亡くなるかのどちらかです。
…私の予想ですが、あの女の子は命令をされてここにやってきたものと思われます。命令をされた奴隷は否が応でもその命令を達成しなければなりません。ですが、この屋敷の塀をどうやって超えたのか、私にはわかりません」

「それは俺も思っていた。あいつは何も喋らない、多分その命令の中に『絶対に口は割るな』とでも言われてるんだろうな、命令の内容について」
「はい、まずは。この子の主人を探さなければなりません。…許せないです。年端もいかない少女に満足なご飯を食べさせてあげないなんて…」

スミルの表情の起伏はあまりなかったが、その眼からは熱く滾る怒りの思いが存在していた。

「それはそうと、命令を遵守できなかったらどうなるんだ?」
「失敗なら失敗の報告が主人の頭の中に直接届くようになります。そこからは主人が奴隷が帰ってくるのを待つか、迎えに行くかの2択になります」
「ふむ、一応警戒しておくか」
そう言って、雅は小さな人形らしきものを20匹ほど作り出す。

「これは…?」
「支援人形(アシストドール)って言ってな。設定して作るとその場所全体で索敵してくれるんだ。今は40くらい作ると結構厳しくなるけどな。よし!お前ら行ってこい!!」
雅の声に合わせて20匹の人形は動き出す。

一方、スミルの反応というと。
「か、かわいいです…」
人形を一匹抱えてにっこりにんまりとしていた。

ーーーフィレイーーー
「(わ、私、ちっちゃい子って苦手なのよね…)」
スミルに呼び出されていたフィレイはドアから顔を覗かせて少女を観察していた。

「(あ、おいしそうに食べてる…かわいいなぁ)」
こちらも、少女の顔に終始ご満悦な様子だった。

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